[2015年文献] CKDと貧血はいずれも心房細動新規発症の危険因子であり,両者の合併でさらにリスクが増加(茨城県健康研究)

Xu D, et al. Anemia and Reduced Kidney Function as Risk Factors for New Onset of Atrial Fibrillation (from the Ibaraki Prefectural Health Study). Am J Cardiol. 2015; 115: 328-33.pubmed

コメント
日本人において今後の増加が予想され,脳塞栓の主要な起因ともなる心房細動について,茨城県に住む40~79歳の男女13万人を14年間追跡したコホート研究により,発症の危険因子を検討した。その結果,慢性腎臓病(CKD)と貧血が有意な危険因子であることが確認された。さらに,これらの組み合わせと心房細動発症との関連を分析してみると,CKDと貧血の両方を有することで,どちらも有さない場合にくらべてリスクが3倍以上になることが示された。
編集委員・磯 博康
目的
心房細動の危険因子は,年齢,高血圧,器質的心疾患など,慢性腎臓病(CKD)の危険因子と重複するものが多く,CKDは心房細動新規発症の独立した危険因子でもある。貧血はCKDの主要な合併症であり,CKD患者の左室肥大や心不全,全死亡の危険因子であることが示されているが,貧血と心房細動新規発症リスクとの関連についての検討は少なく,貧血とCKDが心房細動発症に対して相乗的な影響をもつかどうかもわかっていない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,CKD,貧血,およびこれらの組合わせと心房細動新規発症リスクとの関連について検討した。
コホート
Ibaraki Prefectural Health Study。
1993年にベースライン健診を受診した40〜79歳の茨城県の一般住民19万4333人のうち,翌1994年の健診を受診しなかった5万8022人,健診データに不備のあった2505人,心房細動を有する1198人,および赤血球増加症(男性でヘモグロビン[Hb]>18 g/dL,女性でHb>16 g/dL)の358人を除いた13万2250人を,2008年まで15年間追跡(平均追跡期間13.8年)。

推算糸球体濾過量(eGFR),および血清Hb値について,それぞれ以下の3つのカテゴリーに対象者を分類。
・eGFR(mL/min/1.73 m2): 60未満(CKD)(6.0%),60以上90未満(50.5%),90以上(43.5%)
・Hb(g/dL): [貧血]男性13未満・女性11未満(5.3%),[境界域]男性13以上15未満・女性11以上13未満(41.5%),[正常]男性15以上18以下・女性13以上16以下(53.2%)
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は,推算糸球体濾過量(eGFR)が低い人や血清ヘモグロビン(Hb)が低い人で有意に高かった。eGFRが低い人では血圧,BMI,総コレステロール,およびトリグリセリドの平均値が高く,血清Hbが低い人ではこれらの値は低かった。慢性腎臓病(CKD)の人では,喫煙率が高かったが毎日飲酒する人の割合は低かった。糖尿病の有病率はCKDの人で高くなっていたが,貧血の人では低かった。

追跡期間中に心房細動を新規発症したのは1232人で,発症率は0.16%/年。

◇ CKDおよび貧血と心房細動リスク
eGFRおよびHbのカテゴリーごとの心房細動新規発症の多変量調整ハザード比†は以下のとおりで(*P<0.0001),CKDと貧血はいずれも心房細動の独立した有意な危険因子であった。
年齢,性,収縮期血圧,拡張期血圧,BMI,総コレステロール,トリグリセリド,HDL-C,喫煙,飲酒および糖尿病で調整)

・eGFR(mL/min/1.73 m2
  90以上: 1(対照),60以上90未満: 1.38(1.21-1.56)*,60未満(CKD): 2.56(2.09-3.13)*

・Hb(g/dL)
  正常: 1(対照),境界域: 1.07(0.91-1.25),貧血: 1.50(1.24-1.83)*

◇ CKDおよび貧血の組み合わせと心房細動リスク
eGFR(mL/min/1.73 m2)とHb(g/dL)のカテゴリーの組み合わせごとの心房細動新規発症の多変量調整ハザード比†は以下のとおり(*P<0.05)。eGFRが正常(90以上)かつHbが正常の人(対照)に比し,貧血の人では腎機能にかかわらずリスクが有意に高くなっていたが,eGFRが正常かつHbが境界域の人では,有意なリスク増加はみられなかった。CKDと貧血をあわせもつ人では,とくにリスクが大きかった。

[eGFR 90以上]Hb正常: 1(対照),境界域: 1.12(0.93-1.37),貧血 1.23(1.04-1.48)*
[eGFR 60以上90未満]1.35(0.91-2.01),1.59(1.33-1.89)*,2.26(1.60-3.17)*
[eGFR 60未満(CKD)]2.11(1.53-2.90)*,3.00(1.67-5.38)*,3.22(2.43-4.19)*

心房細動発症に対するCKDと貧血の相互作用項を含めたモデルを作成すると,相互作用項における心房細動の多変量調整ハザード比†は,各々の因子から個別に予測されるよりも有意に高かった(P for interaction=0.0343)。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,CKD,貧血,およびこれらの組み合わせと心房細動新規発症リスクとの関連について検討した。平均13.8年間の追跡の結果,貧血とCKDはいずれも心房細動新規発症の有意かつ独立した危険因子であり,この両者を合併している場合は相乗的にリスクが高くなることが示された。また,腎機能正常の場合とは異なり,CKD患者では境界域の血清ヘモグロビン値低下も心房細動新規発症の危険因子となった。これらの結果から,心房細動発症予防のためには,CKDのみならず,貧血の管理も重要であると考えられる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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