◇ 対象背景
揚げものの摂取量の平均は138 g/日,食事全体に占める揚げものの割合は約7%であった。対象者の67%が揚げものの際にオリーブオイルを使用し,それ以外の対象者はヒマワリ油またはその他の植物油を用いていた。
揚げものの摂取量のカテゴリー(Q1,Q2,Q3,Q4)ごとのおもな対象背景は以下のとおり。
揚げものの摂取量(g): 47.0,105.7,158.4,249.6
年齢(歳): 50.4,49.5,48.9,48.3
BMI(kg/m2): 28.5,28.3,28.1,28.1
大学卒業者の割合(%): 13.3,12.8,10.8,9.0
喫煙率(%): 22.5,22.5,23.7,24.2
肉体労働者の割合(%): 6.2,8.5,10.3,12.3
重度の肉体労働者の割合(%): 2.2,1.9,2.1,2.5
自宅での身体活動量(METs h/週): 68.6,69.8,70.0,68.1
余暇の身体活動量(MetS h/週): 28.7,28.2,28.6,28.4
糖尿病(%): 7.5,5.1,3.9,3.2
高血圧(%)23.7,20.9,18.4,17.4
高脂血症(%): 24.8,20.5,18.5,16.7
総摂取エネルギー(kcal/日)1920.1,2133.0,2294.8,2566.6
エタノール換算アルコール摂取量(g/日): 11.5,14.5,17.0,20.4
野菜の摂取量(g/日): 255.0,241.1,232.3,237.4
果物の摂取量(g/日): 336.6,322.0,315.3,311.2
上島: 揚げものをよく食べる人ほど若いという結果は,現実的にも納得できますね。また,ベースライン時の対象者背景をみる際には,とくに血圧や肥満関連因子などのいわゆるclassicalな危険因子のデータがあるか,そしてどのようにとられているかにも注目してみてください。当然ながら,調整の際にはこれらのデータが用いられることになるからです。この研究では,高血圧既往や高脂血症既往の有無を質問票でたずねていますが,血圧やコレステロールの実測データがないことに注意しましょう。
◇ 揚げものの摂取と冠動脈疾患(CHD)リスク
追跡期間中にCHD(確定診断)を発症したのは606人で,うち心筋梗塞が466人,血行再建を要する狭心症が140人であった。なお,CHDの疑いも含めると,発症者は712人だった。
また,追跡期間中の全死亡は1135人であった。
上島: 欧米のなかではCHDがそんなに多くないといわれるスペインですが,CHD発症率をみると,やはり日本人にくらべて高いことがわかります。揚げものに用いる油がおもにオリーブオイルやヒマワリ油であったという点も,日本とは異なっており,このコホートでの結果を日本人にそのままあてはめて考えるのは難しいでしょう。調理に動物性脂肪であるバターやラードを多用する米国で検討すれば,また違った結果が出るかもしれません。
揚げものの摂取量のカテゴリー(Q1,Q2,Q3,Q4)ごとのCHD発症のハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれのモデルにおいても,摂取量とCHD発症リスクとの有意な関連はみとめられなかった。
(1)モデル1
(年齢,性別,地域,総摂取エネルギーで調整)
Q1: 1(対照),Q2: 1.05(0.84-1.33),Q3: 0.97(0.76-1.24),Q4: 0.94(0.72-1.23)[P for trend=0.52]
揚げものの摂取量100 g増加あたりのハザード比: 0.95(0.86-1.06)
(2)モデル2
(モデル1に加え,エタノール換算アルコール摂取量,教育歴,喫煙状況,仕事における身体活動状況,自宅での身体活動量,余暇の身体活動量,糖尿病既往,高脂血症既往,癌既往,経口避妊薬服用*,閉経状況*,ホルモン補充療法状況*,果物の摂取量,ナッツ類の摂取量,乳製品の摂取量,野菜の摂取量**,肉の摂取量**,魚の摂取量**により調整[*女性のみ,**揚げものを除く])
Q1: 1(対照),Q2: 1.15(0.91-1.46),Q3: 1.08(0.84-1.39),Q4: 1.11(0.84-1.46)[P for trend=0.60]
揚げものの摂取量100 g増加あたりのハザード比: 1.01(0.91-1.12)
(3)モデル3
(モデル2に加え,BMI,腹囲,高血圧既往により調整)
Q1: 1(対照),Q2: 1.15(0.91-1.45),Q3: 1.07(0.83-1.38),Q4: 1.08(0.82-1.43)[P for trend=0.74]
揚げものの摂取量100 g増加あたりのハザード比: 1.00(0.90-1.11)
上島: モデル1からモデル3へと,調整に用いる因子が増えるほど,Q1~Q4のハザード比の差が縮まってきています。モデル1ですでに「生物学的な年齢」による調整は行われていますが,モデル2・3で身体活動状況や食習慣に関する因子も解析に加えたことにより,「年齢そのもの以外の年齢の影響」も段階的に除かれ,若い人がCHDを発症しにくいという現象の影響が徐々に少なくなったと考えられます。しかし,最終的な結果をみると,それでも調整しきれない年齢の影響が残っているのではないかと感じます。
以上の結果は,揚げものの内訳としての食品(魚,肉,いも類,卵)ごとに検討しても,結果は同様であった。
また,揚げものの摂取量と全死亡リスクについても,有意な関連はみとめられなかった。
◇ 結論
揚げものの摂取量と冠動脈疾患(CHD)発症・死亡リスクとの関連について,スペインの一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。その結果,揚げものの摂取量とCHD発症リスク,および全死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった。ただし,スペインでの揚げものの調理および摂取に関しては以下のような特徴があるため,今回の結果は同様の特性を有する地中海諸国に限って適用可能と考えられる。
・調理によって酸化しにくいオリーブオイルをおもに用いている
・揚げものの摂取には,ファーストフードに多いフライもの(deep-fried food)だけでなく,フライパンで焼く・いためるもの(pan-fried food)も含まれる
・家庭での調理の際は,油を再利用することは多くない
・塩分を多く含むフライドスナックの摂取は少ない