[2007年文献] apo B/apo A-I比のCHD予測能は既存の脂質マーカーと同等(Framingham Offspring Study)
Ingelsson E, et al: Clinical utility of different lipid measures for prediction of coronary heart disease in men and women. JAMA. 2007; 298: 776-85.
- 目的
- これまでの多くの疫学研究や臨床試験により,LDL-Cが冠動脈疾患の危険因子であることや,治療によりLDL-Cを下げることの有効性などが明らかになってきた。一方,この10年ほどでアポリポ蛋白に関する研究が進み,アポリポ蛋白B高値,およびアポリポ蛋白A-I低値が冠動脈疾患の発生に関与している可能性が示されている。しかし,既存の研究にはデータが不足しているものや統計解析が適切でないものが多く,一致した結論は得られていない。そこで,Framingham Offspring Study参加者において,種々の脂質マーカーの冠動脈疾患予測能を比較した。
- コホート
- Framingham Offspring Study(Framingham Heart Studyオリジナルコホートの子どもおよびその配偶者5124人を1971年から追跡し,4年ごとに検査を実施)。
第4回(1987~1991年)の検査に参加した30~74歳の3951人のうち,心血管疾患既往のある331人,追跡データが不足していた16人,トリグリセライド値が400 mg/dLを超えていた,または各脂質マーカーの値などが不足していた282人を除いた3322人を15年間(中央値)追跡した。
平均年齢は51歳,女性の割合は53 %。
食後12時間をおいたのちに採血を行った。解析に用いた脂質マーカーは,総コレステロール,HDL-C,LDL-C,非HDL-C,アポリポ蛋白(apo)A-I,apo B,総コレステロール/HDL-比,LDL-C/HDL-C比,apo B/apo A-I比。 - 結 果
- 冠動脈疾患(CHD)を発症したのは291人(男性198人,女性93人)。
・ 各脂質マーカーとCHDの発症リスク
男女ともにCHD発症リスクと有意な正の関連を示したのは非HDL-C,アポリポ蛋白(apo)B,総コレステロール/HDL-C比,LDL-C/HDL-C比,apo B/apo A-I比で,有意な負の関連を示したのはHDL-C。
それぞれの脂質マーカーが1 SD増加した場合のCHD発症ハザード比は以下のとおり(95 %信頼区間,*P=0.01もしくはP<0.01)
総コレステロール: 男性1.12(0.97-1.28),女性1.18(0.96-1.44)
LDL-C: 1.11(0.97-1.27),1.20(0.99-1.46)
HDL-C: 0.71(0.60-0.83)*,0.72(0.57-0.92)*
apo A-I: 0.83(0.72-0.96)*,0.85(0.68-1.07)
apo B: 1.37(1.20-1.57)*,1.38(1.15-1.67)*
非HDL-C: 1.22(1.06-1.40)*,1.28(1.06-1.56)*
総コレステロール/HDL-C比: 1.39(1.22-1.58)*,1.39(1.17-1.66)*
LDL-C/HDL-C比: 1.35(1.18-1.54)*,1.36(1.14-1.63)*
apo B/apo A-I比: 1.39(1.23-1.58)*,1.40(1.16-1.67)*
総コレステロールとLDL-Cは男女ともにCHD発症と有意な関連を示さなかったが,男女をあわせた解析においては,いずれもCHD発症と有意に関連した。
・ 各脂質マーカーを用いた多変数モデルのCHD予測能
次に,各脂質マーカーを用いた多変数モデルの予測能を,適合度検定の指標であるC index(1に近いほど予測能が高い),χ2検定による尤度比,ROC解析により比較した。その結果,いずれにおいてもapo B/apo A-I比の予測能は他の脂質マーカーと同等であった。
そこで,apo B/apo A-I比および総コレステロール/HDL-C比をそれぞれ多変数モデルに含めた場合に,10年間のCHD発症リスクの予測能が上昇するかどうかを検討した。男性ではapo B/apo A-I比,総コレステロール/HDL-C比ともに有意な予測能の上昇がみられたが,女性ではCHD発症数が少なかったこともあり,いずれのマーカーを用いても有意な予測能の上昇はみられなかった。
・ apo B/apo A-I比と既存の危険因子の比較
フラミンガムリスクスコアで用いられている各危険因子(総コレステロール/HDL-C比を含む)を含めた多変数モデルにおいては,apo B/apo A-I比とCHD発症リスクとの間に有意な関連はみとめられなかった。
◇ 結論
新しい脂質マーカーであるapo B/apo A-I比はCHD発症リスクの有意な危険因子であったが,種々の危険因子で調整を行うと,この関連は消失した。また,apo-B/apo A-I比のCHD予測能は,総コレステロール/HDL-C比を含むその他の脂質マーカーと同等であった。このことから,これまで主に用いられてきた脂質マーカーの測定が可能であれば,apo Bやapo A-Iを測定することによるメリットはあまりないと考えられる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康