[2008年文献] 非空腹時トリグリセリドは虚血性脳卒中の危険因子(Copenhagen City Heart Study)
急性心筋梗塞や心血管疾患リスクとの関連が指摘されている非空腹時トリグリセリド(TG)について,デンマークの一般住民を対象とした31年間の前向きコホート研究により,虚血性脳卒中の発症リスクとの関連を検討した。その結果,非空腹時TGは虚血性脳卒中リスクと直線的に関連することが示された。
Freiberg JJ, et al. Nonfasting triglycerides and risk of ischemic stroke in the general population. JAMA. 2008; 300: 2142-52.
- 目的
- トリグリセリド(TG)は通常,食後8~12時間の空腹状態において測定される。しかし,人は実際の生活において,朝食前の数時間を除き,1日のほとんどの時間を「非空腹」の状態で過ごしている。非空腹時のTGは,動脈硬化の形成に関与すると考えられる血中のカイロミクロンや超低密度リポ蛋白(VLDL)のレムナントの存在を反映しており,最近のコホート研究からは,非空腹時TGが急性心筋梗塞や心血管疾患リスクと関連する一方で,空腹時TGは関連を示さないとの結果が報告されている。そこで,非空腹時TGと虚血性脳卒中リスクとの関連について,デンマークの一般住民を対象とした31年間の前向きコホート研究による検討を行った。
- コホート
- The Copenhagen City Heart Study。
◇ 前向きコホート研究
デンマークの国民登録から無作為に抽出された20歳以上のデンマーク人(白人)一般住民19,329人のうち,健診を受診し,非空腹時TGの値が得られた13,956人(男性6,375人,女性7,581人)を,1976~2007年にかけて最大31年間追跡。
対象者全員について追跡を完了した(国外に転居した83人は転居時に打ち切りとした)。
非空腹時TG値により,全体を以下の6カテゴリーに分けて解析を行った(それぞれ<1,1~1.99,2~2.99,3~3.99,4~4.99,≧5 mmol/Lに相当)。
<89 mg/dL: 男性905人,女性2,210人
89~176 mg/dL: 3,019人,3,987人
177~265 mg/dL: 1,410人,985人
266~353 mg/dL: 545人,241人
354~442 mg/dL: 238人,96人
≧443 mg/dL: 258人,62人
◇ 横断解析
前向きコホート研究の対象者のうち,1991~1994年に健診を受診し,非空腹時トリグリセリドおよび血中脂質・リポ蛋白の値が得られた9,637人。 - 結 果
- ◇ 前向きコホート研究: 非空腹時トリグリセリド(TG)と虚血性脳卒中の発症リスク
追跡期間中に虚血性脳卒中を発症したのは1,529人(男性779人,女性750人)。
非空腹時TGは,男女ともに虚血性脳卒中の発症リスクとの有意な正の関連を示した(P<0.001)。
この結果は,総コレステロール,アルコール摂取,喫煙,高血圧,心房細動,脂質低下薬治療による多変量調整後も変わらなかった。
各カテゴリーにおける虚血性脳卒中の年齢調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
<89 mg/dL: 男性1,女性1 (対照)
89~176 mg/dL: 1.4 (0.9-2.1),1.3 (1.0-1.8)
177~265 mg/dL: 1.8 (1.2-2.9),2.2 (1.5-3.3)
266~353 mg/dL: 1.9 (1.1-3.3),1.6 (0.8-3.3)
354~442 mg/dL: 2.9 (1.5-5.6),2.6 (1.0-6.6)
≧443 mg/dL: 3.2 (1.7-6.2),5.1 (1.7-14.8)
この関連は,さらにHDL-Cによる調整,およびBMIと糖尿病による調整を行うと弱くなったが,いずれの場合も有意な関連は失われなかった。
サブグループごとに非空腹時TGと虚血性脳卒中の発症リスクとの関連を検討した結果,非空腹時TG 89 mg/dL増加ごとの虚血性脳卒中ハザード比(多変量調整)は,男性1.12(95%信頼区間1.04-1.20),女性1.28(1.15-1.43)で,性別による有意な交互作用がみとめられた(多変量調整後のP=0.03)。
年齢層,高血圧,BMI,身体活動,ホルモン補充療法(女性のみ)による交互作用はみられなかった。
◇ 横断解析: 虚血性脳卒中の既往と非空腹時TG,血中コレステロール
横断解析の対象者のうち,虚血性脳卒中既往者と既往なしの人の間で,非空腹時TG,レムナントリポ蛋白コレステロール,HDL-C,LDL-Cの値を比較した。
その結果,虚血性脳卒中既往者では,既往なしの人よりも非空腹時TG,およびレムナントリポ蛋白コレステロールが有意に高かった(いずれも男性: P<0.01,女性: P<0.05)。
HDL-C,LDL-Cでは差はみとめられなかった。
◇ 結論
急性心筋梗塞や心血管疾患リスクとの関連が指摘されている非空腹時トリグリセリド(TG)について,デンマークの一般住民を対象とした31年間の前向きコホート研究により,虚血性脳卒中の発症リスクとの関連を検討した。その結果,非空腹時TGは虚血性脳卒中リスクと直線的に関連することが示された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康