[2013年文献] 若年者の左室拡張機能障害は,長期的な心血管疾患イベントのリスクと関連(CARDIA)
Desai CS, et al. Prevalence, prospective risk markers, and prognosis associated with the presence of left ventricular diastolic dysfunction in young adults: the coronary artery risk development in young adults study. Am J Epidemiol. 2013; 177: 20-32.
- 目的
- 一般住民における左室拡張機能障害の頻度は11~35%とされ,死亡,心不全,運動耐容能低下などのリスクと関連することが示されている。しかし,複数の民族を含む,無症候の若年者における左室拡張機能障害の頻度や予後に関する報告は少ない。そこで,黒人と白人をほぼ同数含む健康な若年者を対象として,左室拡張機能障害がその後の心血管疾患発症リスクと関連するかどうか,および左室拡張機能障害の危険因子について検討を行った。
- コホート
- The Coronary Artery Risk Development in Young Adults Study(CARDIA): アメリカの都市部の4施設(アラバマ州バーミングハム,イリノイ州シカゴ,ミネソタ州ミネアポリス,カリフォルニア州オークランド)で1985~1986年に登録された5115人の若年(18~30歳)男女における生活習慣,その他の因子の冠動脈疾患進展への寄与に関する長期観察研究。
今回の解析では,1985~1986年のYear 0,および1990~1991年のYear 5(心エコーを実施)の両方の健診に参加した4243人(心エコー実施時に28~35歳)のうち,妊娠中の女性59人,心臓弁膜症の42人,死亡時期が不明であった2人,および心エコー所見に不備のあった1188人を除いた2952人を,2010年まで,心エコー実施後最長20年間追跡(74939人・年)。
心エコー所見により,対象者を以下の3つのカテゴリーに分類した。
(1)重度の左室拡張機能障害(severe diastolic dysfunction: SDD): 以下のうち3つ以上を満たす場合
左室拡張末期径>65 mm(男性),>60 mm超(女性),左室拡張末期容積係数≧86 mL/m2,左房容積係数≧30 mL/m2,僧帽弁E/A比≧1.8,左室重量/身長2.7≧50 g/m2.7
(2)弛緩異常(abnormal relaxation): 僧帽弁E/A比<1.3かつ以下のいずれかを満たす,または,以下の4つ以上を満たす場合
左室重量/身長2.7≧50 g/m2.7,左房容積係数>28 mL/m2,等容性弛緩時間>90 ms,左室駆出率≧50%,左室相対的壁厚>0.42
(3)正常: 正常またはごくわずかな左室駆出率低下(定量的な左室駆出率>40%または定性的な左室駆出率正常),かつ以下のうち2つ以上を満たす場合
左房容積係数≦28 mL/m2,1.0<僧帽弁E/A比≦2.0,左室重量/身長2.7<45 g/m2.7,50 ms≦等容性弛緩時間≦90 ms,左室相対的壁厚<0.40 - 結 果
- ◇ 対象背景
正常は89.6%(2644人),弛緩異常は9.3%(275人),重度の左室拡張機能障害(SDD)は1.1%(33人)であった。
3つのカテゴリー間で有意差がみられたおもな項目は以下のとおり。
年齢(歳): 正常24.9歳,弛緩異常26.2歳,SDD 24.5歳
女性: 54.4%,48.4%,27.3%
BMI(kg/m2): 23.9,24.8,25.4
血圧(mmHg): 109.9 / 68.2,113.4 / 72.1,116.5 / 69.9
高血圧: 2.0%,4.4%,9.1%
トリグリセリド(mg/dL): 70.7,83.4,67.8
Cornell電位×QRS時間(mm×ms): 1000,1049,1498
左室重量(g): 136.4,141.0,160.7
左室重量係数(g/m2.7): 32.1,32.7,35.8
1秒量(%予測値): 98.3,95.8,94.7
1秒率(%予測値): 83.1,81.6,82.3
◇ 5年後の左室拡張機能障害の予測因子
年齢,民族および性別で調整した多値ロジスティック回帰分析により,5年後の左室拡張機能障害と関連する因子を検討した。
5年後のSDDとの有意な関連を示したのは,既知の心血管疾患危険因子のなかでは収縮期血圧(1 SD[10.8 mmHg]上昇あたりのオッズ比1.51,95%信頼区間1.07-2.13,P<0.05)のみであった。また,左室重量,左室重量係数,およびCornell電位×QRS時間もSDDと有意な正の関連を示し,段階的運動負荷時間はSDDと有意な負の関連を示した。
5年後の弛緩異常との有意な関連を示したのは,収縮期および拡張期血圧,総コレステロール,トリグリセリドや血糖値などの代謝系指標であった。また,1秒量(実測値および%予測値),1秒率,段階的運動負荷時間は,弛緩異常と有意な負の関連を示した。
さらに多変量解析を行うと,5年後のSDDと独立した有意な関連を示していたのは収縮期血圧のみで,5年後の弛緩異常と独立した有意な関連を示していたのは収縮期血圧,および1秒量(%予測値)であった。
◇ 左室拡張機能障害と長期的な心血管イベントリスク
・複合イベント(心筋梗塞,心不全,脳卒中および全死亡)
追跡期間中の複合イベント発生は223件。
弛緩異常およびSDDの複合イベントのハザード比(多変量調整*)は以下のとおりで,いずれも正常に対する有意なリスク増加がみとめられた。(*年齢,民族,性別,収縮期血圧,BMI,総コレステロール,HDL-C,喫煙,糖尿病既往により調整)
正常: 1.00(対照)
弛緩異常: 1.64(95%信頼区間1.06-2.52),P=0.03
SDD: 4.29(1.97-9.33),P<0.001
・心血管イベント(心筋梗塞,心不全,脳卒中および心血管疾患死亡)
追跡期間中の心血管イベント発生は103件。
弛緩異常およびSDDの心血管イベントのハザード比(多変量調整*)は以下のとおりで,いずれも正常に対する有意なリスク増加がみとめられた。(*年齢,民族,性別,収縮期血圧,BMI,総コレステロール,HDL-C,喫煙,糖尿病既往により調整)
正常: 1.00(対照)
弛緩異常: 2.00(1.09-3.68),P=0.03
SDD: 8.56(3.27-22.40),P<0.001
◇ 結論
黒人と白人をほぼ同数含む健康な若年者を対象として,左室拡張機能障害の頻度や危険因子,ならびに心血管疾患発症リスクとの関連を検討した。その結果,ベースライン時の弛緩異常は9.3%,重度の左室拡張機能障害(SDD)は1.1%にみられ,弛緩異常を有する場合は長期的な心血管疾患または死亡のリスクが1.6倍,SDDでは4.3倍と有意に増加することが示された。また,ベースラインから5年後までの新規の左室拡張機能障害の危険因子として,収縮期血圧,血清脂質や血糖などの代謝系指標,運動耐容能,心臓の構造的な異常,呼吸機能などが関与している可能性が示唆された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康