[Editorial View 編集委員が選ぶ注目文献] 心房細動発症リスクスコアの作成(Framingham Heart Study)
Schnabel RB, et al. Development of a risk score for atrial fibrillation (Framingham Heart Study): a community-based cohort study. Lancet. 2009; 373: 739-45.
- 目的
- 心房細動は,血栓塞栓性イベントや心不全をはじめとする合併症リスク,および死亡リスクを著しく高めることが明らかになっている。心房細動はもっとも一般的な不整脈であり,高齢化や心疾患患者の予後改善にともなって今後さらに増加すると考えられているため,その予防対策が肝要である。しかし,これまでに複数の危険因子から心房細動リスクを予測するツールはなかった。そこで,日常診療で評価できる因子をもとに,心房細動発症リスクを予測するリスクアルゴリズムを作成した。
- コホート
- Framingham Heart Studyの第11回健診(1968〜71年[参加者2,955人])または第17回健診(1981〜1984年[2,179人]),Framingham
Offspring Studyの第1回健診(1971〜1975年[5,124人])または第3回健診(1984〜1987年[3,873人])のいずれかに参加した人のうち,心房細動既往のない45〜95歳の4,764人(複数回参加した場合は別に数え,のべ8,044人)を後ろ向きに抽出し,最大10年間追跡。
平均年齢は60.9歳,男性は45%,追跡人・年は男性32,544人・年,女性は41,717人・年。
また,心エコーを解析に入れた結果を検討するためのサブコホートが設定された。
対象となったのはFramingham Heart Studyの第16回健診(1979〜81年[参加者2,177人],Framingham Offspring
Studyの第2回健診(1979〜83年[1,864人])または第5回健診(1991〜95年[3,115人])のいずれかに参加した45〜90歳の5,152人(複数回参加した場合は別に数え,のべ7,156人)。
- 結果
- ◇ 心房細動の発症率
4,764人のうち,10年間で心房細動を初発したのは457人(10%)で,うち男性は253人,女性は204人。
年齢調整発症率は,男性で6.3 / 1,000人・年,女性で3.3 / 1,000人・年だった。
◇ リスクモデルの作成
まず,既存の報告を参考に選んだ因子(年齢,性別,喫煙,アルコール摂取,BMI,身長,血圧[収縮期血圧,拡張期血圧,脈圧,降圧薬治療],コレステロール,糖尿病,心電図所見[左室肥大,PR間隔,心拍],心疾患[著明な心雑音,心不全,心筋梗塞])を用い,Cox比例ハザードモデルで解析。
このうち,心房細動発症リスクと有意な関連を示した因子は年齢,性別(男性),BMI,収縮期血圧,脈圧,降圧薬治療,左室肥大,PR間隔,著明な心雑音,心不全,および心筋梗塞だった。
この結果を受け,年齢,性別,BMI,収縮期血圧,降圧薬治療,PR間隔,著明な心雑音,心不全を変数として含めた多変量モデルを作成した結果,C統計量(1に近いほど予測能が高い)は0.78(95%信頼区間0.76-0.80)であった。
χ2検定によると,このモデルにより予測した10年間の心房細動発症リスクの十分位は,実際に観察されたリスクと同等であった(P=0.09)。
◇ リスク計算式
各危険因子の保有状況を以下のように点数化し,個人の10年間の心房細動発症リスクを予測するリスク計算式を作成した。
・ 年齢
45〜49歳: 男性1,女性−3; 50〜54歳: 2,−2; 55〜59歳: 3,0; 60〜64歳: 4,1; 65〜69歳: 5,3; 70〜74歳: 6,4; 75〜79歳: 7,6; 80〜84歳: 7,7; 85歳以上: 8,8
・ BMI
30 kg/m2未満: 0,30 kg/m2以上: 1
・ 収縮期血圧
160 mmHg未満: 0,160 mmHg以上: 1
・ 降圧薬治療
なし: 0,治療中: 1
・ PR間隔
160 ms未満: 0,160〜199 ms: 1,200 ms以上: 2
・ 著明な心雑音の発現年齢
45〜54歳: 5,55〜64歳: 4,65〜74歳: 2,75〜84歳: 1,85歳以上: 0
・ 心不全の発症年齢
45〜54歳: 10,55〜64歳: 6,65〜74歳: 2,75歳以上: 0
以上の点数を足し合わせた結果と10年間の心房細動発症の予測絶対リスクは以下のとおり。
0以下: 1%以下,1: 2%,2: 2%,3: 3%,4: 4%,5: 6%,6: 8%,7: 12%,8: 16%,9: 22%,10以上: 30%以上
この結果,「15%以上のリスク」と判定されたのは,65歳未満の年齢層で53人(1%)だったが,65歳以上の高齢層では783人(27%)にのぼった。
二次解析として年齢・性別によるサブグループごとの検討を行った結果,モデルの適合度はどのサブグループでも一貫してみとめられた。
また,心エコーを定期的に実施していたサブコホートの5,152人において,上記の計算式によるリスクの判定を行ったところ,C統計量は0.76(95%信頼区間0.74-0.79)となった。また,計算式による予測リスクは実際に観察されたリスクと同等だった。
二次解析において,心房細動との有意な関連を示した心エコー所見(左心房径,左室壁厚,左室内径短縮率)をモデルに組み入れて検討した。その結果,C統計量の有意な増加がみられたものの(P=0.005),組み入れにともなう個人のリスク再評価の結果には有意な改善をみとめなかった(P=0.18)。
年齢,高血圧の有無,構造的心疾患の有無,リスクカテゴリーによる18のサブグループについて,それぞれ心エコー所見の組み入れによりリスクの再評価を行った結果,有意な改善を示したのは心臓弁膜症または心不全をもつサブグループのみだった。
◇ 結論
日常診療で評価可能な因子(年齢,BMI,血圧,降圧薬治療,PR間隔,心雑音,心不全)を用いて,個人の心房細動のリスクを簡便に算出し,高リスク者を同定することのできる計算式を作成した。心臓弁膜症や心不全がある場合を除き,心エコー所見を組み入れることによる予測式の改善はみられなかった。