牛乳を多く摂取する女性は全死亡ならびに骨折リスクが高い(スウェーデンの3コホート)

Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies.BMJ. 2014 Oct 28;349:g6015. pubmed

目的
牛乳はカルシウム,リン,ビタミンDなどの栄養素を含み,骨折リスクを抑制するとして摂取が推奨されている。北ヨーロッパでは乳糖をd-グルコースとd-ガラクトースに分解できる乳糖分解酵素(ラクターゼ)遺伝子変異の頻度が高く,牛乳に含まれる栄養素を効率よく摂取できるとされる。しかし牛乳には,酸化ストレスや炎症反応を惹起することが動物実験から示されているd-ガラクトースが1杯あたり約5 g含まれており,心血管疾患や癌のみならず骨代謝にも有害な影響を及ぼす可能性や,骨折予防の観点から摂取を推奨している食事指針を再検討する必要性が指摘されている。また,チーズやヨーグルトなどの発酵乳製品に限っては心血管疾患リスクを低下させるとの研究もある。そこで,牛乳を多く摂取すると酸化ストレスが増大し,死亡ならびに骨折リスクが高くなるという仮説を検証するために,一般住民を対象とした大規模コホート研究の前向き追跡データによる検討を行った。
コホート
(1)Swedish Mammography Cohort(女性)と(2)Cohort of Swedish Men(男性)の対象者における前向きの検討,ならびに(3)Swedish Mammography CohortのサブコホートとUppsala Longitudinal Study of Adult Men(ULSAM)コホートにおける,牛乳の摂取と酸化ストレス・炎症のバイオマーカーの関連について検討を行った。

(1)Swedish Mammography Cohort: スウェーデン中心部のウプサラまたはヴェストマンランドの住民で,1987~1990年にマンモグラフィ定期健診(ベースライン)を受けた39~74歳の女性90303人のうち,以下にすべて該当する38984人を,2010年12月31日まで22年間(中央値)追跡(123万1818人・年)。国民全員がもつID番号によるスウェーデン死亡登録(Swedish cause of death registry)ならびにスウェーデン全国患者登録(Swedish national patient registry)とのデータ連結を行い,死因別死亡ならびに骨折の状況を調査した。
・非黒色腫皮膚癌を除く癌の既往,ならびにデータに不備がない
・健診案内状に同封された食物摂取頻度調査票(FFQ)ならびに生活習慣質問票に回答(回答率74%)し,さらに1997年に実施された追加調査で再度FFQに回答(回答率70%)
・総エネルギー摂取量が平均値の3 SD以内

(2)Cohort of Swedish Men: スウェーデン中心部のエレブルーまたはヴェストマンランドの住民で,1997年に健診(ベースライン)を受けた45~79歳の男性100303人のうち,以下にすべて該当する45339人を,2010年12月31日まで13年間(中央値)追跡(53万4094人・年)。国民全員がもつID番号によるスウェーデン死亡登録ならびにスウェーデン全国患者登録とのデータ連結を行い,死因別死亡ならびに骨折の状況を調査した。
・非黒色腫皮膚癌を除く癌の既往,ならびにデータに不備がない
・健診案内状に同封のFFQならびに生活習慣質問票に回答(回答率49%)
・総エネルギー摂取量が平均値の3 SD以内

牛乳および乳製品(発酵乳,ヨーグルト,チーズ)の摂取量については,FFQによる食事調査で,96の食品の過去1年間の平均摂取頻度ならびに1回あたりの摂取量をたずねた結果から算出し,対象者を牛乳の摂取量による4つのカテゴリー(1日200g[1杯]未満/1日200~399 g[1~2杯]/1日400~599 g[2~3杯]/1日600 g[3杯]以上)に分けた(FFQを2回実施したSwedish Mammography Cohortでは,2回の調査結果を累積して摂取量を算出)。さらにSwedish National Food Agencyを参照し,種々の栄養素の摂取量を推定した(残差法によって総エネルギー摂取量で調整)。

