[2013年文献] 2種類の地中海食(エクストラバージンオリーブオイル豊富,またはナッツ類豊富)は,いずれも低脂肪食に比して心血管イベントを有意に抑制(PREDIMED Study)
Estruch R, et al.; the PREDIMED Study Investigators. Primary Prevention of Cardiovascular Disease with a Mediterranean Diet. N Engl J Med. 2013;
- 目的
- オリーブオイル,果物,ナッツ類,野菜やシリアルの豊富な摂取,魚や鶏肉の摂取,食事時の適量のワインなどに特徴づけられる伝統的な地中海食は,種々の観察研究や二次予防試験において,一貫して心血管疾患リスク抑制効果を示すことが示されており,地中海食を「冠動脈疾患予防のためのもっとも好ましい食事モデル」としたシステマティックレビューもある。そこで,低脂肪食を対照とし,2種類の地中海食(エクストラバージンオリーブオイル豊富/ナッツ類豊富)の心血管疾患一次予防効果について,ランダム化比較試験による検討を行った。
- コホート
- The Prevención con Dieta Mediterránea(PREDIMED)Study(ランダム化比較試験)。
2型糖尿病または心血管疾患の危険因子(喫煙,高血圧,LDL-C高値,HDL-C低値,過体重または肥満,冠動脈疾患早期発症の家族歴)を3つ以上有しており,心血管疾患既往のない55~80歳の男性および60~80歳の女性,計7447人を,地中海食A群,地中海食B群,対照群のいずれかに1:1:1で無作為に割り付けた。
一次エンドポイントは心筋梗塞・脳卒中・心血管疾患死亡の複合。二次エンドポイントは心筋梗塞,脳卒中,心血管疾患死亡,全死亡。
・地中海食A群(エクストラバージンオリーブオイル豊富): 「伝統的な地中海食に基づく推奨」*を設定。ただし,このなかのオリーブオイルについては,通常のものの代わりに,ポリフェノール豊富なエクストラバージンオリーブオイル(1週間あたり1 Lを無償で提供)を用いるように指示した(摂取目標量は同じ)。ベースライン時ならびに年4回,栄養士による一対一(地中海食の順守の度合いを14の質問項目により評価し,個人の状況に応じたアドバイスを行う)およびグループでの食事指導を実施。アドヒアランス確認のために,隔年で尿中hydroxytyrosol(ポリフェノール成分)測定を無作為に実施した。
・地中海食B群(ナッツ類豊富): 「伝統的な地中海食に基づく推奨」*を設定。ただし,ナッツ・ピーナッツ類の摂取目標は30 g/日以上とし,1日あたり30 gのミックスナッツ(くるみ15 g,ヘーゼルナッツ7.5 g,アーモンド7.5 g)を無償で提供した。地中海食A群と同様に,ベースライン時ならびに年4回,栄養士による一対一およびグループでの食事指導を実施。アドヒアランス確認のために,隔年で血中α-リノレン酸の測定を無作為に実施した。
・対照群: 低脂肪食**を推奨。地中海食群で無償提供された食品の代わりとして景品(食品ではない)を配布した。ベースライン時に栄養士による一対一の食事指導を受け,その時点でどのくらい伝統的な地中海食に近い食事をしているかを14の質問項目により評価したうえで,ベースラインから3年間にわたって低脂肪食について解説したパンフレットを提供したが,地中海食群にくらべて介入頻度および強度が低いことによる結果への影響が懸念されたため,その後は地中海食群と同じ頻度および強度で一対一(低脂肪食の順守の度合いを9の質問項目により評価)およびグループでの食事指導を実施した。
*伝統的な地中海食に基づく推奨
[推奨食品の摂取目標]オリーブオイル: 小さじ4杯/日以上,ナッツ・ピーナッツ類: 3サービング/週以上,生の果物: 3サービング/日以上,野菜: 2サービング/日以上,魚介類(とくに魚油に富むもの): 3サービング/週以上,豆類: 3サービング/週以上,Sofrito(トマト,玉ねぎを主材料とし,しばしばにんにくやアロマハーブ類とオリーブオイルを加えて煮込んだソース): 2サービング/週以上,赤身肉の代わりに白身肉を摂取,食事時のワイン(習慣的に飲酒する人のみ): 7杯/週以上
[非推奨食品の摂取上限]炭酸飲料: 1本未満/日,市販のパン類・菓子類・ペストリー: 3サービング/週未満,バター・マーガリン類: 1サービング/日未満,赤身肉・加工肉: 1サービング/日未満
**低脂肪食(対照)
[推奨食品の摂取目標]低脂肪乳製品: 3サービング/日以上,パン・いも類・パスタ・米: 3サービング/日以上,生の果物: 3サービング/日以上,野菜: 2サービング/週以上,魚介類(魚油の少ないもの): 3サービング/週以上
