[2007年文献] 肥満は「朱に交われば赤くなる」(The Framingham Offspring Study)

Christakis NA, et al: The spread of obesity in a large social network over 32 years. N Engl J Med. 2007; 357: 370-9.pubmed

目的
米国における肥満の増加は大きな問題となっている。この肥満の急激な増加を遺伝的要因だけから説明することは不可能であり,肥満の背景には他にもさまざまな社会的・環境的要因があると考えられている。そこで,この「肥満の流行」に対人関係を介した肥満の広がりが関与している可能性を考え,フラミンガム研究のオフスプリングコホート参加者を対象に,対人関係と肥満の関連について分析した。
コホート
Framingham Offspring Study。
Framingham Heart Studyオリジナルコホートの子供とその配偶者5124人を32年間追跡(1971~2003年)。
女性の割合は53 %,平均年齢は38歳,平均教育年数は13.6年だった。

社会的ネットワークの把握には,これまでフラミンガム研究で用いられてきた追跡票を用いた。追跡票は追跡を容易にする目的で作成されたもので,1973年から2003年にかけて3年ごとに行われた計7回の健診時に,参加者に以下の内容を記入してもらうようになっていた。
   ・ 近親者(親,配偶者,兄弟,子)の氏名,生死,および住所
   ・ 親しい友人の氏名および住所(少なくとも1人以上)
その結果,オフスプリングコホートの参加者である5124人の「本人」に対し,フラミンガム研究のいずれかのコホートに登録されている「関係者」が6943人同定された(ただし21歳以上のみ)。この合計12067人の「個人」からなる社会的ネットワークについて解析を行った(★用語説明参照)。

肥満はBMIにより評価した(30 kg/m2以上)。
対人関係と肥満の関連は,経時的ロジスティック回帰分析を用いて解析した。
結 果
◇ 社会的ネットワークの概要
得られた社会的ネットワークを構成する「対人関係」の総数は38611件。すなわち,「本人」1人あたり7.5件の「対人関係」が明らかになった。
また,このネットワークの中に親しい友人がいると答えたのは,5124人の「本人」のうち45 %だった。
友人関係の総数は3604件。すなわち「本人」1人あたり0.7件の友人関係が明らかになった。

◇ 「社会的な距離」および「地理的な距離」と肥満の連鎖
肥満の連鎖に対し,社会的な距離および地理的な距離がどのような影響をおよぼすのかを解析した。その結果,「本人」が肥満であるときに「関係者」が肥満になる確率は,肥満の連鎖がないと仮定した場合よりも約45 %高かった。
また,「本人」が肥満であるときに「関係者の関係者」(社会的な距離=2),および「関係者の関係者の関係者」(社会的な距離=3)が肥満になる確率は,肥満の連鎖がないと仮定した場合よりもそれぞれ約20 %,約10 %高かった。
このように,「社会的な距離」が近いほど,肥満の連鎖が起こりやすいという傾向が見られた。

一方,肥満の連鎖は地理的な距離とは関連していなかった。

◇「対人関係」の性質と肥満の連鎖
「対人関係」の種類ごとに,「関係者」が肥満であるときに「本人」が肥満になる確率がどのくらい増えるかを算出した。結果は以下のとおり。
   同性の友人: +71 %
     女性同士: 有意な関連なし
     男性同士: +100 %
   異性の友人:  有意な関連なし

   友人(本人が思っている): +57 %
   友人(双方向): +171 %
   友人(と思われている):  有意な関連なし

   配偶者: +37 %

   兄弟姉妹: +40%
     同性の兄弟姉妹: +55 %
        女性同士: +67 %
        男性同士: +44 %
     異性の兄弟姉妹:  有意な関連なし
   
   隣人:  有意な関連なし

◇結論
以上のように肥満は,社会的ネットワークの中で識別可能な一定のパターンをもって連鎖していると考えることができる。この連鎖のプロセスに対し,地理的な距離よりも社会的な距離のほうが重要な役割を果たしていた。また,友人・兄弟関係においては,肥満が連鎖する確率は異性同士よりも同性同士のほうが高かった。従って,対人関係を介して肥満が広がっていくことが,肥満の急激な増加につながっている可能性が考えられる。そのため,グループ単位でエクササイズに参加するなど,この連鎖を逆に利用して肥満を抑制することも可能と考えられる。

★ 用語解説
・ 本人: 分析される対象。
・ 関係者: 「本人」とのあいだに「対人関係」を持つ人。「本人」の行動に影響を与えると考えられる。
・ 個人: ネットワークを構成する要素としての人。本報では,「本人」および「関係者」の合計12067人の1人1人をさす。
・ 対人関係: 「個人」と「個人」のつながり。双方向的なつながりと一方向的なつながりの両方があるが,本報では,家族は双方向的,友人は基本的に一方向的な関係とした。もちろん,互いに友人であることを追跡票に記入していれば双方向的となる。
・ 社会的な距離: 「個人」と「個人」のあいだの社会的な距離を数値であらわしたもの。たとえば「本人と関係者」=1,「本人と(本人の)関係者の関係者」=2とする。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.