[2014年文献] 食事に添加される糖分からの摂取エネルギー量が多い人では,心血管疾患死亡リスクが高い(NHANES)

Yang Q, et al. Added sugar intake and cardiovascular diseases mortality among US adults. JAMA Intern Med. 2014; 174: 516-24.pubmed

コメント
砂糖入り飲料水と心血管疾患のリスクに関するエビデンスは散見されるが,食事に添加された糖分の摂取と心血管疾患リスクとの関連を検討したコホート研究はほとんどなく,米国民の代表サンプルを対象とした今回の研究は,貴重なエビデンスを提供したものといえる。心血管疾患の死亡リスクは,総摂取エネルギーに占める添加糖の割合が10%未満の人にくらべて,17~21%では1.4倍,21%を超える場合は2倍であった。今後,日本人でもエビデンスを構築するための検討が望まれる。
編集委員・磯 博康
目的
米国において,添加糖による1日あたりの摂取エネルギーは,1977~78年の235カロリーから1994~96年には318カロリーに増加し,これはおもに砂糖入りの甘い飲料の摂取増加によるものとされた。その後,添加糖による摂取エネルギーは1999~2000年から2007~08年にかけては低下したものの,米国では添加糖の摂取量がとくに子供でまだ多く,問題となっている。砂糖の摂取と心血管疾患との関連について,既存の研究では砂糖入りの甘い飲料の摂取量を評価したものが多く,添加糖全体の影響をみたものは少ない。そこで,米国の国民を代表する大規模なコホート研究において,食事に添加される糖の摂取状況の推移,ならびにその心血管疾患死亡リスクへの影響を長期的に検討した。
調理済食品に含まれる,あるいは調理の過程で加えられるすべての糖分。果物や果汁に含まれる糖分など,何もしない状態ですでに存在する糖分は添加糖ではない。添加糖を含む食品の例: 砂糖入りの甘い飲料,穀物や乳製品を使用したデザート,フルーツ飲料,飴類,シリアル,イーストを使用したパンなど。
コホート
米国健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES): 入院・施設入居者を除く米国の一般住民を対象とした調査。1994年以前は断面解析が定期的に実施されていたが,1999年以降は2年を1サイクルとして連続的に実施されている。

(1)添加糖の摂取状況の推移の調査
・NHANES III(1988~1994年): 20歳以上の男女16274人(妊婦を除く)のうち,24時間思い出し法による食事調査のデータに不備のある588人,心筋梗塞・脳卒中・心不全既往のある1321人,糖尿病既往があるか糖尿病治療薬を服用している996人,癌既往のある452人,BMI<18.5 kg/m2の279人,調整に用いる因子のデータに不備のある905人を除いた11733人。
・NHANES 1999~2004: 20歳以上の男女13422人(妊婦を除く)のうち,上記の除外項目についてそれぞれ740人,1560人,931人,757人,352人,296人を除いた8786人。
・NHANES 2005~2010: 20歳以上の男女16089人(妊婦を除く)のうち,上記の除外項目についてそれぞれ826人,1733人,1358人,952人,265人,327人を除いた10628人。

(2)添加糖の摂取と心血管疾患死亡リスクとの関連の調査
1988~2006年の期間における,NHANES IIIと国民死亡記録(National Death Index)を連結した11733人のデータ(NHANES III Linked Mortality Files)を用いた。追跡期間の中央値は14.6年間(16万3039人・年)。

添加糖の摂取については,24時間思い出し法による食事調査を行い(面接形式による初回調査は全員に実施し,電話インタビューによる2回目調査の実施率は,NHANES IIIで8%,NHANES 1999~2004では93%,NHANES 2005~2010では88%)であった。US Department of Agriculture Food and Nutrient Database for Dietary Studies(FNDDS)およびMyPyramid Equivalents Database(MPED)に示されている各種食品中の添加糖の量をもとに,個人の摂取量を推算した。
結 果
NHANES III(1999~2004)における非ヒスパニック系白人の割合は76.3%だったが,NHANES(2005~2010)では69.6%と減少し(P=0.004),メキシコ系アメリカ人の割合は5.1%から9.0%に増加した(P<0.001)。