(3)バイオマーカーの検討: 尿中8-イソプロスタグランジンF2α(酸化ストレスのマーカー)については,Swedish Mammography Cohortのサブコホートである臨床コホート(女性5022人)のうち,2003~09年にFFQならびに尿検査を実施した892人(平均年齢70歳),ならびにULSAMコホート(男性1138人)の第3回健診で1週間の食事記録,かつ第4回健診で尿検査を実施した633人で測定(尿検査時の平均年齢77歳)。血中のインターロイキン6(炎症のマーカー)については,ULSAMの第3回健診で1週間の食事記録,かつ第4回健診で血液検査を実施した700人で測定(血液検査時の平均年齢77歳)。
結果
◇ 対象背景
1日の牛乳の摂取量の平均は,女性240 g,男性290 gであった,
牛乳の摂取量のカテゴリー(1日200g[1杯]未満,1日200~399 g[1~2杯],1日400~599 g[2~3杯],1日600 g[3杯]以上)ごとのおもな背景は以下のとおりで,牛乳の摂取量が多いほどその他の栄養素の摂取量も多い傾向がみられたが,その他の背景に大きな差はみられなかった。

・Swedish Mammography Cohort(女性)
  人数(人): 16926,23438,15461,5608
  年齢(歳): 53.2,54.0,54.1,52.8
  BMI(kg/m²): 24.5,24.7,25.0,24.9
  総エネルギー摂取量(kcal/日): 1412,1535,1707,1965
  カルシウム(mg/日): 733,859,973,1101
  蛋白質(g/日): 62.2,66.4,69.9,73.1
  総脂肪(g/日): 44.3,48.9,55.0,64.9
  飽和脂肪酸(g/日)19.0,21.4,24.5,30.0
  アルコール(g/日): 3.1,2.6,2.1,1.9
  登録時喫煙率: 19.8%,18.3%,20.0%,24.0%
・Cohort of Swedish Men(男性)
  人数(人): 18459,10841,8927,7112
  年齢(歳): 58.9,61.0,61.9,60.9
  BMI(kg/m²): 25.6,25.6,25.8,26.4
  総エネルギー摂取量(kcal/日): 2513,2567,2718,3111
  カルシウム(mg/日): 1239,1420,1624,1931
  蛋白質(g/日): 98.3,101.5,104.9,110.9
  総脂肪(g/日): 89.6,89.2,89.3,89.2
  飽和脂肪酸(g/日): 40.2,40.5,41.3,42.2
  アルコール(g/日): 16.1,12.4,11.6,11.3
  登録時喫煙率: 24.0%,22.6%,26.0%,29.1%

追跡期間中の死亡は,女性では15541人(うち心血管疾患死亡が5278人,癌死亡が3283人),男性では10112人(うち心血管疾患死亡が4568人,癌死亡が2881人)。
骨折は,女性では17252人(うち4259人が大腿骨近位部骨折),男性では5379人(うち1166人が大腿骨近位部骨折)。


◇ 牛乳の摂取量と死亡・骨折リスク
牛乳の摂取量のカテゴリー(1日200 g[1杯]未満,1日200~399 g[1~2杯],1日400~599 g[2~3杯],1日600 g[3杯]以上)ごとの,死亡ならびに骨折の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり(年齢,BMI,身長,総エネルギー摂取量,アルコール摂取,食生活の健康度,カルシウムサプリメント服用,ビタミンDサプリメント服用,コルチゾン使用歴,教育年数,独居,身体活動,喫煙,Charlson’s comorbidity index,ホルモン補充療法[女性のみ],経産歴[女性のみ]により調整)。

(1)女性
2回のFFQにより評価した牛乳の摂取量が多いカテゴリーでは,対照に比して全死亡,心血管疾患死亡,癌死亡,全骨折ならびに大腿骨近位部骨折のリスクが有意に高くなっていた。
 全死亡: 1.00(対照),1.21(1.16-1.25),1.60(1.53-1.68),1.93(1.80-2.06)
 心血管疾患死亡: 1.00,1.16(1.09-2.04),1.59(1.47-1.73),1.90(1.69-2.14)
 癌死亡: 1.00,1.07(0.99-1.15),1.16(1.04-1.29),1.44(1.23-1.69)
 全骨折: 1.00,1.07(1.04-1.11),1.16(1.11-1.21),1.16(1.08-1.25)
 大腿骨近位部骨折: 1.00,1.19(1.11-1.28),1.55(1.41-1.69),1.60(1.39-1.84)

