[2013年文献] 若年性認知症の危険因子(スウェーデンの徴兵登録者 約49万人)

Nordström P, et al. Risk factors in late adolescence for young-onset dementia in men: a nationwide cohort study. JAMA Intern Med. 2013; 173: 1612-8.pubmed

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老年期の認知症の危険因子に関する疫学研究は進んでいるが,65歳未満発症の若年性認知症の危険因子の研究は少なく,本研究成果は意義深い。スウェーデンの徴兵対象者の若年男性49万人における37年間の追跡調査の結果,9つの独立した危険因子が見出された(寄与度68%)。このうち,徴兵時の収縮期血圧値,追跡期間中のアルコール中毒・その他の薬物中毒・脳卒中・うつ病は,コントロールあるいは修飾可能な因子であり,若年性認知症予防のための方策を考えるうえで重要と考えられる。
編集委員・磯 博康
目的
65歳未満で発症する若年性認知症は,患者の職業,社会生活,家族などに重大な影響を及ぼすが,その初期症状は非特異的かつ多様であり,また高齢者の認知症とは異なる病態を示すため,診断は容易ではない。そこで,スウェーデンの徴兵制度の対象となった約49万人の若年男性からなる大規模なコホートにおいて,発症前の認知機能,身体的特徴,服薬状況,遺伝的要因などが若年性認知症の発症とどう関連しているかを分析した。
コホート
スウェーデンで1969年9月15日~1979年12月31日に徴兵された男性49万7844人のうち,体重が不明/極端(40 kg未満または170 kg超),または身長が不明/極端(140cm未満または215 cm超)であった9352人,ならびにデータに不備のある8人を除外した48万8484人(平均年齢18歳)を37年間(中央値)追跡。なお,この期間に徴兵の対象とならなかったのは,拘置中の人,重度の慢性疾患または障害をもつ人(全スウェーデン人男性の2~3%)のみであった。

以下の4つのテストを実施し,それぞれの正規化zスコアの和(1~40: 高値ほど認知機能が高い)を用いて全般的な認知機能を評価した。
  ・論理テスト: 書面の指示を理解する能力を評価
  ・単語記憶テスト: 与えられた単語の同義語を4つの選択肢から選択させて評価
  ・空間視覚テスト: 立体的な物体を平面(二次元)の図として正しく描写できるかどうかを評価
  ・応用テスト: 問題解決能力を評価
結 果
◇ 対象背景
徴兵時の年齢18.5歳,体重68.2 kg,身長179 cm,血圧128 / 71 mmHg,大学卒業者27.8%,認知症の父親をもつ人6.3%,認知症の母親をもつ人7.5%。追跡期間中の平均受診回数は3.3回。追跡期間中にアルコール中毒と診断されたのは5.5%,その他の薬物中毒は1.3%,うつ病または抗うつ薬の使用は13.8%,心筋梗塞は2.4%,脳卒中は1.0%で,追跡期間中に抗精神病薬の服用を開始したのは2.5%,糖尿病治療薬の服用を開始したのは5.8%であった。

◇ 若年性認知症の危険因子
追跡期間中に506人が若年性認知症と診断され,36人が軽度認知機能障害と診断された。若年性認知症のうち19人はパーキンソン病にともなう認知症,6人はレビー小体認知症であることがわかったため除外。最終的な発症者は487人(発症率91.7 / 10万人)で,発症時の平均年齢は53.6歳であった。
病型の内訳をみると,アルツハイマー病が146人,脳血管性認知症が92人,アルコール性認知症が69人,前頭葉変性症が33人,病型不明が147人であった。

