[2007年文献] 全面的禁煙条例で,急性心筋梗塞による入院が減少(ニューヨーク州)

ニューヨーク州では2003年,オフィスや飲食店を含む公共の場での喫煙を州全体にわたって禁止する厳しい禁煙条例が実施された。この禁煙条例の施行前後の急性心筋梗塞による入院および脳卒中による入院の数の推移を調査した結果,2004年の1年間で急性心筋梗塞入院の約8 %が抑制されたことが示された。全面的禁煙条例の制定は,公衆衛生の改善のためのシンプルで効果的な方法だといえる。

Juster HR, et al. Declines in hospital admissions for acute myocardial infarction in New York state after implementation of a comprehensive smoking ban. Am J Public Health. 2007; 97: 2035-9.pubmed

目的
ニューヨーク州では,1989年から限定的な喫煙制限が州全体で行われ,また1995年からは郡(county)単位で学校,病院,公共のビルや店舗を対象として中程度の喫煙制限(moderate smoking restrictions)が行われていた。さらに2003年7月24日,オフィスや飲食店を含む公共の場での喫煙を州全体にわたって禁止する全面的禁煙条例(comprehensive smoking ban)が制定された。この全面的禁煙条例の施行後,ニューヨーク州における急性心筋梗塞および脳卒中患者の入院状況がどのように変化したかを検証した。
コホート
公立病院および私立病院から提出される入院患者データを集めたニューヨーク州健康課のデータベースを用い,10年間(1995年1月~2004年12月)にわたって35歳以上の急性心筋梗塞または脳卒中による入院数を長期的に分析し,学校,病院,公共のビルや店舗を対象とした中程度の喫煙制限(1995~2003年)と,オフィスや飲食店を含む公共の場での全面的禁煙条例(2003~2004年)の影響を検討した。
結 果
・ 急性心筋梗塞(AMI)入院数および脳卒中入院数の長期的な推移
10万人あたりのAMI入院および脳卒中入院の発生率は以下のとおり(2000年の米国国勢調査結果を用いて年齢調整)。
   1995年: AMI 493.3,脳卒中641.0
   1996年: 496.2,659.5
   1997年: 485.3,640.3
   1998年: 475.6,629.9
   1999年: 479.1,616.3
   2000年: 490.0,609.4
   2001年: 483.0,590.0
   2002年: 476.4,577.5
   2003年: 469.9,557.5
   2004年: 445.4,550.7

・ 回帰分析による禁煙の効果の分析
回帰分析によると,AMI入院,および脳卒中入院に対する中程度の喫煙制限および全面的禁煙条例の主効果(main effect: 実施直後の効果を表す)は,いずれも有意ではなく,実施による急激な効果はみとめられなかった。

次に,実施からの時間をあわせて考慮した回帰分析を行うと,AMI入院に対する中程度の喫煙制限および全面的禁煙条例の時間関連効果(time interaction effect)はともに有意であり,いずれの対策についても,月単位でAMI入院を有意に抑制する効果があったことが示された。
脳卒中入院については有意な効果はみとめられなかった。

時系列モデルによると,1か月間に減少するAMI入院数は,中程度の喫煙制限を実施した場合には10万人あたり0.15(P<0.01),全面的禁煙条例を実施した場合には0.32(P<0.001)であると推算された。すなわち,全面的禁煙条例により,中程度の喫煙制限の約2倍の効果が得られると考えられた。

・ 禁煙により抑制された入院数
2004年1月~12月の期間において,全面的禁煙条例が実施されていなかったと仮定した場合の入院数を推定して実際の入院数と比較した結果,全面的禁煙条例により計3813件(約8 %)のAMI入院が抑制されたことがわかった。

・ 費用効果
AMI入院1回あたりの平均コスト(14,772ドル[1ドル100円換算で約148万円])を用いて,全面的禁煙条例により医療費がどのくらい抑制されるかを計算した。
その結果,全面的禁煙条例を実施することにより,中程度の喫煙制限のみの場合にくらべ,2004年の1年間で5600万ドル(1ドル100円換算で約56億円)の医療費が抑制されたと考えられた。


◇ 結論
ニューヨーク州では2003年,オフィスや飲食店を含む公共の場での喫煙を州全体にわたって禁止する厳しい禁煙条例が実施された。この禁煙条例の施行前後の急性心筋梗塞による入院および脳卒中による入院の数の推移を調査した結果,2004年の1年間で急性心筋梗塞入院の約8 %が抑制されたことが示された。全面的禁煙条例の制定は,公衆衛生の改善のためのシンプルで効果的な方法だといえる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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