[2007年文献] 若返りの生活習慣改善(ARIC)
King DE, et al: Turning back the clock: adopting a healthy lifestyle in middle age. Am J Med. 2007; 120: 598-603.
- 目的
- 生活習慣が心血管疾患および死亡のリスクと関連することは多くの研究から明らかになっている。しかし,食生活,運動,体重管理,禁煙といった複数の要素にわたる全体的な生活習慣改善の効果について検討した研究は少ない。また,「いまさら生活習慣を改善しても無駄なのでは」と考える人が多いために,健康な生活習慣がなかなか浸透しない可能性もある。そこで,中年以降の生活習慣改善による心血管疾患の発症および全死因の死亡リスクへの影響について検討を行った。
- コホート
- Atherosclerosis Risk in Communities Study(ARIC)研究* の参加者15792人のうち,生活習慣に関する情報を得ることができた45~64歳の15708人。
* 1987~89年に米国の15792人を登録して開始された,アテローム性動脈硬化症に関する前向きコホート研究。
Visit 1(1987~1989年)のデータをベースラインデータとし,Visit 2(1990~1992)およびVisit 3(1994)のデータから生活習慣の変化について評価。
また,Visit 3以降4年間の追跡を行い,心血管疾患の発症および全死因死亡データを収集した。
Visit 1のときの年齢により,全体を45~54歳,55~64歳の2つに分けて検討を行った。
また,人種については「アフリカ系アメリカ人」「その他」に分けて検討を行った。
◇ 生活習慣の評価
以下の4つをすべて満たす場合に「健康的な生活習慣」とした。
・ 1日に5つ以上の野菜または果物を食べる
・ 1週間に2.5時間以上の運動(少なくとも歩行)をする
・ BMI 18.5~30 kg/m2
・ 喫煙しない
さらに,この4つに加えて「適度な飲酒(1週間に1~14杯)」および「至適BMI(18.5~24.9 kg/m2)」を満たす場合に「至適生活習慣」とした。 - 結 果
- ◇ 健康的な生活習慣の実施率
ベースライン時(Visit 1)に4項目すべてを満たす健康的な生活習慣を実施していたのは,15708人中1344人(8.5 %)だった。
生活習慣が健康的ではない傾向がみとめられたのは,45~54歳の人,男性,アフリカ系アメリカ人,高血圧または糖尿病既往のある人,最終学歴が高校以下の人,家庭の年収が3万5000ドル未満の人。
◇ 健康的な生活習慣に移行した人
ベースライン時(Visit 1)に健康的な生活習慣を実施していなかった人のうち,6年後(Visit 3)までに4項目すべてを満たす健康的な生活習慣に移行した人(改善移行群)は970人(8.4 %)。
改善移行群で多かったのは,55~64歳,女性,アフリカ系アメリカ人以外,大卒以上,年収3万5000ドル以上,高血圧または糖尿病の既往がない人。
高脂血症や冠動脈疾患既往については,生活習慣改善との関連はみられなかった。
改善移行群のうち,ベースライン時の該当項目が3項目だった人は670人,2項目だった人は270人,1項目だった人は26人で,0項目から移行した人はいなかった。
改善移行群のうち,各項目の改善率は以下のとおり。
・ 「1日に5つ以上の野菜や果物を食べる」: 78 % (改善前の平均は3.8)
・ 「1週間に2.5時間以上の運動(少なくとも歩行)をする」: 38 %
・ 「BMI 18.5~30 kg/m2」: 4.6 %
・ 「喫煙しない」: 12.3 %
至適生活習慣に移行したのは300人未満だった。
◇ 健康的な生活習慣への移行と心血管疾患発症および全死因死亡リスク
改善移行群における心血管疾患発症率および全死因死亡率は,以下のように,いずれも非移行群に対して有意に低下していた。
心血管疾患: 改善移行群11.7 %,非移行群16.5 %,P<0.001
全死亡: 2.5 %,4.2 %,P=0.009
また,ロジスティック回帰分析によると,改善移行群では心血管疾患発症リスクが35 %,全死亡リスクが40 %有意に低下していた。
心血管疾患発症のオッズ比および全死亡のオッズ比(年齢,人種,性別,教育,家庭の収入,社会経済的状況,疾患既往により調整)は以下のとおり。
心血管疾患: 改善移行群0.65(95 %信頼区間0.52-0.81),非移行群1.00(対照)
全死亡: 改善移行群0.60(0.39-0.92),非移行群1.00(対照)
ベースライン時(Visit 1)に該当項目が2項目未満で,6年後(Visit 3)までに4項目すべてを満たす健康的な生活習慣に移行した人では,心血管疾患発症リスク,全死亡リスクともに有意な低下がみとめられた。
一方,ベースライン時(Visit 1)に該当項目が2項目未満で,6年後(Visit 3)までに2ないし3項目を達成した人でも有意な全死亡リスク低下がみとめられた(オッズ比0.75,95 %信頼区間0.58-0.97)が,心血管疾患発症リスクの有意な低下はみられなかった。
◇ 結論
4項目すべてにおいて生活習慣改善を達成した人はわずか8.5 %にとどまった。しかし,45歳以降になってから生活習慣の改善を行った人でも,改善後4年という短期間に心血管疾患発症リスク,全死因死亡リスクがそれぞれ-35 %,-40 %と顕著に低下することが明らかになった。生活習慣改善の重要性があらためて強調されるとともに,行動に移すのが中年以降になっても決して遅くはないことが示された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康