[2007年文献] 胸骨圧迫のみの蘇生法は,人工呼吸をともなう心肺蘇生法と同等の効果(ウツタイン大阪プロジェクト)
院外心停止例を登録したウツタイン大阪プロジェクトにおいて,救急現場に居合わせた人(バイスタンダー)によって胸骨圧迫のみを受けた場合と,人工呼吸をともなう従来の心肺蘇生法を受けた場合の予後改善効果を検討した。その結果,心疾患が原因と考えられる心停止者に対し,心停止15分以内では胸骨圧迫のみの蘇生法が従来の心肺蘇生法と同等の効果をもつことが示された。心停止後15分を越えてからの蘇生では,いずれの場合も生存者は非常に少なかった。
Iwami T, et al. Effectiveness of bystander-initiated cardiac-only resuscitation for patients with out-of-hospital cardiac arrest. Circulation. 2007; 116: 2900-7.
- 目的
- 心臓突然死は,先進国における主要な死因の1つとなっている。救急現場に居合わせた人(バイスタンダー)による心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation: CPR)は患者の予後を大幅に改善するが,バイスタンダーCPRの実施率は十分とはいえず,さらに日本ではmouth-to-mouthの人工呼吸への抵抗感も強い。しかしながら,胸骨圧迫のみの蘇生法は心室細動に対して従来のCPRと同等の効果をもつとの報告もある。そこで,院外心停止例を登録したウツタイン大阪プロジェクトにおいて,「心疾患が原因と考えられる15分以内の心停止に対し,胸骨圧迫のみの蘇生法と従来のCPRの予後改善効果は同等である」という仮説を検討した。
- コホート
- ウツタイン大阪プロジェクト(ウツタイン様式* により大阪府における院外心停止例を登録した大規模前向きコホート研究)。
1998年5月1日~2003年4月30日における18歳以上の心原性の院外心停止例で,バイスタンダーにより目撃され大阪府内で救急医療を受けた4,902人を5年間追跡。
一次エンドポイントは,心停止の発生から1年後における良好な神経学的転帰(cerebral performance category[CPC]が1~2)。
* ウツタイン様式とは,地域間・国際間の比較を目的とした心停止例の記録様式のガイドライン。心停止例を原因(心原性/非心原性),目撃の有無,バイスタンダーによる心肺蘇生の有無,初期心電図波形別などで分類し,予後転帰(生存/死亡,神経学的状態など)を記録する。1990年6月にノルウェーのウツタイン修道院で開催された国際蘇生会議において,各国の学会代表により作成された。
(参照: http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h16/h16/html/16240k20.html[総務省消防庁ウェブサイト]) - 結 果
- 1998年5月1日~2003年4月30日における大阪府の院外心停止発生は24,347人(大阪府の人口より算出した10万人・年あたりの発生率63)で,うち蘇生が試みられたのは23,436人(このうち4,468人が入院し,25人は1年後に追跡不可能となった)。
心原性と考えられる心停止は13,444人(発生率36 / 10万人・年)で,うち目撃されたのは4,902人。
この4,902人(バイスタンダーにより目撃され大阪府内で救急医療を受けた心原性の院外心停止例)のうち,人工呼吸をともなう従来の心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation: CPR)を受けたのは783人(16 %),胸骨圧迫のみの蘇生を受けたのは544人(11 %),バイスタンダーCPRの詳細が不明だったのは25人(0.5 %)。
◇ バイスタンダーCPRの種類ごとの対象背景
CPRなし群(3,550人),胸骨圧迫群(544人),従来CPR群(783人)の3群で対象背景の比較を行ったところ,CPRなし群では家庭での心停止が多く,療養施設での心停止が少なかった。
倒れてから救急隊員によるCPRまでの時間は,3群で同等だった。
◇ バイスタンダーCPRの有無と予後
CPRなし群,胸骨圧迫群,従来CPR群のそれぞれにおける一次エンドポイント(1年後の良好な神経学的転帰)の頻度はそれぞれ2.1 %,3.5 %,3.6 %で,CPRなし群にくらべ,胸骨圧迫群および従来CPR群において有意なオッズ比の増加がみとめられた(胸骨圧迫群1.70[95 %信頼区間1.02-2.84],従来CPR群1.74[1.12-2.71] vs. CPRなし群)。
・ 心停止から蘇生までの時間が短い場合
心停止後15分以内で蘇生を開始した3,888人における一次エンドポイントの頻度は,CPRなし群2.5 %,胸骨圧迫群4.3 %で,CPRなし群にくらべ,胸骨圧迫群において有意なオッズ比の増加(1.72[95 %信頼区間1.01-2.95] vs. CPRなし群)がみとめられた。従来CPR群では一次エンドポイントの頻度が4.1 %と,胸骨圧迫群に近い結果であった(1.57[0.95-2.60] vs. CPRなし群)。
・ 心停止から蘇生までの時間が長い場合
心停止後15分を越えてから蘇生を開始した864人における一次エンドポイントの頻度は,CPRなし群0.3 %,胸骨圧迫群0 %,従来CPR群2.2 %と従来CPR群で高かったが,バイスタンダーCPRの種類にかかわらず生存が少なかったため,オッズ比の算出は行わなかった。
◇ 結論
院外心停止例を登録したウツタイン大阪プロジェクトにおいて,救急現場に居合わせた人(バイスタンダー)によって胸骨圧迫のみを受けた場合と,人工呼吸をともなう従来の心肺蘇生法を受けた場合の予後改善効果を検討した。その結果,心疾患が原因と考えられる心停止者に対し,心停止15分以内では胸骨圧迫のみの蘇生法が従来の心肺蘇生法と同等の効果をもつことが示された。心停止後15分を越えてからの蘇生では,いずれの場合も生存者は非常に少なかった。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康