[2007年文献] 男性の血中蛍光酸化物レベル高値は冠動脈疾患の危険因子(Health Professionals Follow-up Study)
Wu T, et al: Plasma fluorescent oxidation products: independent predictors of coronary heart disease in men. Am J Epidemiol. 2007; 166: 544-51.
- 目的
- 冠動脈疾患(CHD)発症者の20 %は,既知の危険因子をもたないといわれる。また,既知の危険因子がどのようにCHDの発症メカニズムに関与しているのかについて,明らかになっていないことも多い。そこで,新しい生化学マーカーを採用することによるCHDのさらなる病態解明,およびこれまでの診断方法の補完を目指し,血中蛍光酸化物とCHDとの関連を検討した。
- コホート
- Health Professionals Follow-Up Study(歯科医,検眼士,整骨師,薬剤師,手足治療医,獣医などの男性医療従事者51529人を対象とし,米国で1986年から行われている大規模前向きコホート研究)。
1993~1994年の間に血液検査セットによる血液サンプルを返送した40~75歳の18140人のうち,1994~2000年に冠動脈疾患を発症した266人,および発症者1人につき2人の対照者(心血管疾患または癌の既往なし,計532人)をコホートから選び出して解析の対象とした(症例対照研究)。
◇ 血中蛍光酸化物の測定
蛍光分光光度計(波長360/430 nm)を用いて,血液1 mLあたりの蛍光酸化物の蛍光強度を求めた。
測定した蛍光強度(unit/mL)により,以下のように全体を五分位に分けて検討を行った。
Q1: 中央値110(49人),Q2: 135(40人),Q3: 155(52人),Q4: 190(55人),Q5: 250(70人) - 結 果
- ベースラインの生化学マーカーのうち,冠動脈疾患(CHD)群で対照群にくらべて有意に高い値を示していたのは総コレステロール,トリグリセリド,LDL-C,総コレステロール/HDL-C比,アポリポ蛋白B,HbA1c,CRP,酸化LDL,血中蛍光酸化物。CHD群で対照群にくらべ有意に低い値を示したのは,HDL-C。
◇ 血中蛍光酸化物とCHDリスク
血中蛍光酸化物は,CHD発症リスクと有意に関連していた(P for trend=0.006,年齢,喫煙,採血時間,HDL-C,LDL-C,トリグリセリド,CRPで調整)。
各五分位におけるCHD発症の相対危険度(95 %信頼区間)は以下のとおり。
Q1: 1
Q2: 0.94 (0.55-1.59)
Q3: 1.15 (0.67-1.96)
Q4: 1.37 (0.80-2.35)
Q5: 1.84 (1.07-3.16)
また,食後10時間以上たってから採血した人のみで解析を行った結果,以下のように,血中蛍光酸化物とCHDリスクとの関連は強くなった(P for trend=0.005)。
Q1: 1
Q2: 1.03 (0.45-2.36)
Q3: 1.02 (0.42-2.47)
Q4: 1.74 (0.71-4.29)
Q5: 3.36 (1.33-8.48)
以上の結果は,クレアチニンのかわりにクレアチニンクリアランスおよび推算GFRを用いた解析を行っても同様であった。
◇ 血中蛍光酸化物のCHD予測能
基礎モデルに血中蛍光酸化物,CRP,酸化LDLを変数として加えた場合のそれぞれの予測能を,尤度比検定,赤池情報量基準(Akaike Information Criterion: AIC),およびC indexを用いて検討した。
その結果,いずれの解析においても,血中蛍光酸化物を含めたモデルでは,含めないモデルに比べて予測能が改善していた。
食後10時間以上たってから採血した人のみを対象として解析を行うと,血中蛍光酸化物は,CRPおよび酸化LDLよりも高い予測能を示した。
◇ 結論
血中蛍光酸化物レベルは,心血管疾患既往のない男性(特に空腹時に採血を行った人)における冠動脈疾患リスクと有意に関連していた。この関連は,既知の危険因子,脂質マーカー,CRP,他の炎症マーカーおよびHbA1cにより調整しても変わらなかった。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康