[2013年文献] ナッツ類の摂取頻度が多いほど,全死亡リスクが低下(NHS+HPFS)
Bao Y, et al. Association of nut consumption with total and cause-specific mortality. N Engl J Med. 2013; 369: 2001-11.
- 目的
- ナッツ類は,不飽和脂肪酸,食物繊維,ビタミン,ミネラル,植物ステロール,フェノール系抗酸化物質といったさまざまな栄養素を豊富に含む食品である。米国食品医薬品局(FDA)は2003年,複数の観察研究および臨床試験の結果をもとに,低脂肪食の一環としてナッツ類を1日43 g摂取することで,心疾患リスクを低減できる可能性があるとした。その後も,ナッツ類の摂取が酸化ストレス,炎症,腹部肥満,高血糖症,インスリン抵抗性,内皮機能などの危険因子の改善のみならず,2型糖尿病,メタボリックシンドローム,大腸癌,および高血圧のリスク低下と関連することが示されてきたが,死亡リスクへの影響についてはいまだ十分な検討が行われていない。そこで,女性看護師および男性医療従事者を対象とした2つの大規模前向きコホート研究において,ナッツ類の摂取頻度と全死亡および死因別死亡リスクとの関連を検討した。
* N Engl J Medのウェブサイトでは,この結果をわかりやすく示したアニメーションも紹介されている。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307352 - コホート
- Nurses’ Health Study(NHS: 米国11州の女性看護師12万1700人を対象とし,1976年から行われている大規模前向きコホート研究),およびHealth Professionals Follow-Up Study(HPFS: 米国全土の歯科医,検眼士,整骨師,薬剤師,手足治療医,獣医などの男性医療従事者51529人を対象とし,1986年から行われている大規模前向きコホート研究)。
両コホートにおいて,食物摂取頻度調査票(FFQ)が導入された年(NHS: 1980年,HPFS: 1986年)において,ベースライン健診とともにFFQによる食事調査を受けたHPFSの男性49934人ならびにNHSの女性92468人のうち,癌・心疾患・脳卒中既往のある人(男性5939人,女性5611人),ナッツ類の摂取量の情報に不備のあった人(340人,1113人),身体計測値または身体活動に関する情報に不備のあった人(1157人,9280人)を除外した男性42498人および女性76464人を,それぞれ24年間,30年間追跡(男性90万3371人・年,女性213万5482人・年)。
追跡率は両コホートとも98%以上。
FFQにより,ナッツ類を1サービング(28 g)摂取する頻度をたずね,対象者を6つのカテゴリー(まったく食べない/週1回未満/週1回/週2~4回/週5~6回/1日1回以上)に分類した。
摂取頻度については,個人の長期的な食習慣に即した値を得るために,追跡期間中(FFQを2~4年ごとに実施)の摂取頻度の平均を用いた。ただし,追跡期間中に脳卒中,心疾患,狭心症または癌を発症した場合は,食習慣への影響を考慮し,発症以降のFFQのデータは用いなかった。 - 結 果
- ◇ 対象背景
ナッツ類の摂取頻度ごとのおもな対象背景は以下のとおりで(それぞれ,まったく食べない,週1回未満,週1回,週2~4回,週5~6回,1日1回以上の値),摂取頻度の多い人では少ない人にくらべてBMIや喫煙率が低く,身体活動量が多く,野菜,果物,アルコールの摂取量が多かった。
年齢(歳): 57.5,60.1,60.8,62.0,62.7,61.8
BMI(kg/m2): 26.0,26.1,25.9,25.6,25.2,24.9
身体活動量(METs/週): 19.2,20.4,25.2,28.5,31.3,34.3
現在喫煙率: 17.3%,13.6%,10.8%,9.9%,9.9%,9.8%
マルチビタミンサプリメント服用率: 41.9%,48.9%,51.3%,54.3%,55.2%,52.9%
アルコール摂取量(g/日): 6.0,6.4,8.2,9.5,11.0,11.3
赤身・加工肉の摂取量(サービング/日): 1.3,1.4,1.4,1.3,1.3,1.2
果物の摂取量(サービング/日): 2.1,2.1,2.3,2.5,2.8,2.9
野菜の摂取量(サービング/日): 2.4,2.6,2.9,3.2,3.4,3.4
◇ ナッツ類の摂取頻度と全死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは,男性(HPFS)では11229人,女性(NHS)では16200人。
