[2019年文献] 閉経後の女性において,BMIが標準範囲内でも胴部の脂肪が多い人では心血管疾患発症リスクが有意に高い(Women’s Health Initiative)
Chen GC, et al. Association between regional body fat and cardiovascular disease risk among postmenopausal women with normal body mass index. Eur Heart J. 2019; Jun 30. pii: ehz391.
- 目的
- 肥満の指標であるBMIは,臨床や疫学研究において頻繁に使用される値であるが,BMIだけでは,脂肪量と除脂肪量(筋肉量,骨量,水分量)を区別することはできない。たとえばBMIが標準範囲内であっても,腹部の脂肪が多い人では,心血管疾患(CVD)死亡リスクが高くなることが知られている。そこで,Women’s Health Initiative(WHI)に登録された米国の閉経後の女性のなかで,BMIが標準範囲内であった人について,胴部の脂肪量ならびに脚部の脂肪量の,カテゴリーごとのCVD発症リスクについて検討した。
- コホート
- Women’s Health Initiative Observational Study(WHI-OS): WHI(閉経後の女性の死亡・障害・QOL低下の原因となるCVDや癌,骨粗鬆症などについて検討することを目的に米国の40施設で実施された。1993~1998年に登録された50~79歳の健康な閉経後女性16万1808人が対象)の延長試験として実施された観察研究。WHIに登録された16万1808人のうち,全身のdual energy X-ray absorptiometry(DXA)スキャンにより体組成を測定したのは11393人。そのうち,BMI(kg/m2)が標準範囲内(18.5~25.0)であった3464人のうち,CVD既往があり,エネルギーの過剰あるいは過小摂取,追跡データのない781人を除外した2683人を対象とした。追跡期間中央値は17.9年(40421人・年)。
全身,胴部(胸部+腹部),脚部(大腿+脹脛)における脂肪量の四分位値により,それぞれ4つのカテゴリーに分類した。
全身: [W1]<33.4%,[W2]33.4~<37.7%,[W3]37.7~<41.1%,[W4]≧41.1%
胴部: [T1]<27.1%,[T2]27.1~<32.9%,[T3]32.9~<37.7%,[T4]≧37.7%
脚部: [L1]<41.1%,[L2]41.1~<45.7%,[L3]45.7~<49.8%,[L4]≧49.8% - 結 果
- 追跡期間中のCVD発症は291人(冠動脈疾患202人,脳卒中105人,うち両方発症した人16人)。
◇ 対象背景
胴部ならびに脚部の脂肪量の四分位値により分けた,4つのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。
胴部,脚部ともに,脂肪量が多いカテゴリーほど,運動時間が短く,BMIが大きかった。また,スタチンならびに非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用している人の割合が多かった。
・胴部
人数(人): [T1]670,[T2]671,[T3]671,[T4]671
年齢(歳): 61.8,62.8,63.1,64.1(P<0.001)
人種
白人: 88.9%,90.6%,85.4%,86.0%
黒人: 5.7%,4.0%,6.1%,5.4%
ヒスパニック/アフリカ系アメリカ人: 3.0%,4.0%,6.0%,6.8%
その他/不明: 2.4%,1.4%,2.5%,1.8%
年間の世帯収入が5万ドル以上: 41.0%,37.5%,38.0%,34.4%(P=0.11)
喫煙: 11.0%,9.5%,9.6%,8.6%(P=0.51)
中程度の飲酒: 12.3%,11.4%,8.2%,7.3%(P=0.004)
運動(METs-時間/週): 17.8,14.9,11.8,9.2(P<0.001)
収縮期血圧(mmHg): 120.9,121.8,124.7,126.5(P<0.001)
拡張期血圧(mmHg): 72.2,72.6,73.5,73.3(P=0.014)
スタチン服用: 0.90%,3.1%,3.0%,6.4%(P<0.001)
NSAIDs服用: 13.9%,15.5%,17.4%,21.0%(P=0.004)
BMI(kg/m2): 21.4,22.5,23.1,23.6(P<0.001)
