2021年2月5日にepi-c.jpの編集委員である上島弘嗣先生の書籍,「ドクターうえしまの塩切り奮闘記 ~循環器疫学の専門家が実践する究極の食塩無添加生活~」が発売となります。
今回は特別企画として,30代にして血圧が高い編集者Sが,フレンチシェフである松嶋啓介氏のオンライン「塩なし」お料理教室(主催: 一般社団法人日本塩分管理支援協会)に参加する機会をいただきました。Zoomを使ったお料理教室で,参加者は松嶋シェフのアドバイスを聞きながら,家庭で実際にお料理を作りながら受講することができます。
家で過ごす時間が長くなり,お料理を作ることが多くなりました。お料理教室に参加するのは初めてだったうえに,今回はZoomを使ったオンラインお料理教室です。いったいどのような教室だったのでしょうか。日本塩分管理支援協会のご承諾を得てその内容をご紹介いたします。
がめ煮(筑前煮)
第1回のお料理はがめ煮です。松嶋シェフのご出身地である福岡県では筑前煮のことを「がめ煮」とよぶそうです。材料(4人前)は次のとおりです。
- 鶏もも肉 ………………………… 1枚
- 里芋 ……………………………… 5個
- 絹さや …………………………… 5個
- ごぼう …………………………… 1本
- 蓮根 ……………………………… 1節
- 人参 ……………………………… ½本
- 椎茸(干し椎茸でも可) ……… 5個
- こんにゃく ……………………… 1枚
- 鰹出汁 …………………………… 500 mL
- サラダ油 ………………………… 大さじ1
- 醤油 ……………………………… 大さじ1 ← すべて使わなくてもよい
この材料を使った場合,日本食品標準成分表2015年版(七訂)により塩分量を計算すると3.45 gとなります。1人当たり0.86 gとなり,醤油を使わなければ,食材に含まれるナトリウムだけになりますね。しかし,筑前煮といえば醤油味……。塩なしで果たしておいしいのでしょうか?
鶏肉は皮目を下にして“弱火”で焼く
調理開始です。松嶋シェフの講義を聞きながら参加者が実際に調理をしていきます。まずは鶏肉を一口より少し大きめにカットし,鍋にサラダ油を入れて,鶏肉の皮目を下にして弱火で焼きます。弱火で加熱することで,鍋のなかに鶏肉の脂が出てくるそうです。これはフランス料理を作る際のポイントだとか。「パチパチ」という鶏肉が焼ける音を聞きながら,香りの変化を追いかけてくださいとのことです。
次に火が通りにくい食材である,人参(乱切り),ごぼう(皮をそいでぶつ切り)を鍋に入れてしっかり混ぜます。コンニャクは手でちぎって入れます。ちぎることで断面がギザギザして,味がよく絡むそうですよ。
そして,蓮根(厚めの半月切り),里芋(一口大)を鍋に入れ,がめくり返します。「がめくり返す」という言葉は,「混ぜる」という言葉を福岡弁で「がめくり返す」ということから名づけられたといわれているとのことです。
最後に4等分に切ったしいたけと,絹さやを入れます。干ししいたけを使う場合は戻し汁ごと入れるとうま味が増します。
やさしくゆっくり火を入れて香りと味を引きだす
食材を全部入れ終わったら,鍋のなかをしっかりとがめくり返し,鰹出汁を入れて20分間煮込みます。このときの出汁の量は「鍋の底から3分の1」もしくは「具材が半分つかるくらいの分量」です。
そして,煮込む際の重要なポイントはずっと弱火で煮込むことです。やさしくゆっくり火を入れることで,香りと味を引きだすことができ,食材の“うま味祭り”になるというお話しを,松嶋シェフが熱く語ってくださりました。
弱火で火を入れるとアクが出ない!
20分経過し,受講生の皆さんが味見をしています。この時点で塩味は一切加えていませんが,皆さん口を揃えて「おいしい!」と言っています。
また,鍋のなかを撮影してくださった方の様子を見ていると,驚くことに鍋のなかにアクがありません。松嶋シェフ曰く,アクとは本来は食材の成分なので,弱火でじっくり火を入れることでうま味として閉じ込めるため,アクはでないとのこと。お肉やお魚をお料理に使う際は,当然アクが出るものだと思っていたので,とても驚きました。後日,私も実際に作ってみたところ,アクは本当に出ませんでした。
そして,最後の重要なポイントは「味見をしてから醤油を入れる」ということです。私もそうだったように,お料理を作る際にレシピ通りに醤油を入れてしまう場合が多いのではないでしょうか。しかし,松嶋シェフは「醤油を入れる前の味をしっかりと味わったあと,少しずつ醤油を入れていき,味を確かめながら醤油の量を見極めてください」と繰り返しお話しされていました。
(写真提供: 日本塩分管理支援協会)
まとめ
初めてのオンラインお料理教室は新しい発見の連続でした。とくに和食の基本とされている「さしすせそ」を松嶋シェフが完全に否定されていたのは印象的でした。精製した調味料(食塩や砂糖)は中毒性が高いとか。
今までは何の疑いもなく,調味料を使っていましたが,時間をかけることで,素材の味をしっかりと引き出すことでき,うま味や甘味いっぱいのお料理になります。
塩分を使わず,野菜をたっぷり使ったお料理は,血圧が高い私でも罪悪感なく,たくさん食べることができます(もちろんエネルギー摂取量には注意が必要です)。
忙しい日々の生活のなかでは,「時短」の料理が好まれているようです。しかし,たとえば週末だけでも,時間をかけて食材と向き合い,うま味と甘味を最大に引き出したお料理を楽しむ時間は心と身体(とくに循環器)にプラスになるのではないでしょうか。
[新刊案内]「ドクターうえしまの塩切り奮闘記」について
「ドクターうえしまの塩切り奮闘記」は,日本高血圧協会のウェブサイト内の上島弘嗣先生のブログ「ドクター上島の(続)食塩無添加日記」を再編集したものに,塩分摂取や高血圧に関する疫学研究を分かりやすく解説した「塩切りレクチャー」を追加しました。
「塩切りレクチャー」では,「塩分摂取により血圧が上がる仕組み」や「レニン・アンジオテンシン系」に関する分かりやすい解説や,血圧や循環器疾患に関する重要な疫学論文の紹介など,21編を収録しています。
また,近年,週刊誌やインターネット等の記事にある「減塩有害説」や「食塩抵抗性の人は減塩しても意味がない」といった説についても,科学的根拠に基づき反論されています。
血圧が気になっている方もそうでない方も,減塩に取り組みたい方もつまずいた方も,たくさんの方に読んでいただきたい1冊となっております。どうぞよろしくお願いいたします!
・弊社書籍紹介ページ(日本高血圧協会推薦!)
http://lifescience.co.jp/shop2/index_0209.html
[謝辞]
お料理教室参加の機会をいただきありがとうございました。
・一般社団法人日本塩分管理支援協会
https://www.jscsa.org/