[2014年文献] 脳内微小出血の関連因子(Framingham Heart Study)

Romero JR, et al. Risk factors, stroke prevention treatments, and prevalence of cerebral microbleeds in the Framingham Heart Study. Stroke. 2014; 45: 1492-4.pubmed

コメント
循環器疾患の観察疫学研究をリードしてきたFramingham Heart Studyにおいて,脳内微小出血の関連因子の検討が行われた。その結果,年齢,性別(男性),高血圧,総コレステロール低値,スタチン服用が独立した関連因子として見出された。とくに,総コレステロール低値については国内外のコホート研究(総コレステロール低値と脳出血リスクとの関連),スタチン服用については国外の介入研究(スタチン服用と脳出血リスク上昇の可能性)の結果と一致する,大変興味深い知見である。
編集委員・磯 博康
目的
脳内微小出血(cerebral microbleed: CMB)は,脳卒中や認知症,認知機能障害のリスク,ならびに抗血栓療法や脂質低下療法中の患者における脳内出血リスクの無症候性マーカーである。病理学的には,出血の部位によって,アミロイド・アンギオパチーに起因する脳葉CMB,および高血圧性の深部CMBに大別され,それぞれ古典的な心血管危険因子のみならず代謝系因子の影響も指摘されているが,これらの関連は部位ごとに異なっている可能性がある。そこで,脳MRI検査を実施したFramingham Heart Study,ならびにFramingham Offspring Studyコホートの断面解析によって,CMBの有病率,ならびにCMBに関連する因子を出血部位ごとに検討した。
コホート
Framingham Heart Study,ならびにFramingham Offspring Studyコホート。
1998~2008年に,Framingham Heart Studyの第26・28回検査またはFramingham Offspring Studyの第7・8回検査を受けた人のうち,2000~2009年に実施された脳MRI検査を受診した1965人。
ベースライン検査から脳MRI検査までの期間の平均は0.67年。

脳MRI検査で評価した脳内微小出血(CMB)の有無と部位(脳葉/深部)によって,以下の4つのカテゴリーを設けた。
  CMBなし(1792人)
  全CMB: 部位にかかわらずCMBがみとめられる(173人)
   脳葉CMB: 脳葉(皮質または皮質下白質)にのみCMBがみとめられる(109人)
   深部CMB: 深部(大脳基底核,視床,外包・内包の白質,脳幹または小脳)にのみCMBがみとめられる(38人)
   深部+混合型CMB: 深部にのみCMBがみとめられる,または深部と脳葉の両方にCMBがみとめられる(64人)

高血圧の定義は,JNC 7によるステージ1以上の高血圧とした(収縮期血圧≧140 mmHg,拡張期血圧≧90 mmHgまたは降圧薬服用)。
結 果
◇ 対象背景
年齢66.5歳,男性46.0%,高血圧56.0%,総コレステロール191 mg/dL,LDL-C 110 mg/dL,アスピリン服用40.7%,抗血小板薬服用28.7%,抗凝固薬服用4.4%,スタチン服用30.9%,アポリポ蛋白E(APOE)の遺伝子型がε4であったのは23.3%。

対象者の8.8%に脳内微小出血(CMB)がみとめられた。
このうち,出血が1か所のみであったのは62%,脳葉CMBは63%であった。

◇ CMBに関連する因子
ロジスティック回帰分析において,部位ごとにみたCMBの調整オッズ比と有意な関連を示していた因子は以下のとおりで,年齢はどの部位のCMBとも関連していた(すべてP<0.001)。
年齢,性,ベースライン検査から脳MRI検査までの期間により調整)

・全CMB
  年齢(+1歳): 1.08(95%信頼区間1.06-1.10)
  男性(vs. 女性): 1.82(1.31-2.51)
  高血圧(vs. 非高血圧): 1.71(1.15-2.54)
  総コレステロール低値(10パーセンタイル未満 vs. 以上): 1.91(1.20-3.03)
  スタチン服用(vs. 非服用): 1.67(1.20-2.31)
このうち総コレステロール低値ならびにスタチン服用については,多変量調整後も有意な関連がみとめられた(総コレステロール低値: さらにコホート,スタチン服用,抗血小板薬服用,抗凝固薬服用,高血圧により調整,スタチン服用: さらにコホート,抗血小板薬服用,抗凝固薬服用,高血圧,心血管疾患により調整)。

・脳葉CMB
  年齢(+1歳): 1.07(1.05-1.09)
  男性(vs. 女性): 1.99(1.33-2.97)
  総コレステロール低値(10パーセンタイル未満 vs. 以上): 1.99(1.14-3.44)
  スタチン服用(vs. 非服用): 1.52(1.02-2.27)
  APOE遺伝子型ε4(vs. ε4以外): 1.62(1.05-2.50)
このうち総コレステロール低値については,多変量調整後も有意な関連がみとめられた(さらにコホート,スタチン服用,抗血小板薬服用,抗凝固薬服用,高血圧により調整)。

・深部CMB
  年齢(+1歳): 1.10(1.06-1.13)
  抗血小板薬服用(vs. 非服用): 2.14(1.08-4.25)

・深部+混合型CMB
  年齢(+1歳): 1.11(1.08-1.14)
  高血圧(vs. 非高血圧): 3.13(1.45-6.78)
  スタチン服用(vs. 非服用): 1.92(1.15-3.21)
  抗血小板薬服用(vs. 非服用): 1.71(1.00-2.92)
このうち高血圧については,多変量調整後も有意な関連がみとめられた(さらにコホート,スタチン服用,抗血小板薬服用,抗凝固薬服用により調整)。


◇ 結論
米国の一般住民を対象とした前向きコホート研究の断面解析によって,脳内微小出血(CMB)の有病率,ならびにCMBに関連する因子を出血部位ごとに検討した。CMBを有していたのは対象者の8.8%。CMBに有意に関連していたのは年齢,性別(男性),高血圧,総コレステロール低値,ならびにスタチン服用だったが,CMBの部位(脳葉/深部)ごとに関連は異なっており,脳葉CMBには総コレステロール低値とAPOE遺伝子型(ε4)が,深部CMBには高血圧が影響していた。スタチン服用とCMBとの関連は,総コレステロール低値や抗血小板薬・抗凝固薬の併用とは独立にみとめられたが,断面解析であることからスタチンの適応によるバイアスの除外や因果関係の推定はできない。今回の結果は,虚血性心血管疾患予防を目的としたスタチン治療の有用性を否定するものでは決してなく,今後の検証が必要である。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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