ナッツ類の摂取頻度ごとの全死亡の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,性別を問わず,摂取頻度と全死亡リスクとの有意な負の関連がみとめられた。性別による異質性のP値が0.05より大きかったことから,男女をあわせた解析を行っても,同様の結果が得られた(P for trend<0.001)。
†年齢,人種,BMI,身体活動量,喫煙,スクリーニングのための身体検査受診,マルチビタミンサプリメント使用,アスピリン使用,糖尿病・心筋梗塞・癌の家族歴,糖尿病・高血圧・高脂血症の既往,総摂取エネルギー量・アルコール・赤身および加工肉・果物・野菜の摂取量,閉経状況(女性のみ),ホルモン補充療法(女性のみ)により調整
・男性(P for trend<0.001)
まったく食べない: 1.00(対照)
週1回未満: 0.91(0.85-0.96)
週1回: 0.91(0.86-0.97)
週2~4回: 0.89(0.83-0.94)
週5~6回: 0.83(0.76-0.91)
1日1回以上: 0.80(0.73-0.88)
・女性(P for trend<0.001)
まったく食べない: 1.00(対照)
週1回未満: 0.94(0.90-0.98)
週1回: 0.88(0.83-0.92)
週2~4回: 0.85(0.80-0.90)
週5~6回: 0.88(0.78-0.98)
1日1回以上: 0.79(0.68-0.91)
この結果は,種々の感度解析(喫煙経験者を除いた解析,極端なBMIの人を除いた解析,ベースライン時の糖尿病患者を除外するとともに追跡期間中の糖尿病発症者の発症以降の食事調査データを用いない解析,総ナトリウム摂取・地中海食スコア・オリーブオイル摂取・ナッツ類摂取レベルを予測する傾向スコアにより調整を行った解析,慢性疾患発症後のFFQデータも用いた解析,追跡期間の最初の2年間の死亡を除外した解析など)を行っても,ほぼ同様であった。
◇ ナッツ類の摂取頻度と死因別死亡リスク
ナッツ類の摂取頻度と死因別死亡リスク(心血管疾患死亡,心疾患死亡,脳卒中死亡,癌死亡,呼吸器疾患死亡,神経変性疾患死亡,感染症死亡,腎疾患死亡,糖尿病死亡,その他の原因による死亡)との関連について,男女をあわせて検討した。
その結果,ナッツ類の摂取頻度と多変量調整ハザード比†との有意な負の関連(P for trend<0.05)がみとめられたのは,心血管疾患死亡,心疾患死亡,癌死亡および呼吸器疾患死亡であった。
◇ サブグループ解析
ナッツ類をピーナッツと木になるナッツの2つに分けた解析を行った結果,全死亡の多変量調整ハザード比†は,ピーナッツを週2回以上摂取する人では0.88(vs. まったく食べない人,95%信頼区間0.84-0.93),木になるナッツを週2回以上摂取する人では0.83(0.79-0.88)とほぼ同等であった。この結果は,死因別死亡リスクについても同様であった。
年齢,BMI,身体活動量,喫煙,アルコール摂取,身体検査受診状況,マルチビタミンサプリメント使用,赤身・加工肉摂取量,果物の摂取量,野菜の摂取量,閉経およびホルモン補充療法状況によるサブグループ解析を行った結果,ほぼすべてのサブグループにおいて,ナッツ類を週2回以上摂取する人における全死亡の多変量調整ハザード比の有意な低下(vs. まったく食べない人)がみとめられた。BMI(<25/25~<30/≧30 kg/m2)については,どのサブグループでもナッツ類の週2回以上摂取が全死亡リスク低下と関連していたものの,とくに過体重および肥満の人で関連が強く,有意な相互作用がみとめられた(P for interaction=0.04)。
◇ 結論
女性看護師および男性医療従事者を対象とした2つの大規模前向きコホート研究において,ナッツ類の摂取と全死亡および死因別死亡リスクとの関連を検討した。その結果,ナッツ類の摂取頻度は,種々の危険因子による多変量調整後も,有意かつ用量依存的に全死亡リスクと負の関連を示しており,ナッツ類をまったく食べない人に対して,毎日1回以上食べる人の死亡率は約20%低いことが示された。また,死因別に検討すると,ナッツ類の摂取頻度は心血管疾患死亡,心疾患死亡,癌死亡および呼吸器疾患死亡リスクと負の関連を示していた。これらの結果は,ナッツ類をピーナッツおよび木になるナッツに分けた解析,ならびにさまざまなサブグループ解析を行ってもほぼ同様であった。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康