(2)男性
牛乳の摂取量が多いカテゴリーでは,対照に比して全死亡ならびに心血管疾患死亡のリスクが有意に高くなっていたが,癌死亡,全骨折ならびに大腿骨近位部骨折リスクについては,摂取量との関連はなし。
 全死亡: 1.00(対照),0.99(0.94-1.05),1.05(1.00-1.11),1.10(1.03-1.17)
 心血管疾患死亡: 1.00,1.04(0.96-1.12),1.10(1.01-1.19),1.16(1.06-1.27)
 癌死亡: 1.00,0.97(0.88-1.07),0.97(0.87-1.07),1.01(0.90-1.13)
 全骨折: 1.00,1.02(0.96-1.10),1.01(0.93-1.08),1.03(0.94-1.11)
 大腿骨近位部骨折: 1.00,0.95(0.82-1.11),1.13(0.97-1.31),1.01(0.85-1.20)

以上の結果は,骨粗鬆症や骨折に関連するとされるカルシウム,ビタミンD,リン,脂肪,蛋白質ならびにレチノールによる調整を行うと,さらに強められた。


◇ その他の乳製品の摂取量と死亡・骨折リスク
チーズの摂取量,ならびにヨーグルトを含む発酵乳の摂取量ごとに対象背景を比較した結果は,牛乳の摂取量ごとに比較した結果とほぼ同じ傾向を示した。

女性では,2回のFFQにより評価したチーズの摂取量が1日あたり20 g増加するごとに,全死亡,心血管疾患死亡,全骨折ならびに大腿骨近位部骨折の多変量調整ハザード比が有意に低下していた。これらの結果は,さらにカルシウム,ビタミンD,リン,総脂肪,飽和脂肪酸,総蛋白質ならびにレチノールの摂取量による調整を行っても同様であった。
男性では,チーズの摂取量が1日あたり20 g増加するごとに,全死亡ならびに心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比がわずかに低下する傾向がみられ, さらにカルシウム,ビタミンD,リン,総脂肪,飽和脂肪酸,総蛋白質ならびにレチノールの摂取量による調整を行うと有意な傾向となった。

女性では,2回のFFQにより評価した発酵乳の摂取量が1日あたり200 g増加するごとに,全死亡と大腿骨近位部骨折の多変量調整ハザード比が有意に低下していた。男性では,発酵乳の摂取量が1日あたり200 g増加するごとに,全死亡と癌死亡の多変量調整ハザード比が有意に低下していた。これらの結果は,さらにカルシウム,ビタミンD,リン,総脂肪,飽和脂肪酸,総蛋白質ならびにレチノールの摂取量による調整を行っても同様であった。


◇ 牛乳の摂取量と酸化ストレスならびに炎症マーカーの値
牛乳の摂取量は,女性では尿中8-イソプロスタグランジンF値との有意な正の関連を示したが,発酵乳の摂取量は,性別を問わず有意な負の関連を示した。
また,男性の牛乳の摂取量は,血中インターロイキン6値との有意な正の関連を示したが,発酵乳の摂取量は有意な負の関連を示した。
チーズの摂取量は,いずれのマーカーとも関連していなかった。


◇ 結論
牛乳の多量摂取が酸化ストレスを増大させ,死亡ならびに骨折リスクにつながるという仮説を検証するために,一般住民を対象とした大規模コホート研究における検討を行った。その結果,牛乳を多く摂取する人では,男女とも,1日1杯未満の人に比して全死亡ならびに心血管疾患死亡のリスクが有意に高かったが,チーズやヨーグルトなどの乳製品の摂取量については,このような関連はみられなかった。また,牛乳の摂取量は女性の全骨折および大腿骨近位部骨折のリスク増加と有意に関連していたが,男性では骨折リスクとの関連はなかった。牛乳の摂取量が多い人では,酸化ストレスならびに炎症反応を示すバイオマーカーの値も高かった。以上の結果は,骨折予防のために牛乳の摂取を推奨する現行のガイドラインの妥当性を問うものだが,あくまで観察研究から得られた結果であり,解釈には注意を要するとともに,今後の検証が求められる。

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