多変量Cox比例ハザード回帰分析において,若年性認知症発症の独立した危険因子となったのは,アルコール中毒,脳卒中,抗精神病薬服用,うつ病,父親の認知症,アルコール以外の薬物中毒,徴兵時の認知機能(低スコア),徴兵時の収縮期血圧(高値),徴兵時の身長(低値)であった。これらの人口寄与危険度(PAF)の合計は68%(95%信頼区間39%-85%)。
各危険因子の,認知症発症の多変量調整ハザード比(HR)ならびにPAFは以下のとおり(徴兵時の年齢・体重・身長・膝の筋肉の強さ・収縮期血圧・認知機能・認知症家族歴・学歴,徴兵から15年後の年収,追跡期間中のアルコール中毒・その他の薬物中毒・うつ病・心筋梗塞・脳卒中・抗精神病薬服用・糖尿病治療薬服用を調整)。
  身長(-1 SD): HR 1.16(95%信頼区間1.04-1.29); 180 cm未満のPAF 0.16
  収縮期血圧(-1 SD): HR 0.90(0.82-0.99); 128 mmHg未満のPAF 0.06
  父親の認知症: HR 1.65(1.22-2.24); PAF 0.04
  認知機能スコア(-1 SD): HR 1.26(1.14-1.40); 23.1点未満のPAF 0.29
  追跡期間中のアルコール中毒: HR 4.82(3.83-6.05); PAF 0.28
  追跡期間中のその他の薬物中毒: HR 1.54(1.06-2.24); PAF 0.03
  追跡期間中のうつ病または抗うつ薬服用: HR 1.89(1.53-2.34); PAF 0.28
  追跡期間中の脳卒中: HR 2.96(2.02-4.35); PAF 0.04
  追跡期間中の抗精神病薬服用: HR 2.75(2.09-3.60); PAF 0.12

認知症の病型別の独立した危険因子は以下のとおりとなった。
  アルツハイマー病: うつ病
  脳血管性認知症: 認知機能(低値),うつ病,脳卒中
  アルコール性認知症: 徴兵年,徴兵から15年後の年収(低額),うつ病,脳卒中,抗精神病薬服用
  前頭葉変性症: うつ病,抗精神病薬服用

飲酒と喫煙に関する詳細な情報のある23696人のサブコホートでみると,追跡期間中のアルコール中毒には,徴兵時の飲酒習慣が強く関連していた(ビールを毎日飲む人では,まったく飲まない人にくらべてアルコール中毒のオッズ比が約6倍)。また,若年性認知症の発症者では,非発症者に比して徴兵時の喫煙率が有意に高かった(それぞれ74.6%,59.4%,P=0.01)。

◇ 複数の危険因子の組み合わせと若年性認知症リスク
9つの危険因子をいくつもつか(なし/1つ/2つ以上)と若年性認知症発症リスクとの関連を検討した結果,徴兵時の認知機能がもっとも高い三分位で危険因子のない人を対照とすると,認知機能がもっとも低い三分位で危険因子を2つ以上もつ人の若年性認知症発症の多変量調整ハザード比は,20.38(95%信頼区間13.64-30.44)と顕著に高くなっていた。
徴兵時の認知機能にかかわらず,危険因子の数が多くなるほど若年性認知症発症リスクが高くなっていた(すべてP for trend<0.001)。また,危険因子の保有数にかかわらず,徴兵時の認知機能が低い人ほど若年性認知症発症リスクが高くなった(すべてP for trend<0.01)。

◇ 若年性認知症と死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは26105人。
若年性認知症を発症した人の死亡の多変量調整ハザード比は3.54(95%信頼区間2.77-4.53)と,非発症者に比して有意に高かった(徴兵時の年齢・体重・身長・膝の筋肉の強さ・血圧・認知機能・認知症家族歴・学歴,徴兵から15年後の年収,追跡期間中のアルコール中毒・その他の薬物中毒・うつ病・心筋梗塞・脳卒中・抗精神病薬服用・糖尿病治療薬服用により調整)。
追跡期間中のアルコール中毒(多変量調整ハザード比5.95),心筋梗塞(2.88),脳卒中(3.44),その他の薬物中毒(1.86)も,追跡期間中の死亡リスクの有意な増加と関連していた。


◇ 結論
スウェーデンの徴兵制度の対象となった約49万人の若年男性における長期間の観察研究(追跡期間中央値: 37年)により,若年性認知症の危険因子を検討した結果,9つの独立した危険因子(アルコール中毒,その他の薬物中毒,徴兵時の収縮期血圧高値,認知機能低値,身長低値,父親の認知症,追跡期間中の脳卒中,追跡期間中のうつ病,追跡期間中の抗精神病薬服用)が見出された。これらの危険因子の若年性認知症発症への寄与度は68%であった。また,若年性認知症発症者のその後の死亡リスクは非発症者よりも有意に高かった。以上の結果より,若年性認知症発症予防のために,今後,青年期に修正可能な危険因子のコントロールや,高リスク者の早期同定を行うことが期待される。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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