[2007年文献] 中年男性では,非アルコール性脂肪肝は糖尿病の危険因子(日本人男性3189人)
Shibata M, et al: Nonalcoholic fatty liver disease is a risk factor for type 2 diabetes in middle-aged Japanese men. Diabetes Care. 2007; 30: 2940-4.
- 目的
- 非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)は慢性肝機能障害のうちもっとも一般的なもので,過剰なアルコール摂取がないにもかかわらず肝細胞に脂質の蓄積がみられる状態である。日本人でも,生活習慣の欧米化にともなってNAFLDが増加しており,これまでに肥満,2型糖尿病,脂質異常症,高血圧などとの関連が指摘されてきた。しかし,NAFLDと糖尿病発症との関連について検討した研究はこれまでにない。そこで,NAFLDと耐糖能異常および糖尿病の発症リスクとの関連を明らかにするため,前向きコホート研究およびコホート内症例対照研究による検討を行った。
- コホート
- ◇ 前向きコホート研究
九州の電気通信系企業に勤務し,1997年4月~2005年5月に企業健診を受診した40歳以上の男性6798人から,ベースライン時のアルコール摂取量(100 %エタノール換算)が1日20 g以上の人および追跡期間が1年未満の人(1405人),75 g経口ブドウ糖負荷試験の結果による耐糖能障害 / 空腹時高血糖 / 糖尿病(1728人),高血圧 / 脂質異常症 / 肝疾患 / 甲状腺疾患により服薬中(394人),B型もしくはC型ウイルス性肝炎陽性(246人),冠動脈疾患または脳卒中既往(14人),胃切除術歴(72人)を除いた3189人を約4年間追跡。
腹部超音波検査の結果により,全体をNAFLD群(802人)および非NAFLD群(2387人)の2つのカテゴリーに分けて解析を行った。
追跡人・年はそれぞれ3135人・年,9744人・年で,平均追跡期間は3.9年,4.1年。
◇ コホート内症例対照研究
前向きコホート研究の対象者のなかから,追跡期間中に糖尿病を発症したすべての人(109人)を糖尿病発症群としてグループ化し,設定した。また,糖尿病発症者1人につき10人の糖尿病非発症者(年齢,追跡期間,BMIでマッチング)をコホート内から無作為に抽出し,対照群(1044人)として設定した。
◇ 診断基準
・ 糖尿病
毎年の企業健診で75 g経口ブドウ糖負荷試験を実施し,米国糖尿病学会(ADA)の基準にしたがって空腹時血糖≧126 mg/dLかつ負荷後2時間血糖≧200 mg/dLを糖尿病の診断基準とした。コホートの年齢層(40歳以上)を考慮し,発症した糖尿病はすべて2型とした。
・ メタボリックシンドローム
日本内科学会による基準を用い,肥満に加えて以下の3つの基準のうち2つ以上を満たす場合にメタボリックシンドロームと診断した。なお,腹囲の測定を行っていなかったため,腹囲基準はBMIで代用し,男女とも25 kg/m2以上を肥満とした。
(1) トリグリセリド 150 mg/dL以上またはHDL-C 40 mg/dL未満
(2) 血圧 130 / 85 mmHg以上
(3) 空腹時血糖 110 mg/dL以上 - 結 果
- 【1】 前向きコホート研究
非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)群では,非NAFLD群よりもBMIが有意に高かった(それぞれ24.8 kg/m2 vs 22.5 kg/m2,P<0.0001)。
NAFLD群における糖尿病発症は65人(発症率2073 / 10万人・年)で,非NAFLD群では44人(452 / 10万人・年)だった。
NAFLD群における糖尿病発症リスクは,非NAFLD群よりも有意に高く,この結果はBMIによる調整を行っても同様であった(年齢およびBMIで調整したハザード比: 5.5,95 %信頼区間3.6-8.5,P<0.001)。
【2】 コホート内症例対照研究
糖尿病発症群で対照群よりも有意に高い値を示していたのは,NAFLDの割合,負荷後1時間血糖,負荷後2時間血糖,HbA1c,血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase: AST),血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase: ALT),アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase: ALP)で,有意に低い値を示していたのはHDL-C。
なお,メタボリックシンドロームの有病率は両群同等だった(糖尿病発症群7.3 % vs. 対照群 6.1 %)。
NAFLDを有する人では,NAFLDを有しない人にくらべ,糖尿病発症のリスクが約4倍と有意に高かった。この結果は年齢およびBMIによる調整を行っても同様であった(年齢およびBMIで調整したハザード比4.6,95 %信頼区間3.0-6.9,P<0.001)。
◇ 結論
非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)と耐糖能異常・糖尿病の発症リスクとの関連を明らかにするため,前向きコホート研究およびコホート内症例対照研究による検討を行った。その結果,40歳以上の健康な日本人男性において,NAFLDは糖尿病の強い危険因子であることが示された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康