[2015年文献] 定期的な身体活動は血管疾患のリスクを低下させるが,毎日行う人でのリスクの低下度は週に数回の人にくらべて大きくない(Million Women Study)
Armstrong ME, et al.; Million Women Study Collaborators*. Frequent physical activity may not reduce vascular disease risk as much as moderate activity: large prospective study of women in the United kingdom. Circulation. 2015; 131: 721-9.
- 目的
- 女性の身体活動は,冠動脈疾患や脳卒中発症リスクの低下と関連することがこれまでに示されている。しかし,脳卒中の各病型(出血性/虚血性脳卒中)や静脈血栓塞栓症については報告が少なく,身体活動の頻度・期間・種類ごとに信頼性の高い解析を行える規模の研究もこれまでにほとんどなかった。また,身体活動と血管疾患リスクとの負の関連は,因果の逆転(疾患発症者は,先に現れていた初期症状のために身体活動度を低くせざるをえなかった可能性がある)を反映しているとの指摘もある。そこで,英国の女性を対象とした大規模前向きコホート研究において,身体活動の頻度・期間・種類と,冠動脈疾患,脳血管疾患および各病型,ならびに静脈血栓塞栓症の発症リスクとの関連を検討した(因果の逆転を除外するために追跡期間の最初の4年間のイベントを除外)。
- コホート
- The Million Women Study: 1996~2001年に,英国NHS(National Health Service)の乳癌検診を受診した50~64歳の女性130万人を登録。このうち,浸潤癌(3%),冠動脈疾患・脳血管疾患・静脈血栓塞栓症の受診記録あり(1%),心疾患・脳卒中・血栓塞栓症・糖尿病既往の自己申告(12%),データ不備(4%)の人を除外した111万9329人を平均9年間追跡。
国家統計局の死因別死亡データや英国病院受診統計(Hospital Episodes Statistics for England),スコットランド健康登録(Scottish Morbidity Records)のデータとの連結により,血管疾患の発症・死亡状況を調査した。登録から3年後の身体活動調査の対象者は49万7857人。
身体活動についての調査は以下のとおり実施した。
(1)ベースライン(頻度の調査)
自己記入式質問票により,以下の2種類の身体活動について,頻度(しない・まれに/週1回未満/週1回/週2~3回/週4~6回/毎日)をたずねた。
・活発な身体活動 (発汗や心拍数上昇を伴うようなもの)
・全身体活動(種類・強度を問わない)
(2)登録後3年(量の調査)
自己記入式質問票により,5種類の身体活動(家事,ガーデニング,歩行,自転車,発汗や心拍数上昇を伴う活発な身体活動)について,毎週何時間くらい行っているかをたずね(家事を除き,夏と冬のそれぞれについて調査),個人の身体活動量(MET・時)を算出した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢55.9歳,BMI 26.0 kg/m2,アルコール摂取量6.0 g/日,喫煙率20.0%,喫煙未経験率52.1%,降圧薬服用率13.8%,脂質低下薬服用率2.6%。
登録から3年後における1週間あたりの身体活動量は66.9 MET・時であった。
ベースライン時の活発な身体活動,および全身体活動のいずれも,これらの頻度が高い人ほど体重,BMIおよび降圧薬服用率が低く,登録3年後の身体活動量が多い傾向がみられた。
最初の4年間を除いた追跡期間中の血管疾患発症状況は,冠動脈疾患49113人,脳血管疾患17822人(うちくも膜下出血1774人,脳内出血1791人,脳梗塞5993人),静脈血栓塞栓症14550人(うち肺塞栓なし7712人,あり7013人)。
◇ 身体活動の頻度と血管疾患発症リスク
ベースライン時の活発な身体活動,および全身体活動の頻度ごとの血管疾患発症の多変量調整相対リスク†は以下のとおりで(それぞれ「しない・まれに」,「多くとも週1回」,「週2~3回」,「週4~6回」,「毎日」の値),いずれについても頻度が高いほうが有意にリスクが低かったが,はっきりとした用量-反応関係はみられなかった。また,いずれの血管疾患についても,活発な身体活動・全身体活動を問わず,「毎日」の人では「週2~3回」の人にくらべて有意にリスクが高かった(冠動脈疾患に対する全身体活動を除く)。
(†時間依存性の年齢層別のBMI,喫煙,アルコール摂取量で調整し,社会経済的地位および地域で層別化,‡group-specific confidence interval: 対照とだけでなく,どのカテゴリー間でも比較が可能になるように算出された)
・冠動脈疾患
活発な身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(95%gsCI‡0.99-1.01),0.84(0.83-0.85),0.81(0.79-0.83),0.80(0.76-0.85),0.89(0.84-0.93)
