[2013年文献] 心房細動は,脳卒中既往にかかわらず認知症と関連(メタ解析)
Kalantarian S, et al. Cognitive Impairment Associated With Atrial Fibrillation: A Meta-analysis. Ann Intern Med. 2013; 158: 338-46.
- 目的
- 心房細動は,米国でもっとも多くみられる不整脈である。また,高齢化にともなって増加している認知機能低下や認知症の主要な危険因子として,心不全,糖尿病,高血圧が挙げられているが,これらは心房細動の危険因子でもある。しかし,心房細動と認知機能低下や認知症との関連についてはこれまで一貫した研究結果が得られておらず,さらに両者の関連にはおもに脳卒中が関与しているのか,それとも他の因子が関与しているのかについても明らかになっていない。そこで,既存の研究のシステマティックレビューを行うことにより,心房細動と認知症との関連について,脳卒中が関与している可能性も考慮した検討を行った。
- コホート
- 5つの大規模なデータベース(MEDLINE,PsycINFO,Cochrane Library,CINAHL,EMBASE)において,心房細動と認知機能低下または認知症との関連を検討した前向きおよび非前向き研究を検索。検索された3944文献中,認知機能低下または認知症をアウトカムとしている・対照群を設けている・年齢などの交絡因子による調整を行っているなどの条件に合致した21研究をメタ解析の対象とした。
- 結 果
- ◇ 心房細動と認知症
(1)脳卒中既往の有無を問わない心房細動と認知症との関連
対象となった21件中,脳卒中既往の有無を問わず,心房細動と認知機能低下または認知症との関連を検討していた研究は14件(断面研究5件,前向き研究9件)であった。
これらの研究のメタ解析を行うと,心房細動は認知機能低下のリスクと有意に関連していた(相対危険度[relative risk: RR]1.40,95%信頼区間1.19-1.64)。この結果は,断面研究でも前向き研究でも同様であった。ただし,予想されたとおり,研究間の有意な異質性もみとめられ,その理由として対象背景,心房細動および認知機能低下の診断基準のばらつきが関与していると考えられた。
・感度解析
この結果の信頼性(robustness)を評価するために,ランダム効果モデルを用いていくつかの感度解析を行った。
アウトカムを認知症のみに絞った解析を行うと,メタ解析の結果はほとんど変わらず,異質性のみが除外された(RR 1.38,95%信頼区間1.22-1.56)。また,認知機能低下の診断基準としてMMSEスコアを用いた8つの研究(認知機能低下=MMSEスコア24点以下,または3点以上の低下)のみに絞った解析を行っても,結果は同様であった(RR 1.38,1.11-1.71)。
また,単独の研究が全体に及ぼす影響を検討するため,1件ずつ除外した解析を行った結果,メタ解析の結果および研究間の異質性に変化はなかった。
認知症の病型別(アルツハイマー病/脳血管性認知症)に解析を行うと,アルツハイマー病については心房細動との有意な関連はみられなかったが(RR 1.22,0.96-1.56),脳血管性認知症では心房細動との有意な関連がみとめられた(RR 1.72,1.27-2.32)。
脳卒中既往のない対象者のみと,脳卒中既往の有無について多変量解析による調整を行っている研究のみを含めた解析を行っても,心房細動と認知機能低下との関連に関する結果はほとんど変わらなかった(RR 1.34,1.13-1.58)。また,脳卒中既往のある人を明確に除外した研究のみの解析を行っても,結果は同様であった(RR 1.37,1.08-1.73)。
(2)心房細動と脳卒中発症後の認知症
対象となった21件中,心房細動と脳卒中発症後の認知症との関連を報告した研究は7件であり,このほとんどが脳卒中の画像診断を行っていた。
これらの研究のメタ解析を行ったところ,心房細動は,脳卒中発症後の認知症のリスクと有意に関連していた(RR 2.70,95%信頼区間1.82-4.00)。この結果は断面研究でも前向き研究でも同様であったが,前向き研究のほうがより強い関連を示していた(RR 3.01,1.96-4.61)。
◇ 個々の研究の質
(1)脳卒中既往の有無を問わない心房細動と認知症との関連
研究の質は,前向き研究の場合は7項目,断面研究の場合は6項目の基準を用いて評価された。
前向き研究9件中7件は,交絡因子を適切に調整しており,方法論的に良好な質を有すると考えられたが,評価基準の一部である心房細動およびアウトカムの診断方法には,ばらつきがみられた。断面研究5件中3件は,心房細動およびアウトカムの誤診断によるバイアスのリスクが高かった。残りの2件は,交絡因子の調整および心房細動の診断が的確であり,質が高いと考えられた。
14件中,研究の質を評価するための基準を3項目以下しか満たしていない研究を除外した解析を行っても,メタ解析の結果は同様であった(RR 1.32,95%信頼区間1.12-1.57)。
(2)心房細動と脳卒中発症後の認知症
7件のうち,前向き研究5件においては,心房細動を主要な危険因子として検討していた研究はなく,さらに1研究を除いて症例減少バイアス(attrition bias)のリスクがあると考えられた。断面研究はいずれも,心房細動およびアウトカムの誤診断によるバイアスのリスクが高い,質の低いものであった。
7件のうち,研究の質を評価するための基準を3項目以下しか満たしていない研究を除外してメタ解析を行っても,結果は同様であった(RR 3.01,1.96-4.61)。
◇ 出版バイアス
脳卒中の有無を問わず,心房細動と認知機能低下または認知症との関連を検討した研究14件におけるファンネルプロットは左右対称であり,Eggerの回帰法による客観的な評価を行っても推定バイアス係数は0.64(P=0.40)と,出版バイアスは否定された。
心房細動と脳卒中発症後の認知症との関連を検討した研究7件においては,Eggerの回帰法による推定バイアス係数は2.46(P=0.009)であり,出版バイアスの存在が示唆された。
◇ 結論
既存の研究のシステマティックレビューにより,心房細動と認知症との関連について,脳卒中が関与している可能性も考慮して検討を行った。その結果,心房細動は,脳卒中発症者(初発または再発),および,より広い対象集団(脳卒中の有無を問わない)のいずれにおいても,認知機能低下または認知症のリスクと有意に関連することが示された。後者の集団における心房細動と認知機能低下または認知症との関連は,脳卒中既往の有無とは独立してみとめられた。今後,認知症の原因や,心房細動と認知症の各病型との関連の検討とともに,心房細動の治療介入研究の新しいアウトカムとして認知機能を考慮することが必要と考えられる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康