[非推奨食品の摂取上限]植物油(オリーブオイルを含む): 小さじ2杯以下,市販のパン類・菓子類・ペストリー: 1サービング/週以下,ナッツ・揚げたスナック類: 1サービング/週以下,赤身肉および脂肪の多い加工肉: 1サービング/週以下,肉やスープに含まれる脂肪分: 常に取り除く,魚油の多い魚・魚介類の油漬けの缶詰: 1サービング/週以下,バター・マーガリン類: 1サービング/週以下,Sofrito(トマト,玉ねぎを主材料とし,しばしばにんにくやアロマハーブ類とオリーブオイルを加えて煮込んだソース): 2サービング/週以下 - 結 果
- 中間解析の結果をうけ,試験は早期に中止された。追跡期間は4.8年間(中央値)。
◇ 対象背景
各群(地中海食A群,地中海食B群,対照群)の主要な対象背景はそれぞれ以下のとおり。薬物治療の状況は3群でほぼ同様だった。
女性の割合: 58.7%,54.0%,59.7%
年齢: 67.0歳,66.7歳,67.3歳
人種(白人): 97.1%,97.4%,96.9%
現在喫煙率: 13.9%,14.5%,13.8%
BMI: 29.9 kg/m2,29.7 kg/m2,30.2 kg/m2
腹囲: 100 cm,100 cm,101 cm
高血圧: 82.1%,82.5%,83.7%
糖尿病: 50.4%,46.6%,48.5%
脂質異常症: 71.6%,73.3%,72.0%
冠動脈疾患早期発症の家族歴: 22.7%,21.7%,22.9%
ベースライン時の地中海食スコア: 8.7点,8.7点,8.4点
ベースライン時の地中海食の順守スコアは3群で同等だったが,地中海食A群およびB群のスコアは経時的に増加しており,3年後には評価14項目中12項目で対照群を有意に上回った。客観的なバイオマーカー検査の結果も,地中海食A群およびB群の良好なコンプライアンスを裏付けるものであった。
◇ 地中海食と一次および二次エンドポイントのリスク
追跡期間中の一次エンドポイントの発生は288件。
各群における1000人・年あたりの発生率は,地中海食A群8.1(95%信頼区間6.6-9.9),地中海食B群8.0(6.4-9.9)であり,いずれも対照群の11.2(9.2-13.5)に対して有意に低かった(それぞれP=0.009,P=0.02)。
対照群に比した地中海食A群,地中海食B群における一次エンドポイントおよび二次エンドポイントの多変量調整ハザード比* はそれぞれ以下のとおりで,地中海食の2群とも,対照に比して有意に一次エンドポイントの発生リスクが低かった。一次エンドポイントの内訳をみると,脳卒中についてのみ,地中海食の2群で有意なハザード比の低下がみられたが,心筋梗塞,心血管疾患死亡,全死亡については有意な群間差はみられなかった。
* 性別,年齢,冠動脈疾患早期発症の家族歴の有無,喫煙状況,BMI,ウエスト/ヒップ比,高血圧の有無,脂質異常症の有無,糖尿病の有無により調整
一次エンドポイント: 0.70(95%信頼区間0.54-0.92,P=0.01),0.72(0.54-0.96,P=0.03)
脳卒中: 0.67(0.46-0.98,P=0.04),0.54(0.35-0.84,P=0.006)
心筋梗塞: 0.80(0.51-1.26,P=0.34),0.74(0.46-1.19,P=0.22)
心血管疾患死亡: 0.69(0.41-1.16,P=0.17),1.01(0.61-1.66,P=0.98)
全死亡: 0.82(0.64-1.07,P=0.15),0.97(0.74-1.26,P=0.82)
また,地中海食の2群をあわせて解析を行うと,対照群に比した一次エンドポイントの多変量調整ハザード比は0.71(95%信頼区間0.56-0.90,P=0.005)と有意に低かった。
◇ サブグループ解析
事前に設定したサブグループ(性別,年齢,糖尿病の有無,高血圧の有無,脂質異常症の有無,喫煙歴,冠動脈疾患早期発症の家族歴の有無,BMI,腹囲,ウエスト/ヒップ比,ベースライン時の地中海食順守スコア)による層別化解析を行った結果,いずれに関しても有意な相互作用はみとめられなかった。
また,対照群における食事指導プロトコールを途中で変更したことから,変更前と変更後の両方について各群の一次エンドポイント発生の多変量調整ハザード比を比較したが,有意な相互作用はみとめられなかった。
◇ 結論
摂取エネルギーに制限を設けない2種類の地中海食(エクストラバージンオリーブオイル豊富/ナッツ類豊富)の心血管疾患疾患一次予防効果について,心血管疾患リスクの高い人を対象としたランダム化比較試験により検討した。その結果,いずれの地中海食群でも,対照の低脂肪食群に比して一次エンドポイント(脳卒中,心筋梗塞,心血管疾患死亡の複合)リスクが約30%有意に低下することが示された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康