[2007年文献] 過体重・肥満の閉経後女性では運動量が多いほど心肺機能が改善した(DREW Trial)
Church TS, et al: Effects of different doses of physical activity on cardiorespiratory fitness among sedentary, overweight or obese postmenopausal women with elevated blood pressure: a randomized controlled trial. JAMA. 2007; 297: 2081-91.
- 目的
- 心肺機能が低下すると心血管疾患死亡および全死因死亡リスクが高くなり,逆に心肺機能が改善するとリスクが低くなることが知られている。成人の心肺機能に対する身体活動の影響は非常に大きいため,心血管疾患予防の観点から,安全で有効な身体活動の量や頻度を明らかにしていくことが必要である。そこで,閉経後の過体重の米国人女性において,運動が心肺機能におよぼす影響を運動量ごとに分析した。
- コホート
- DREW(Dose-Response to Exercise in postmenopausal Women) Trial。
2001年4月~2005年6月に女性4545人に対して電話による事前調査を行い,以下の基準すべてに該当する464人を対象者とした。
45~75歳,女性,閉経後,過体重または肥満(BMI 25~43 kg/m2),血圧が高め(収縮期血圧120~159.9 mmHg),座ることの多い生活習慣(20分以上の運動を週3日以上しない,かつ1日の歩数8000歩未満)
・ 除外基準: 脳卒中既往,心臓発作既往,および運動が危険と考えられるその他の重症疾患既往
・ 観察期間: 6か月
対象者は以下の4群に無作為割付された。
なお,低,中,高運動群の運動量はそれぞれ,米国NIHのConsensus Development Panel(合意形成委員会)による推奨運動量の50 %,100 %,150 %に相当する。
・ 対照群(102人): 運動なし。従来の生活をそのまま6か月間続けるように指示した。
・ 低運動群(155人): 1週間に,体重1 kgあたり4 kcalを消費する運動を行う。
・ 中運動群(104人): 1週間に,体重1 kgあたり8 kcalを消費する運動を行う。
・ 高運動群(103人): 1週間に,体重1 kgあたり12 kcalを消費する運動を行う。
なお,中運動群および高運動群では4 kcal / kgの運動量から始め,1週間に1 kcalずつ増やしていった。
心肺機能の評価には最大絶対酸素消費量(abs,L/分),最大相対酸素消費量(rel,mL/kg/分)およびピーク出力(ワット)を用いた。また,すべての群において歩数を記録した。
運動には,自転車エルゴメーター(半横臥位)およびトレッドミルを用いた。運動の強度は,酸素消費量()が最大値の50 %となる心拍数を目安として決定した。体重(毎週測定)と運動の強度より,カロリー消費量を算出した。
◆ベースライン時対象背景
年齢: 57.3歳,BMI: 31.8 kg/m2,収縮期血圧: 139.8 mmHg,教育年数: 14.0年,白人以外の人種: 35 %。
呼吸交換率: 1.13,最大abs: 1.30 L/分,最大rel: 15.5 mL/kg/分 - 結 果
- ■ 結果
◇ 運動機能と肥満状況の変化
介入後のabs,rel,およびピーク出力は,いずれの運動群においても対照群より有意に高い値を示した。
体重,体脂肪率では有意差がなかったが,ウエスト周囲長は,いずれの運動群においても対照群より有意に低値を示した(P<0.05)。
介入後の各エンドポイントの値は以下のとおり(それぞれ対照群,低運動群,中運動群,高運動群の値)。
最大絶対酸素消費量(abs,L/分): 1.28,1.33,1.35,1.39(低運動群 vs. 中運動群を除くすべての比較でP<0.001)
最大相対酸素消費量(rel,mL/kg/min): 15.5,16.2,16.4,16.8(低運動群 vs. 中運動群を除くすべての比較でP<0.001)
ピーク出力(ワット): 93.4,99.6,101.2,105.4(低運動群 vs. 中運動群および中運動群 vs. 高運動群を除くすべての比較でP<0.001)
体重: 83.7 kg,83.3 kg,82.9 kg,83.3 kg
体脂肪率: 29.8 %,28.1 %,28.3 %,28.6 %
ウエスト周囲長: 101.2 cm,98.1 cm,98.6 cm,98.2 cm
◇ 心血管疾患の危険因子の変化
介入後の血圧は,いずれの運動群においても対照群との有意な差はなかった。ただし,高運動群における収縮期血圧は,低運動群に比べて有意に低かった(P=0.03)。
介入後の血圧の変化でも,いずれの運動群においても対照群との有意な差はなかった。ただし,収縮期血圧の変化を見ると,高運動群(-3.3 mmHg)では低運動群(+0.8 mmHg)よりも有意に血圧が低下していた(P=0.02)。
血中コレステロールや血糖値では有意差は見られなかった。
介入後の心血管疾患危険因子の値は以下のとおり(それぞれ対照群,低運動群,中運動群,高運動群の値)。
収縮期血圧の変化: -1.7 mmHg,+0.8 mmHg,-1.0 mmHg,-3.3 mmHg
拡張期血圧の変化: -0.5 mmHg,+0.9 mmHg,+0.1 mmHg,-0.4 mmHg,
高血圧(収縮期血圧140 mmHg以上)
ベースライン時: 54.9 %,47.7%,51.0 %,48.5 %
介入後: 43.1 %,47.7 %,42.3 %,36.9 %
降圧薬服用開始率: 2.3 %,3.8 %,9.4 %,3.4 %
LDL-C: 122.3 mg/dL,121.3 mg/dL,119.3 mg/dL,120.2 mg/dL
HDL-C: 57.2 mg/dL,57.2 mg/dL,57.1 mg/dL,56.0 mg/dL
トリグリセリド: 135.2 mg/dL,122.7 mg/dL,126.0 mg/dL,132.9 mg/dL
空腹時血糖: 95.8 mg/dL,94.0 mg/dL,93.6 mg/dL,93.4 mg/dL
◇ 結論
以上のように,運動不足,過体重・肥満の閉経後女性において,運動が心肺機能を改善させることが明らかになった。この関連には明らかな量-反応関係が見られた。さらに,1週間あたり4 kcal/kgを消費する程度の運動(時間換算で1週間に約72分)でも心肺機能の有意な改善につながったという結果は特筆に価する。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康