[2008年文献] 長期間の喫煙は認知症のリスクと関連(CIRCS 協和コホート)
喫煙と認知症リスクの関連について,前向き追跡コホート研究のデータを用いた症例対照研究を実施した。その結果,喫煙は認知症のリスクと関連することが示された。また,喫煙期間と認知症リスクに有意な用量-反応関係がみとめられたことから,長期におよぶ喫煙の継続は,介護の必要な認知症のリスク上昇に関連すると考えられる。
Ikeda A, et al. Cigarette smoking and risk of disabling dementia in a Japanese rural community: a nested case-control study. Cerebrovasc Dis. 2008; 25: 324-31.
- 目的
- 急速な高齢化にともない,認知症は重要な健康問題の1つとなっている。これまでに,アルツハイマー病および脳血管性認知症に関連する因子として高血圧,コレステロール高値,糖尿病などが報告されているが,喫煙と認知症に関する報告は不十分である。そこで,喫煙と認知症リスクの関連について,前向き追跡コホート研究のデータを用いたコホート内症例対照研究を実施した。
- コホート
- CIRCS 協和コホート(1981~1994年に循環器リスク健診を受診した茨城県筑西市協和地区の35~85歳の住民6,343人)のデータを用いた症例対照研究。
喫煙状況については,問診の結果より,「喫煙未経験者」,「禁煙者(過去3か月以上喫煙していない人)」,「喫煙者」のいずれかに分類した。喫煙者については,1日あたりの喫煙本数もたずねた。
2000年4月1日~2004年3月31日の状況により,次の2群を設定した。
認知症群: 介護が必要な認知症を有する65歳以上の介護保険制度受給者208人。
対照群: 症例と年齢差が±2歳以内で,性別および健診受診年を一致させた416人(症例1人につき対照2人)。
この研究では,厚生労働省の「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」に従った分類(ランク0~V)により,プライマリケア医がランクII以上とした患者を認知症のケースとした。
- 結 果
- 2000~2004年の期間に認知症とみとめられた208人(認知症群)のうち,脳卒中既往を有していたのは95人,有していなかったのは113人。
◇ 対象背景
認知症群と対照群のベースライン時対象背景は以下のとおり(*P<0.05 vs. 対照群)。
年齢: 対照群68.6歳,認知症群69.1歳
男性の割合: 35.6 %,35.6 %
収縮期血圧: 135.6 mmHg,139.3 mmHg*
降圧薬服用率: 35.0 %,34.0 %
BMI: 23.7 kg/m2,23.3 kg/m2
飲酒率: 22.0 %,24.0 %
喫煙率: 16.1 %,22.6 %*
総コレステロール: 203 mg/dL,205 mg/dL
糖尿病: 6.7 %,9.8 %
心房細動: 2.4 %,1.9 %
ST-T異常: 9.1 %,9.6 %
◇ 喫煙と認知症リスク
喫煙状況と認知症リスクの関連を検討した結果,喫煙者では有意なリスク上昇がみとめられた。
また,喫煙本数の区分別(20本未満/以上)の解析を行った結果,認知症リスクとの用量-反応関係がみとめられた。
喫煙状況別にみた認知症のオッズ比(多変量調整)は以下のとおりで,性別,降圧薬服用の有無と喫煙状況との有意な相互作用はみとめられなかった。
喫煙未経験者: 1.0
禁煙者: 1.5 (95 %信頼区間0.7-3.3)
喫煙者: 2.3 (1.1-4.7)
1日20本未満の喫煙者: 2.2 (1.1-4.7)
1日20本以上の喫煙者: 2.7 (0.9-8.2)
さらに,喫煙者を喫煙期間,および喫煙箱・年数ごとに3つのカテゴリーに分けたときの認知症のオッズ比(多変量調整)は以下のとおりとなった。
・ 喫煙期間
喫煙未経験者: 1.0
喫煙者(34年未満): 1.7 (95 %信頼区間0.8-3.7)
喫煙者(34年以上45年未満): 2.0 (0.8-5.2)
喫煙者(45年以上): 2.3 (1.0-5.4)
喫煙期間と認知症リスクとの有意な関連がみとめられた(P for trend=0.04)。
・ 喫煙箱・年
喫煙未経験者: 1.0
喫煙者(28箱・年未満): 2.1 (1.0-4.3)
喫煙者(28箱・年以上46箱・年未満): 1.3 (0.5-3.3)
喫煙者(46箱・年以上): 2.1 (0.9-5.1)
喫煙箱・年と認知症リスクに有意な関連はみとめられなかった(P for trend=0.21)。
◇ 結論
喫煙と認知症リスクの関連について,前向き追跡コホート研究のデータを用いた症例対照研究を実施した。その結果,喫煙は認知症のリスクと関連することが示された。また,喫煙期間と認知症リスクに有意な用量-反応関係がみとめられたことから,長期におよぶ喫煙の継続は,介護の必要な認知症のリスク上昇に関連すると考えられる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康