[2012年文献] eGFR低値とアルブミン尿は,年齢とは独立して全死亡リスク・末期腎臓病リスクと関連(CKD-PC)
Hallan SI, et al.; Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium. Age and association of kidney measures with mortality and end-stage renal disease. JAMA. 2012; 308: 2349-60.
- 目的
- 慢性腎臓病(CKD)の重症度分類について,推定糸球体濾過量(eGFR)とアルブミン尿を組み合わせた方法が提案された。この新しいシステムの実用化にあたり,患者の年齢層にかかわらず臨床的なリスクを適切に予測できることが求められるが,eGFRおよびアルブミン尿と臨床リスクとの関連に対して年齢が与える影響については,それぞれの解析手法が異なることもあり,議論の分かれるところとなっている。そこで,アジア,オーストラリア,ヨーロッパ,北米,および南米の46のコホート研究を含めたメタ解析により,eGFRおよびアルブミン尿と臨床アウトカムとの関連について,統一した解析手法を用い,相対リスクと絶対リスクの二つの観点から年齢層ごとに詳細に検討した。
- コホート
- Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)。
46のコホート研究(一般住民・高リスク者コホート33,慢性腎臓病[CKD]患者コホート13)に含まれる(18~108歳の205万1244人の個人データを用いたメタ解析を実施した(平均追跡期間は5.8年間)。
北米のコホートは20,ヨーロッパ12,アジア10,オーストラリア1,複数国にまたがるコホートが3であった。
平均年齢は49.4歳。
年齢層(18~54歳/55~64歳/65~74歳/75歳以上)ごとに,eGFRまたはアルブミン/クレアチニン比と一次エンドポイント(全死亡または末期腎疾患[ESRD])の相対リスク(ハザード比)および絶対リスク(発生数/1000人・年)を求めた。
ESRDの定義は,透析の開始,腎疾患による死亡(急性腎傷害を除く)とした。
アルブミン尿の定義は,アルブミン/クレアチニン比≧30 mg/g,尿蛋白/クレアチニン比≧50 mg/g,または試験紙法による「1+」以上の判定とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
死亡は,一般住民・高リスク者コホートでは11万2325人,慢性腎臓病(CKD)患者コホートでは9037人で,末期腎疾患(ESRD)の発生はそれぞれのコホートで2766人,5962人であった。
コホート種別による,年齢層ごとの平均eGFRおよびアルブミン尿の保有率は以下のとおり。
・平均eGFR(mL/min/1.73 m2)
一般住民コホート:18~54歳 95,55~64歳 79,65~74歳 71,≧75歳 60
高リスク者コホート:94,79,69,58
CKD患者コホート:49,43,41,37
・アルブミン尿を伴う割合
一般住民コホート:18~54歳 3%,55~64歳 4%,65~74歳 7%,≧75歳 11%
高リスク者コホート:17%,21%,25%,34%
CKD患者コホート:79%,70%,62%,59%
◇ 一般住民・高リスク者コホートにおける年齢の影響
(1)eGFRと全死亡の相対および絶対リスク
各年齢層における,eGFR低下による全死亡の相対リスクおよび絶対リスクは以下のとおりで,eGFR 45 mL/min/1.73 m2の80 mL/min/1.73 m2に比した死亡の相対リスク(ハザード比)は年齢が高くなるほど低下したが,逆に絶対リスク(発生率の差)は年齢が高くなるほど上昇した。
・GFR低下による全死亡の相対リスク(45 mL/min/1.73 m2の80 mL/min/1.73 m2に比した多変量調整ハザード比)
18~54歳:3.50(95%信頼区間2.55-4.81)
55~64歳:2.21(2.02-2.41)
65~74歳:1.59(1.42-1.77)
≧75歳:1.35(1.23-1.48)
eGFR低下と全死亡リスクに関して,年齢による有意な相互作用がみとめられた(18~54歳,65~74歳,≧75歳以上 vs. 55~64歳,いずれもP<0.004)。
・GFR低下による全死亡の絶対リスク(1000人・年あたり発生率)
18~54歳:45 mL/min/1.73 m2 13.0,80 mL/min/1.73 m2 4.0,両者の差 9.0(95%信頼区間6.0-12.8)
55~64歳:22.3,10.1,差12.2(10.3-14.3)
65~74歳:36.7,23.3,差13.3(9.0-18.6)
≧75歳:85.0,57.8,差27.2(13.5-45.5)
(2)アルブミン/クレアチニン比(ACR)と全死亡の相対および絶対リスク
各年齢層における,ACR増加による全死亡の相対リスクおよび絶対リスクは以下のとおりで,eGFRに関する解析と同様に,ACR 300mg/gの10mg/gに比した死亡の相対リスク(ハザード比)は年齢が高くなるほど低下したが,逆に絶対リスク(発生率の差)は年齢が高くなるほど上昇した。
・ACR増加による全死亡の相対リスク(ハザード比:300 mg/g vs. 10 mg/g)
18~54歳:2.53(95%信頼区間2.13-3.03)
55~64歳:2.30(1.84-2.88)
