[2007年文献] 男性のCRP高値は左室機能の低下と関連する(MESA)
男性ではCRP高値と左室機能低下との関連が明らかになったが,左室心筋重量で調整することによりこの関連は弱められた。女性ではlog CRPと左室機能との関連はみられなかった。
Rosen BD, et al: Relationship between C-reactive protein levels and regional left ventricular function in asymptomatic individuals: the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2007; 49: 594-600.
- 目的
- 炎症反応は,動脈硬化およびうっ血性心不全の進展に対して重要な役割を果たしており,特に炎症マーカーであるCRPは心血管疾患のリスクと関連することがわかっている。しかし,CRPと無症候性左室機能障害との関連についてはこれまでに明らかにされていない。そこで,心血管疾患既往のない集団においてCRPと局所左室機能との関連を検討した。
- コホート
- MESA(The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis): 45~85歳で心血管疾患既往のない6814人(非ヒスパニック系白人,黒人,ヒスパニック系またはアジア系)を2001年9月~2002年9月に登録し,米国の6施設で追跡(ノースカロライナ州ウインストン・セーラム,ニューヨーク州ニューヨーク,メリーランド州ボルティモア,ミネソタ州ミネアポリス,イリノイ州シカゴ,カリフォルニア州ロサンゼルス)。
このうち,ベースライン時に無作為抽出によりMRI検査を受けており,CRPデータに不足がなかった1186人について断面解析を行った(Tagged MRI Study)。
平均年齢66.4歳。
◇ 対象背景
Tagged MRI Studyコホートでは,MESAコホート全体に比べて男性の割合が高く(Tagged MRI Study 54 % vs. MESA 47 %,P<0.001),非ヒスパニック系白人が多く(P<0.001),ヒスパニック系が少なかった(P<0.001)が,主要な危険因子の分布およびCRPの分布には有意差はみられなかった。
男女間で有意差のあった項目は以下のとおり。
BMI: 男性27.2 kg/m2,女性28.3 kg/m2(P<0.001),拡張期血圧: 75 mmHg,69 mmHg(P<0.001),高血圧: 41.7 %,47.5 %(P=0.05),総コレステロール: 186 mg/dL,202 mg/dL(P<0.001),LDL-C: 116 mg/dL,120 mg/dL(P=0.02),HDL-C: 46 mg/dL,56 mg/dL(P<0.001),喫煙率: 82 %,48 %(P<0.001),血糖: 110 mg/dL,103 mg/dL(P<0.001),左室心筋重量: 166 g,122 g(P<0.001) - 結 果
- ◇ CRP
CRPの平均値は男性で1.3 mg/L,女性で2.6 mg/Lだった(P<0.001)。
女性では,脂質低下薬服用者のCRPが,非服用者に比べて有意に低かった(2.1 mg/L vs. 2.7 mg/L,P=0.02)。
ホルモン補充療法を受けている女性(全体の27 %)のCRPは,受けていない女性に比べて有意に高かった(3.5 mg/L vs. 2.3 mg/L,P=0.0004)。
男女とも喫煙者のCRPは,禁煙者,喫煙未経験者のいずれに比べても有意に高かった(P=0.001)。
CRP値の分布には歪みがあるため,対数変換してから検討を行った(log CRP)。
男女とも,log CRPと左室心筋重量には有意な関連が認められた(男性: log CRPが1 mg/L上昇するごとに左室心筋重量が5.0 g増加,P=0.001,女性: 1 mg/L上昇するごとに4.5 g増加,P<0.001)。
この関連は,主要な危険因子を考慮に入れて多変量解析を行ったのちも有意であった。
◇ CRPと局所左室機能
左室機能の評価にはMRI短軸断層画像を用い,peak systolic midwall circumferential strain (Ecc)の測定を行った。また,以下の部位ごとに局所左室機能の評価を行った: 左前下行枝部[LAD],左回旋枝部[LCX],右冠動脈部[RCA]。
その結果,男性のlog CRPは,LAD,LCX,RCAのすべての機能低下と有意な関連を示した。この有意性は,年齢,人種,腹囲,主要な危険因子で調整しても変わらなかった。しかし,左室心筋重量により調整を行ったのちもlog CRPとの有意な関連を示したのはLADの機能低下のみであった。
女性では,いずれの部位でもlog CRPと機能低下との関連は見られなかった。この結果は,ホルモン補充療法,左室心筋重量などで調整を行ったのちも変わらなかった。
◇ 結論
男性ではCRP高値と左室機能低下との関連が明らかになったが,左室心筋重量で調整することによりこの関連は弱められた。女性ではlog CRPと左室機能との関連はみられなかった。左室機能障害および心不全の進展に対し,性別,左室心筋重量,および炎症反応がどのように関連しているのかを明らかにするため,より詳細な研究が望まれる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康