全身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(0.98-1.02),0.87(0.85-0.88),0.84(0.82-0.85),0.75(0.73-0.78),0.83(0.82-0.85)
・脳血管疾患
活発な身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(0.98-1.02),0.83(0.80-0.85),0.81(0.78-0.84),0.87(0.80-0.95),0.96(0.89-1.04)
全身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(0.97-1.03),0.87(0.84-0.90),0.80(0.77-0.83),0.83(0.79-0.88),0.88(0.86-0.91)
・静脈血栓塞栓症
活発な身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(0.98-1.02),0.90(0.87-0.92),0.83(0.79-0.87),0.92(0.83-1.01),1.08(0.99-1.17)
全身体活動(異質性のP<0.001): 1.00(0.97-1.04),0.89(0.86-0.92),0.83(0.79-0.86),0.82(0.76-0.87),0.96(0.93-1.00)
◇ 層別解析
・BMI(やせ: 25 kg/m2未満/過体重: 25 kg/m2以上30 kg/m2未満/肥満: 30 kg/m2以上): 冠動脈疾患と脳血管疾患については,活発な身体活動および全身体活動のいずれにおいてもBMIカテゴリーによる有意な異質性がみとめられ,身体活動頻度とリスクとの負の関連がもっとも強かったのはやせた人であった。
・喫煙状況(喫煙未経験/禁煙/喫煙): 冠動脈疾患について,活発な身体活動および全身体活動のいずれにおいても喫煙状況による有意な異質性がみとめられ,身体活動頻度とリスクとの負の関連がもっとも強かったのは禁煙者であった。
・社会経済的地位: 有意な異質性はみとめられなかった。
◇ 脳血管疾患および静脈血栓塞栓症の病型ごとの解析
身体活動頻度と脳血管疾患の各病型(脳梗塞/脳内出血/くも膜下出血)の発症リスクとの関連を検討した結果,活発な身体活動・全身体活動を問わず,病型による有意な異質性はみとめられなかった。
身体活動頻度と静脈血栓塞栓症の病型(肺塞栓あり/なし)の発症リスクとの関連についても,やはり活発な身体活動・全身体活動を問わず,病型による有意な異質性はみとめられなかった。
◇ 身体活動の種類・時間と血管疾患発症リスク
登録3年後の身体活動量調査の結果から,ウォーキング(≦1/>1~5/>5時間/週),ガーデニング(0/>0~≦2/>2時間/週),自転車(0/>0~≦2/>2時間/週),活発な身体活動すべて(0/>0~≦2/>2時間/週),家事(≦3/>3~10/>10時間/週)のそれぞれについて,血管疾患発症の多変量調整相対リスク†を比較した。
その結果,全体的に身体活動を行う時間が長いほど,冠動脈疾患,脳血管疾患および静脈血栓塞栓症のリスクが低い傾向がみられた。ただし,実施者の少なかった自転車については冠動脈疾患を除いて明らかな傾向はみられず,また家事については,脳血管疾患と静脈血栓塞栓症についてのみ,実施時間に伴うリスクの低下傾向がみられた。
これら5種類の身体活動の量を総合的に評価するために,身体活動頻度が「しない・まれに」の人に比した1週間あたりの過剰な身体活動量を算出し,3つのカテゴリー(0~40/>40~80/>80 MET・時)間で血管疾患発症の多変量調整相対リスク†を比較した。その結果,いずれの疾患のリスクについても,過剰な身体活動量の度合いによる有意な異質性がみとめられたものの,カテゴリー間のリスクの差はわずかであった。
◇ 結論
英国の女性を対象とした大規模前向きコホート研究において,身体活動の頻度・期間・種類と,冠動脈疾患,脳血管疾患,ならびに静脈血栓塞栓症の発症リスクとの関連を検討した。その結果,身体活動をしない,またはほとんどしない人に対して,定期的な身体活動をしている人では冠動脈疾患,脳血管疾患および静脈血栓塞栓症のいずれの発症リスクも有意に低かった。なかでもリスクがもっとも低かったのは中程度の頻度で身体活動をしている人であり,「毎日」の人ではむしろリスクが増加する傾向もみられた。以上の結果は,脳血管疾患および静脈血栓塞栓症の病型を問わずみとめられ,また身体活動の種々の評価指標(強度,時間,量)を用いても同様に示された。これらの結果から,定期的に身体活動をしている女性ではしていない女性より血管疾患のリスクが低くなるものの,さらに量や頻度を増やしても,そのぶんリスクが低下するとは限らないことが示唆された。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康