[2013年文献] global longitudinal strain(GLS)により評価した左室機能障害は無症候性脳病変と関連(CABL)
Russo C, et al. Subclinical left ventricular dysfunction and silent cerebrovascular disease: the Cardiovascular Abnormalities and Brain Lesions (CABL) study. Circulation. 2013; 128: 1105-11.
- 目的
- 米国の成人における脳卒中の発症率は3.0%で,4分に1人が脳卒中により死亡すると推定されることなどから,その予防が公衆衛生学的な課題となっている。脳卒中未発症の一般住民にもみられる無症候性脳梗塞(silent brain infarcts: SBI)や白質高信号体積(white matter hyperintensities volume: WMHV)は,いずれもその後の脳卒中発症や認知機能低下,認知症発症のリスクと関連することが報告されている。
一方,冠動脈疾患患者や心不全患者などの左室機能障害は,脳卒中ならびに認知機能障害発症リスクと強く関連することが知られている。そこで,左室機能障害が無症候性脳病変と関連するか否かについて,左室機能の指標として左室駆出率ならびに心筋ストレインの二つを用いて,心疾患のない一般住民を対象に検討した。 - コホート
- The Cardiovascular Abnormalities and Brain Lesion(CABL)Study: 1993~2001年に米国ニューヨーク州マンハッタン地区北部に居住していた3298人を登録した前向きコホート研究であるNorthern Manhattan Study(NOMAS)の参加者の一部を対象として,経胸壁心エコーなどの追加検査を実施し,無症候性脳血管疾患の危険因子について検討したMRIサブスタディ。
CABLの対象者(2003年の時点で脳卒中を発症しておらず,MRIに対する禁忌のない55歳以上)のうち,経胸壁心エコーならびに脳MRIのデータに不備がなく,不整脈,心房細動/粗動,弁膜症,冠動脈疾患などがない439人を解析対象とした(断面解析)。
◇ 左室機能障害の評価
・左室駆出率(LVEF): 経胸壁2D心エコーにより測定し,LVEF55%未満を「LVEF低値」とした。
・global longitudinal strain(GLS) : 経胸壁2D心エコーによるスペックル・トラッキング法を用い,心室を12のセグメントに分けてそれぞれの長軸方向のストレインのピーク値(負の方向に大きい値ほど,収縮期短縮[systolic shortening]が大きく左室機能が良好であることを示す)を平均して算出。GLSはすべてマイナスの数値で表される。GLS異常の基準として,高血圧や糖尿病のないサブグループにおける95パーセンタイル値(-14%)よりも小さい数値の場合 ,「GLS低値」と定義した。また,GLS値が正の方向(左室機能が低下する方向)に変化するときに「低下」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢69.3歳,女性60.6%,人種・民族: 白人13.4%,黒人15.9%,ヒスパニック69.7%,その他0.9%,BMI 27.8 kg/m2,血圧133.8 / 78.4 mmHg,高血圧72.7%,糖尿病26.2%,高脂血症61.5%,喫煙歴あり54.2%,現在喫煙率7.3%。
経胸壁心エコー所見は,左室心筋重量係数102.5 g/m2,左室後壁厚11.0mm,相対壁厚0.49,左室駆出率(LVEF)63.8%,LVEF低値6.6%,global longitudinal strain(GLS)-17.1%,GLS低値11.8%,左室拡張機能障害54.7%。
単変量解析において,LVEF低値と有意に関連していたのは性別(男性),左室心筋重量係数(高値),相対壁厚(低値),BMI(高値)で(BMIのP<0.05,その他のP<0.01),GLS低値と有意に関連していたのは年齢,収縮期血圧(高値),拡張期血圧(高値),高血圧,糖尿病,左室心筋重量係数(高値),左室拡張機能障害,相対壁厚(高値 )であった(相対壁厚のP<0.05,その他のP<0.01)。
◇ 無症候脳梗塞(SBI)と左室収縮機能
無症候性脳梗塞(silent brain infarcts: SBI)がみとめられたのは12%(53人)で,このうち83%(44人)が皮質下,17%(9人)が皮質の病変であった。
SBIをもつ人のGLSは-15.7%と,非SBIの-17.3%よりも有意に値が小さかった(P<0.01)。一方,LVEFについては,SBIと非SBIとで有意な差はみられなかった(SBI: 63.3%,非SBI: 63.8%,P=0.60)。
多変量解析*を用いて左室収縮機能とSBIとの関連を検討した結果は以下のとおりで,LVEFとSBIとの関連はみられなかったが,GLSとSBIは有意に関連していた。
*年齢,性別,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙歴,左室心筋重量係数,相対壁厚,左室拡張機能障害で調整
LVEF(+1 SD): オッズ比1.00(95%信頼区間0.96-1.05),P=0.98
LVEF低値(vs. 正常): 0.64(0.19-2.16),P=0.47
GLS(-1 SD): 1.16(1.04-1.30),P<0.01
GLS低値(vs. 正常): 3.28(1.53-7.03),P<0.01
GLSについては,さらにLVEFによる調整を行ったモデルにおいても,以下のとおりSBIとの有意な関連がみられた。
GLS(-1SD): 1.18(1.05-1.33),P<0.01
GLS低値(vs. 正常): 3.56(1.62-7.83),P<0.01
◇ 白質高信号体積(WMHV)と左室収縮機能
白質高信号体積(white matter hyperintensities volume: WMHV)の平均値は0.63%,中央値は0.32%であった。
LVEF低値の人と正常の人とで,WMHV値に有意な違いはみられなかった(それぞれ0.76%,0.62%,P=0.39)。一方,GLS低値の人では,正常の人に比してWMHV値が有意に高くなっていた(1.15%,0.56%,P<0.001)。
多変量解析*を用いて左室収縮機能とWMHV(対数変換)との関連を検討した結果は以下のとおりで,LVEFとWMHVとの関連はみられなかったが,GLSについては低値ほどWMHVが高くなる有意な関連がみられた。
*β: パラメータ推定(標準化)。年齢,性別,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙歴,左室心筋重量係数,相対壁厚,左室拡張機能障害で調整
LVEF(+1 SD): β-0.04,偏回帰係数-0.06,P=0.42
GLS(+1 SD): β0.11,0.12,P<0.05
GLSについては,さらにLVEFによる調整を行ったモデルにおいても,WMHVとの有意な関連がみられた(β: 0.10,P<0.05)。
◇ 結論
左室機能障害と無症候性脳病変との関連について,心疾患のない一般住民を対象とした前向きコホート研究において,左室機能の指標として左室駆出率(LVEF)ならびに心筋ストレイン(GLSで評価)の二つを用いた検討を行った。その結果,GLS低値は無症候性脳梗塞ならびに白質病変容積のいずれとも有意に関連しており,この関連はLVEFとは独立していた。一方,LVEFは無症候性脳梗塞と白質病変容積のいずれとも関連していなかった。以上よりGLSは,LVEFが正常の場合であっても,脳血管疾患や認知機能低下のリスク予測や高リスク者の把握のために有用であると考えられた。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康