65~74歳:2.10(1.83-2.44)
≧75歳:1.73(1.45-2.05)
ACR増加と全死亡リスクに関して,年齢の有意な相互作用がみとめられた(65~74歳,≧75歳以上の年齢層 vs. 55~64歳,それぞれP=0.02,P=0.002)。
・ACR増加による全死亡の絶対リスク(1000人・年あたり発生率)
18~54歳:300 mg/g 11.6,10 mg/g 4.0,両者の差 7.5(95%信頼区間4.3-11.9)
55~64歳:10.3,22.5,差12.2(7.9-17.6)
65~74歳:22.0,44.7,差22.7(15.3-31.6)
≧75歳:49.6,84.0,差34.3(19.5-52.4)
(3)eGFR低下によるESRDの相対および絶対リスク
・eGFR低下によるESRDの相対リスク
年齢層を問わず,70 mL/min/1.73 m2前後を境に,eGFRが低下するほど全死亡の多変量調整ハザード比が増加していた(41~51 mL/min/1.73 m2の範囲でのみ,18~54歳でのハザード比がもっとも高かった)。いずれの年齢層についても,55~64歳に対する有意な相互作用はみとめられなかった。
・eGFR低下によるESRDの絶対リスク(1000人・年あたり発生率)
以下のように,年齢が高くなるほど発生率は低くなっていた。
18~54歳:45 mL/min/1.73 m2 47.4,80 mL/min/1.73 m2 2.3,差 45.1(95%信頼区間20.8-94.6)
55~64歳:28.2,3.1,差25.1(13.8-44.1)
65~74歳:23.0,2.7,差20.3(9.3-41.3)
≧75歳:9.8,1.8,差8.0(3.8-15.4)
(4)ACR増加によるESRDの相対および絶対リスク
・ACR増加によるESRDの相対リスク
年齢層を問わず,高値ほど全死亡の多変量調整ハザード比が増加していた。ACRとESRDリスクに関する,年齢の有意な相互作用はみとめられなかった。
・ACR増加によるESRDの絶対リスク(1000人・年あたり発生率)
以下のように,年齢が高くなるほど発生率は低くなっていた。
18~54歳:300 mg/g 5.2,10 mg/g 0.5,差 4.8(95%信頼区間1.4-14.1)
55~64歳:5.1,0.8,差4.3(1.5-10.6)
65~74歳:6.2,0.8,差5.4(1.7-15.5)
≧75歳:2.3,0.6,差1.7(-0.1-9.4)
◇ eGFRおよびACRの組み合わせと全死亡およびESRDのリスク
eGFR(≧105/90~104/75~89/60~74/45~59/30~44/15~29 mL/min/1.73 m2)とACR(<10/10~29/30~299/≧300)を組み合わせたカテゴリーによる全死亡の多変量調整ハザード比に対する年齢の影響を検討した結果,eGFRおよびACRが高いほど全死亡のハザード比が高くなる傾向は,18~54歳の年齢層でもっとも顕著であった。一方,全死亡の絶対リスク(1000人・年あたりの発生率)についてみると,75歳以上でeGFR低値かつACR高値の場合にリスクが顕著に高くなっていた。
同様にESRDについても検討すると,すべての年齢層で,eGFRが低くACRが高値になるほどESRD発症の多変量調整ハザード比が高くなっており,年齢層による違いは大きくなかった。
◇ CKD患者コホートにおける年齢の影響
CKD患者コホートのみを対象に,eGFR 50 mL/min/1.73 m2を対照としたうえで,eGFR低下(15 mL/min/1.73 m2)と全死亡の相対リスクの関連を年齢層ごとに検討したところ,年齢をとわず,eGFRが低下するほど全死亡の多変量調整ハザード比が増加する傾向がみとめられたことから,年齢による相互作用はないと考えられた。eGFR低下(15 vs. 50 mL/min/1.73 m2)による全死亡の絶対リスクは,年齢が高くなるほど大きくなっていたが,有意差はみられなかった。
eGFR低下とESRDリスクとの関連を年齢層ごとに検討した結果,年齢が高いほどeGFR低下とESRDリスク上昇との関連が顕著であったが,相互作用の有意性はボーダーライン上であった(18~54歳: P=0.04,65~74歳: P=0.07,75歳以上: P=0.08)。eGFR低下(15 vs. 50 mL/min/1.73 m2)によるESRDの絶対リスクには,年齢層による大きな違いはみられなかった。
◇ 結論
アジア,オーストラリア,ヨーロッパ,北米,および南米の46のコホート研究を含めた大規模メタ解析により,eGFRおよびアルブミン尿と臨床アウトカムとの関連に対して年齢が与える影響について検討した。その結果,eGFR低下およびアルブミン尿はいずれも年齢にかかわらず全死亡および末期腎疾患(ESRD)のリスク増加と関連していた。eGFR低下,アルブミン尿と全死亡との関連について,一般住民・高リスク者コホートでは年齢が高いほど相対リスクが低く,絶対リスクが高くなっていたが,慢性腎臓病(CKD)コホートではこうした年齢の影響はみられなかった。eGFR低下,アルブミン尿とESRDとの関連については,年齢による影響はみとめられなかった。このように,eGFRとアルブミン尿は幅広い年齢層にわたって全死亡およびESRDの危険因子となっており,この結果は今回の多様な参加コホート間でもおおむね一致していた。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康