・脚部
人数(人): [L1]670,[L2]671,[L3]671,[L4]671
年齢(歳): 63.2,63.2,62.8,62.6(P=0.34)
人種
白人: 83.9%,88.7%,89.3%,89.1%
黒人: 6.7%,4.8%,4.8%,4.9%
ヒスパニック/アフリカ系アメリカ人: 6.3%,4.9%,4.6%,4.0%
その他/不明: 3.1%,1.6%,1.3%,2.0%
年間の世帯収入が5万ドル以上: 36.7%,39.5%,37.1%,37.5%(P=0.73)
喫煙: 13.1%,10.5%,8.3%,6.9%(P<0.001)
中程度の飲酒: 13.5%,10.5%,9.9%,5.4%(P<0.001)
運動(METs-時間/週): 17.7,13.9,12.2,9.9(P<0.001)
収縮期血圧(mmHg): 124.2,122.6,123.8,123.2(P=0.40)
拡張期血圧(mmHg): 72.8,72.3,73.4,73.1(P=0.18)
スタチン服用: 2.1%,3.6%,3.0%,4.8%(P=0.049)
NSAID服用: 14.8%,14.6%,17.9%,20.6%(P=0.009)
BMI(kg/m2): 22.0,22.5,22.8,23.2(P<0.001)
◇ 脂肪量とCVD発症リスクとの関連
脂肪量のカテゴリーごとにみた,CVD発症の多変量調整†ハザード比は以下のとおり。
全身の脂肪量とCVD発症リスクとのあいだに,有意な差はみとめられなかった。胴部の脂肪量がもっとも多いカテゴリーでは,CVD発症リスクが有意に高く,脚部の脂肪量がもっとも多いカテゴリーでは有意に低かった(†年齢,人種,閉経年齢,教育年数,世帯収入,喫煙,飲酒,運動,エネルギー摂取量,心筋梗塞または脳卒中既往,ベースライン時のホルモン補充療法,スタチンの服用,アスピリンの服用,NSAIDsの服用,WHI試験の参加形態[観察研究または臨床研究],身長で調整)。また,胴部の脂肪量が多い人ほど,CVD発症リスクが高くなる有意な傾向がみられた。
全身: [W1: 対照]1,[W2]1.26(0.89-1.78),[W3]1.24(0.87-1.78),[W4]1.35(0.95-1.92),P for trend=0.11
胴部: [T1: 対照]1,[T2]1.21(0.83-1.75),[T3]1.35(0.93-1.96),[T4]1.91(1.33-2.74),P for trend<0.001
脚部: [L1: 対照]1,[L2]0.94(0.68-1.29),[L3]0.82(0.58-1.15),[L4]0.62(0.43-0.89),P for trend=0.008
上記の調整因子に加えて,BMI,腹囲,ウエスト/ヒップ比,ヒップ周囲径をそれぞれ考慮した場合についても,胴部の脂肪量のカテゴリーでは,脂肪量が多いカテゴリーほど,CVD発症リスクが有意に高くなる傾向がみられた。
◇ 胴部の脂肪量と脚部の脂肪量との関連
胴部の脂肪量(少ない/普通/多い)別のカテゴリーについて,さらに脚部の脂肪量(少ない/普通/多い)で分けたときの,CVD発症の多変量調整†ハザード比は以下のとおり。
「胴部多+脚部少」の人では,「胴部少+脚部多」の人と比べて,CVD発症リスクは有意に高かった。
「胴部多+脚部少」: 1.0(対照)
「胴部少+脚部多」: 3.33(1.46-7.62)
◇ 脂肪量とバイオマーカーとの関連
胴部の脂肪量のカテゴリー,ならびに脚部の脂肪量のカテゴリーごとの,脂肪量といくつかの血中バイオマーカーとの関連をみたところ,胴部の脂肪量が多いカテゴリーほど,グルコース,インスリン,HOMA-IR,レプチン,CRP,トリグリセリド,LDL-Cが有意に高く,HDL-C ,性ホルモン結合グロブリン(SHBG)*が有意に低かった。
(*SHBGが低い人では2型糖尿病のリスクが高くなることが知られている)
◇ 結論
50~79歳の健康な閉経後女性を対象に,全身,胴部,脚部の脂肪量で分けたカテゴリーごとのCVD発症リスクについて分析した。その結果,胴部の脂肪量が多い人では,少ない人と比べて,CVD発症リスクが有意に高かったのに対し,脚部の脂肪量が多い人では,少ない人と比べて,CVD発症リスクが有意に低かった。また,胴部の脂肪量が多い人では,CVD発症の指標となるバイオマーカーのレベルも望ましくない値だった。閉経後の女性において,腹部の脂肪量の多さならびに脚部の脂肪量の少なさは,CVD発症リスクと有意に関連した。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康