◇ 添加糖の摂取状況の推移
総摂取エネルギーに占める添加糖の割合は,NHANS IIIの15.7%に対し,NHANES 1999~2004では16.8%(P<0.02)と有意に増加し,NHANES 2005~2010で14.9%(P<0.001)と有意に低下した。総摂取エネルギーに占める添加糖の割合が10%以上の人はそれぞれ78.1%,77.0%,71.4%,25%以上の人は10.3%,16.6%,9.9%と推移していた。添加糖の摂取が多かったのは,60歳未満,非ヒスパニック系黒人,喫煙未経験者。

◇ 添加糖の摂取と心血管疾患死亡リスク
1988~2006年の心血管疾患死亡は,16万3039人・年中831人。
総摂取エネルギーに占める添加糖の割合が高くなるほど,心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比は顕著に高かった。

総摂取エネルギーに占める添加糖の割合の五分位ごとの心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)ならびに15年追跡時の有害必要数(number needed to harm: NNH)は以下のとおりで,添加糖の摂取が多いほどリスクが高い有意な傾向がみとめられた(P for trend=0.004)。
  Q1(9.6%未満): 1(対照)
  Q2(9.6%以上13.1%未満): 1.07(1.02-1.12),NNH 265(166-715)
  Q3(13.1%以上16.7%未満): 1.18(1.06-1.31),NNH 109(67-297)
  Q4(16.7%以上21.3%未満): 1.38(1.11-1.70),NNH 53(33-152)
  Q5(21.3%以上): 2.03(1.26-3.27),NNH 22(13-66)

年齢,性,人種・民族,教育歴,喫煙,アルコール摂取,身体活動レベル,降圧薬服用,心血管疾患家族歴,Healthy Eating Indexスコア,BMI,収縮期血圧,総コレステロール,総摂取エネルギーで調整)

Q5のQ1に比した心血管疾患死亡リスクの増加は,サブグループ(60歳以上/未満,性別,教育年数12年以上/未満,Healthy Eating Indexスコア中央値以上/未満,身体活動,BMI 25 kg/m2以上/未満)を問わずみとめられたが,人種・民族についてみると,非ヒスパニック系黒人についてのみ,Q5でリスクが低い傾向がみとめられた(相互作用のP=0.09)。

また,総摂取エネルギーに占める添加糖の割合が10%未満の人に比して,10%以上25%未満の人の心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比は1.30(1.09-1.55),25%以上の人では2.75(1.40-5.42)と,いずれも有意に高かった。

Healthy Eating Index # の各コンポーネントと添加糖摂取との関連を検討した結果,添加糖の摂取と正の関連を示したのは総脂肪およびコレステロールの摂取で,負の関連を示していたのは全穀物,野菜,肉の摂取(いずれもP<0.05)。ただし,Healthy Eating Indexのコンポーネントによる調整を行っても,添加糖摂取の各カテゴリーにおける心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比は大きく変わらなかった。
  # 米国の食事ガイダンスへの一致度により食事の質を評価するスコア
 (http://www.cnpp.usda.gov/sites/default/files/healthy_eating_index/HEI2010-UpdatePaper.pdf)。

砂糖入りの甘い飲料を1週間に7杯以上(1杯: 360 mL)とる人の心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比は,1週間に1杯以下の人に比して1.29(95%信頼区間1.04-1.60)と有意に高かった。


◇ 結論
米国の国民を代表する大規模コホート研究において,食事に添加される糖(添加糖)の摂取(総摂取エネルギーに占める割合)は,1980年代後半から2000年代初頭にかけて増加したが,その後,2000年代後半には低下した。2000年代後半になっても,添加糖からのエネルギー摂取が総摂取エネルギーの10%以上を占める人が7割以上,25%以上を占める人が約1割で,添加糖を過剰に摂取している人が多いことが示された。心血管疾患への影響を長期的に検討した結果,総摂取エネルギーに占める添加糖の割合が10%未満の人にくらべ,17~21%の人の心血管疾患死亡リスクは1.4倍,21%を超える人では2倍と高くなっていた。この結果は,添加糖からのエネルギー摂取を制限すべきとしているWHOやAHAの推奨内容を裏付けるものといえる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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