[2007年文献] メタボリックシンドロームは,男性では55~60歳にピーク,女性では加齢とともに増加(日本人112,960人)

Kuzuya M, et al: Age-specific change of prevalence of metabolic syndrome: longitudinal observation of large Japanese cohort. Atherosclerosis. 2007; 191: 305-12.pubmed

目的
複数のメタボリックシンドロームの診断基準が提唱されるなか,その有病率を比較することは難しくなっている。また,単一コホートにおいてメタボリックシンドロームの有病率を長期的に検討した研究はこれまでにない。そこで,メタボリックシンドロームおよび各構成因子に対する加齢の影響について,日本人コホートにおける観察を行った。
コホート
愛知県に居住し,1989~2004年の期間に健診を受けた事業所勤務者およびその家族112,942人(男性70,996人,女性41,946人)。平均年齢は男性44.6歳,女性43.4歳。
このうち57 %の人が追跡健診を1回以上受診した。追跡健診への平均参加回数は男性3.4回,女性3.0回。

メタボリックシンドロームの診断には,日本の基準およびNCEP-ATP III基準を用いた。ただし,腹囲の測定を行っていなかったため,いずれの基準についてもBMI 25 kg/m2以上を肥満の基準として代用した(改変日本基準,改変NCEP基準)。
◇ 改変日本基準(メタボリックシンドローム診断基準検討委員会による)
肥満に加え,以下の基準のうち2つ以上を満たす場合にメタボリックシンドロームと診断した。
  (1) トリグリセリド 150 mg/dL以上またはHDL-C 40 mg/dL未満
  (2) 収縮期血圧 130 mmHg以上,拡張期血圧85 mmHg以上,または降圧治療
  (3) 空腹時血糖 110 mg/dL以上

◇ 改変NCEP基準
以下の基準のうち3つ以上を満たす場合にメタボリックシンドロームと診断した。
  (1) BMI 25 kg/m2以上
  (2) トリグリセリド 150 mg/dL以上
  (3) HDL-C 男性40 mg/dL未満,女性50 mg/dL未満
  (4) 血圧 130 / 85 mmHg以上
  (5) 空腹時血糖 110 mg/dL以上
結 果
対象者全員のそれぞれの初回健診時(1989~2004年)の結果を用いると,メタボリックシンドローム(MetS)の有病率は,改変日本基準で男性7.8 %,女性2.2 %,改変NCEP基準で11.6 %,4.0 %だった。

◇ 年齢層ごとのMetS有病率
年齢層ごとのMetS有病率(受診年度による調整後)を比較した結果は以下のようになった。それぞれ改変日本基準/改変NCEP基準による値。
   39歳以下: 男性(5.7 %/8.3%),女性(0.5 %/1.1 %)
   40~49歳: 男性(8.1 %/11.9 %),女性(1.9 %/3.5 %)
   50~59歳: 男性(9.9 %/15.0 %),女性(4.0 %/7.4 %)
   60~69歳: 男性(9.6 %/15.2 %),女性(7.8 %/13.7 %)
   70歳以上: 男性(7.4 %/13.6 %),女性(7.2 %/12.1%)
男性では,用いる基準によって,有病率がピークとなる年齢層に違いがみられた(改変日本基準によると55歳前後,改変NCEP基準によると60歳前後)。女性では,いずれの基準を用いた場合でも,年齢とともに有病率が増加する傾向がみられた。
また,すべての性別・年齢層において,改変NCEP基準による有病率は,改変日本基準による有病率よりも有意に高かった。

MetSの構成要素について,同様に年齢層ごとの保有率を比較した結果は以下のようになった(改変日本基準による)。
   ・ 肥満: 男性では20~50歳の保有率が高く,女性では70歳以上の保有率が高かった。
   ・ 脂質異常: 肥満と同様に,男性では20~50歳の保有率が高く,女性では70歳以上の保有率が高かった。
   ・ 血圧高値: 男女とも,加齢とともに保有率が上昇していた。
   ・ 耐糖能異常: 男性では60歳まで上昇しその後減少,女性では70歳まで上昇しその後減少していた。

◇ 出生コホートごとのMetS有病率
出生コホート効果*の影響を検討するため,出生コホート(1920年代,1930年代,1940年代,1950年代,1960年代,1970年代生まれ)ごとに,特定の年齢におけるMetS有病率を比較した(*たとえば同じ50歳という年齢でも,1930年代生まれの人が50歳になった場合と1950年代生まれの人が50歳になった場合とでは,生活習慣の変化などにより有病率が異なると考えられる)。
その結果,いずれの基準においても男性の少なくとも40~55歳の範囲でより最近に生まれたコホートのほうがMetS有病率が高いことがわかった。女性では,より最近に生まれたコホートのほうがMetS有病率が低かった。

MetSの構成要素ごとに同様の比較を行った結果,出生コホート効果がみとめられたのは以下の項目。
   ・ 男性の肥満: 出生年代の遅いコホートのほうが保有率が高い
   ・ 男性の耐糖能異常: 出生年代の遅いコホートのほうが保有率が高い

◇ MetS有病率の長期的比較
改変日本基準および改変NCEP基準を用い,1989~2004年にかけてのMetSの有病率(50歳を基準として年齢調整後)を比較した。その結果,いずれの基準においても,男性では40歳代および50歳代で有意な増加傾向(P<0.0001),女性では改変日本基準によると50歳代および60歳代で,改変NCEP基準によると40歳代,50歳代および60歳代で,有意な減少傾向がみとめられた(改変日本基準: P<0.01,改変NCEP基準: P<0.0001)。

◇ 結論
以上のように,改変日本基準を用いた場合よりも改変NCEP基準を用いた場合のほうがMetS有病率が有意に高くなった。年齢層ごとのMetS有病率はいずれの基準を用いてもほぼ同様の傾向を示し,男性では55~60歳にピークとなり,女性では加齢とともに増加していた。また,1989~2004年にかけての長期的な傾向を検証した結果,いずれの基準を用いても男性ではMetSが有意に増加し,女性では有意に減少していることが明らかになった。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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