[2007年文献] 心血管疾患発症に対するメタボリックシンドロームの影響は,非喫煙者よりも喫煙者で大きい(日本人9087人)
Iso H, et al: Metabolic syndrome and the risk of ischemic heart disease and stroke among Japanese men and women. Stroke. 2007; 38: 1744-51.
- 目的
- アジア人において,メタボリックシンドロームと心血管疾患リスクとの関連を検討したエビデンスは少ない。日本人では心血管疾患の危険因子の保有パターンも欧米とは大きく異なっており,また虚血性心疾患が少なく脳卒中が多いという特徴がある。そこで,日本人の男女を長期に追跡し,虚血性心血管疾患の発症リスクに対してメタボリックシンドロームがおよぼす影響について分析した。
- コホート
- 1975~1987年の期間に循環器疾患リスク調査のための健診を受けた40~69歳の12982人のうち,虚血性心疾患既往のある80人,脳卒中既往のある211人,血中HDL-Cまたは血中トリグリセリドのデータが不足していた3604人を除いた9087人(167045人・年,男性3595人,女性5492人)を,2001年まで18.3年間(中央値)追跡した。
追跡期間中に転居したのは343人(4 %),死亡したのは1001人(11 %)。
この研究の対象者は,国内各地の以下のコホート研究のいずれかに参加していた。
1975~1980年: 井川(秋田),石沢(秋田),北内越(秋田),野市(高知)
1981~1987年: 協和(茨城)
1975~1984年: 八尾(大阪)
なお,この研究におけるメタボリックシンドロームの診断はNCEP IIIの定義に準拠したが,ウエスト周囲長が得られなかったため,BMIにて代用している。
以下の基準(MetS因子)のうち3つ以上を満たすものをメタボリックシンドロームとした。(1) 血中トリグリセリド 150 mg/dL以上 (2) HDL-C が男性で40 mg/dL未満,女性で50 mg/dL未満 (3) 空腹時血糖 110 mg/dL以上,非空腹時血糖が140 mg/dL以上,または治療中 (4) 血圧 130 / 85 mmHg以上または降圧薬治療中 (5) BMI 25.0 kg/m2以上 - 結 果
- ◇発症数と発症頻度
冠動脈疾患を発症したのは116人(男性74人,女性42人)。うち,心筋梗塞確診例(defined myocardial infarction)が43人,心筋梗塞疑い例(probable myocardial infarction)が33人,狭心症が25人,心突然死が19人,心筋梗塞と狭心症を合併していたのが4人だった(診断はWHO Expert Committeeの基準による)。
冠動脈疾患の発症頻度は1000人・年あたり0.7(男性1.2,女性0.4)。
脳梗塞を発症したのは256人(男性144人,女性112人)。
脳梗塞の発症頻度は1000人・年あたり1.6(男性2.3,女性1.1)。
◇MetS因子の集積と心血管疾患発症リスク
MetS因子の保有数ごとに冠動脈疾患発症のハザード比を算出した結果,MetS因子の数は冠動脈疾患リスクと有意な関連を示した(P for trend<0.001)。MetS因子を3つ以上有する人(メタボリックシンドローム)における冠動脈疾患発症のハザード比は2.4(95 %信頼区間1.6-3.6,P<0.001)だった。
MetS因子の保有数ごとに脳梗塞発症のハザード比を算出した結果,MetS因子の数は脳梗塞リスクと有意な関連を示した(P for trend<0.001)。MetS因子を3つ以上有する人(メタボリックシンドローム)における脳梗塞発症のハザード比は1.8(95 %信頼区間1.3-2.4,P<0.001)だった。
◇喫煙,および総コレステロール高値の影響
非喫煙者では,メタボリックシンドロームがある場合の冠動脈疾患および脳梗塞発症のハザード比がそれぞれ1.9,1.4(冠動脈疾患のみP<0.05)だった。一方,喫煙者では,メタボリックシンドロームがある場合の冠動脈疾患および脳梗塞発症のハザード比がそれぞれ3.0,2.5(いずれもP<0.001,vs. 非メタボリックシンドローム)と,有意なリスク増加が見られた。すなわち,メタボリックシンドロームと冠動脈疾患・脳梗塞との関連は,喫煙者でより強く認められた(相互作用: 冠動脈疾患でP=0.09,脳梗塞でP=0.04)
同様に,総コレステロール値が220 mg/dL以上の人では,メタボリックシンドロームがある場合の冠動脈疾患および脳梗塞発症のハザード比がそれぞれ1.3,2.4(脳梗塞のみP<0.05,vs. 非メタボリックシンドローム)だった。一方,総コレステロール値が220 mg/dL未満の人では,メタボリックシンドロームがある場合の冠動脈疾患および脳梗塞発症のハザード比がそれぞれ3.8,1.7(いずれもP<0.001,vs. 非メタボリックシンドローム)と,有意なリスク増加が見られた。
すなわち,冠動脈疾患に関してのみ,総コレステロール値が220 mg/dL未満の人では220 mg/dL以上の人よりもメタボリックシンドロームの影響が大きかった(相互採用: P=0.04)。
◇結論
以上のように,日本人においても,メタボリックシンドロームは冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と関連していることが明らかになった。さらに,メタボリックシンドロームに関連する因子の保有数が多いほど冠動脈疾患および脳梗塞リスクが増加するという量-反応関係が見られた。また,心血管疾患発症に対するメタボリックシンドロームの影響は非喫煙者よりも喫煙者で大きかった。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康