[2008年文献] ビタミンD欠乏は心血管イベントの危険因子(Framingham Offspring Study)
ビタミンD値と心血管疾患発症との関連を縦断的に検討するため,5.4年間の前向きのコホート追跡研究を行った。その結果,中程度~重度の血中ビタミンD低値が心血管疾患発症の危険因子であることが示された。今後,ビタミンDを適正値にする介入を行うことで心血管疾患を抑制できるかどうかの検討が必要である。
Wang TJ, et al. Vitamin D deficiency and risk of cardiovascular disease. Circulation. 2008; 117: 503-11.
- 目的
- ビタミンD欠乏は,おもに皮膚での合成不足(日光に当たる時間が短い・皮膚に色素沈着がある)や,食事からの摂取不足が原因となって起こる。ビタミンD低値は高血圧,レニン活性上昇,冠動脈高度石灰化,心血管疾患の有病と関連するとのエビデンスがこれまでに蓄積されてきている。そこで,ビタミンD値と心血管疾患発症との関連を縦断的に検討するため,前向きのコホート追跡研究を行った。
- コホート
- Framingham Offspring Study。
第6回検査,第7回検査(1996~2001年)のいずれかに参加し,血中ビタミンDの測定が行われた1,972人のうち,心血管疾患既往・腎疾患既往のある233人を除外した1,739人を平均5.4年間追跡。
平均年齢は59歳,女性は55 %。
ラジオイムノアッセイにより,血中のビタミンD量を反映する指標である25-OH ビタミンDの濃度を測定した。
食物摂取頻度調査票により,ビタミンDのサプリメント摂取状況,総ビタミンD摂取状況についても調べた。
高血圧の定義は,収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mHg以上,または降圧薬治療中とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
血中の平均25-OHビタミンD濃度(以下,ビタミンD濃度)は19.7 ng/mL。
ビタミンD濃度が15 ng/mL未満の人(481人)において,15 ng/mL以上の人(1258人)にくらべて有意に高値を示していた変数は,BMI,喫煙率,収縮期血圧,糖尿病の割合,総コレステロール/HDL-C比で,有意に低値を示していた変数は総ビタミンD摂取量,ビタミンDサプリメント摂取割合,マルチビタミンサプリメント摂取割合。
◇ ビタミンD濃度と心血管疾患発症率
心血管疾患を新規に発症したのは120人。うち57人が女性だった。
内訳は,冠動脈疾患65人,脳血管疾患28人,間欠性跛行8人,心不全19人。なお,出血性脳卒中はみられなかった。
ビタミンD濃度区分別の5年間の心血管疾患発症率(年齢・性別調整)は以下のとおり。
・ 全対象者
≧15 ng/mL: 4.4 95 %信頼区間2.8-5.9)
<15 ng/mL: 8.9 (5.5-12.2)
・ 高血圧者 (688人)
≧15 ng/mL: 5.8 (3.0-8.6)
<15 ng/mL: 14.2 (7.3-20.5)
・ 非高血圧者 (1,051人)
≧15 ng/mL: 3.5 (1.6-5.3)
<15 ng/mL: 5.1 (1.7-8.3)
◇ ビタミンD濃度と心血管疾患発症リスク
Cox比例ハザードモデルによると,ビタミンD濃度区分別にみた心血管疾患発症の多変量調整ハザード比は,ビタミンD濃度が低いほど大きかった(P for trend=0.01)。
≧15 ng/mL: 1.00 (対照)
10 ng/mL以上15 ng/mL未満: 1.53 (95 %信頼区間1.00-2.36)
<10 ng/mL: 1.80 (1.05-3.08)
この結果は,さらにCRPで調整したモデルにおいても同様であった。
また,高血圧の有無別に同様の検討を行った結果は以下のとおりで,非高血圧者ではビタミンD低値と心血管疾患発症リスクとの有意な関連はみとめられなかった。
・ 高血圧者 (P for trend=0.002)
≧15 ng/mL: 1.00 (対照)
10 ng/mL以上15 ng/mL未満: 1.93 (95 %信頼区間1.09-3.42)
<10 ng/mL: 2.51 (1.30-4.82)
・ 非高血圧者 (P for trend=0.94)
≧15 ng/mL: 1.00 (対照)
10 ng/mL以上15 ng/mL未満: 1.06 (0.53-2.13)
<10 ng/mL: 1.00 (0.35-2.85)
◇ 結論
ビタミンD値と心血管疾患発症との関連を縦断的に検討するため,5.4年間の前向きのコホート追跡研究を行った。その結果,中程度~重度の血中ビタミンD低値が心血管疾患発症の危険因子であることが示された。今後,ビタミンDを適正値にする介入を行うことで心血管疾患を抑制できるかどうかの検討が必要である。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康