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循環器科医のための
COVID-19解説

第1回(2020.12.3)COVID-19における小児の川崎病類似症例 日本医科大学小児科学教室
深澤隆治

2019年末に中国武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,全世界に拡散しパンデミックとなった。10月22日時点で全世界の感染者数は41,227,176人,死者数は1,131,308人と報告されている1)

初期の報告では,成人に比べ小児での感染者は少なく重症化しにくいとされていたが,2020年4月になり,英国からSARS-CoV-2に感染・重症化した小児8症例の報告があり2),川崎病不全型,川崎ショック,マクロファージ活性化症候群(MAS),毒素性ショック症候群(TSS)などに類似した症状を呈したとされた。その後,欧米各地からも類似の報告がなされるに至り3-6),にわかにSARS-CoV-2感染症(coronavirus disease-2019: COVID-19)と川崎病の関係が脚光を浴びることになった。

しかしながら,これまでの報告をみると臨床的特徴として川崎病の主要6症状を満たすこともあるが,発症年齢が川崎病よりも高く,胃腸症状と心筋炎や血圧低下などの循環障害が多く,冠動脈障害は少ないといった特徴が報告され,これまでの川崎病の概念とは一致しないようでもある。今回は,まずは川崎病の特徴をあげ,欧米での報告をもとに,小児におけるSARS-CoV-2感染とPIMS-TS/MIS-Cについて解説する。

COVID-19により重症化した小児例

小児におけるSARS-CoV-2感染の初期の報告は中国からなされた7)。2,143例の小児患者が報告されているが,その大部分は無症状~軽症であり,成人と比べても重症化は少なく(5.9% vs. 18.5%,P<0.05),死亡率も0.1%程度とされた。

その後も,小児における感染が軽症であるとする報告は続くが8),COVID-19の全世界的パンデミックとなると,重症化する小児例が報告されるようになり,このなかに川崎病類似の症状を呈する症例が含まれるとされた。

2020年4月27日に英国のRoyal college of paediatrics and child healthから,「小児重症化COVID-19の定義と警告」9)が発せられると,世界保健機関(WHO),米国,フランス,スペイン,イタリアからも次々と警告が発表された。これらの重症化症例は欧州ではPaediatric inflammatory multisystem syndrome temporally associated with SARS-CoV-2(PIMS-TS),米国ではMultisystem inflammatory syndrome in children(MIS-C)とよばれるようになった。

川崎病とは

・川崎病の診断基準

川崎病は4歳以下の乳幼児に好発する全身性の血管炎症候群であり,冠動脈の強い血管炎をきたすことが特徴で,無治療では発症症例の約1/4で冠動脈に拡張・瘤・狭窄といった冠動脈合併症をきたす疾患である。

原因は不明であり,診断は以下の6つの主要症状のうち,5症状以上を満たすとき,または4症状でも冠動脈に合併症を認める場合に川崎病と診断される。

  • ① 発熱
  • ② 両側眼球結膜の充血
  • ③ 口唇,口腔所見: 口唇の紅潮,イチゴ舌,口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
  • ④ 発疹(BCG接種痕の発赤を含む)
  • ⑤ 四肢末端の変化(急性期: 手足の硬性浮腫,手掌足底または指趾末端の紅斑,回復期: 指先からの膜様落屑)
  • ⑥ 急性期における非化膿性頚部リンパ節腫脹

・川崎病不全型

ほかの疾患は否定され,川崎病以外に疑わしい疾患が考えられない場合には,症状の数はそろわなくても,川崎病不全型と診断されることになる。すなわち,川崎病不全型は「軽い」川崎病ではなく,心合併症合併率は症状がそろった確実な川崎病と同等であり,冠動脈合併症を防ぐためには迅速な診断と治療が必要となる。最近では,川崎病の新規発症患者の約2割を川崎病不全型が占めることとなり,その迅速な診断と治療が課題となっている10)

・川崎病発症には感染因子が関与

川崎病の原因として,これまでさまざまな説が提唱されてきたが,同定されるには至っていない。発症には人種差が顕著で,東アジア人での発症率がきわめて高く,とくに日本人は欧米人に比し川崎病罹患リスクは10~20倍高いとされる。一方,その疫学的特徴から川崎病発症には感染因子が関与していることは間違いなく,細菌原因説,ウイルス原因説,自然免疫説などが提唱されてきている(表1)。この中でコロナウイルスも原因として報告されたことがある11, 12)

現在は何らかの遺伝的素因をもつ乳幼児において,何らかの感染をきっかけに自然免疫が活性化され,免疫異常をきたして川崎病が発症するとする自然免疫説が一番妥当ではないかと筆者は考えている。自然免疫の異常は強い全身の炎症を惹起し,さまざまな炎症性サイトカインが高値となるサイトカインストームという状態を招く。この病態は川崎病以外でも,マクロファージ活性化症候群(MAS)や毒素性ショック症候群(TSS)といった自然免疫の異常を伴う自己炎症性疾患では共通であり,今回の重症SARS-CoV-2感染にも共通する病態とも言える。

表1 これまでに川崎病の原因として疑われた因子
  • 1. 細菌
    • リケッチア,A群溶血性連鎖球菌,緑色連鎖球菌,黄色ブドウ球菌,プロピオニバクテリウムアクネ菌,新型サンギス菌,エルシニア偽結核菌,肺炎マイコプラズマ,クラミジア
  • 2. スーパー抗原
    • ダニ抗原,カンジダ菌体成分,黄色ブドウ球菌スーパー抗原(TSST-1),A型溶血性連鎖球菌スーパー抗原(SPEA,SPEC),熱ショックタンパク(HSP),リポ多糖(LPS)
  • 3. ウイルス
    • ヘルペスウイルス(EBV,CMV,HHV6,HSV,HZV),コロナウイルス(HCoV-NL63,HCoV-229E),パルボウイルス(HboV,Parvovirus B19),インフルエンザウイルス(InfluenzaAH1N1/09),エプスタイン・バールウイルス(Ebstein-Barr virus: EBV),サイトメガロウイルス(cytomegalovirus: CMV),ヒトボカウイルス(human bocavirus: HboV),ヒトパラインフルエンザウイルス(human parainfluenza virus: HPIV),アデノウイルス2型,コクサッキーウイルス B3,麻疹ウイルス,ロタウイルス,デングウイルス,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV),トルクテノウイルス(torque teno virus: TTV)
  • 4. 自然免疫の異常
    • 何らかの遺伝的素因をもつ乳幼児が,何らかの感染をきっかけに自然免疫が活性化され,免疫異常をきたして川崎病を発症する

PIMS-TS/MIS-C

・定義

PIMS-TS/MIS-Cの定義が英国,米国から発表されている。

PIMS-TSの定義13)

  • ① 小児で発熱,炎症所見(好中球増多,リンパ球減少,CRP上昇),単~多臓器障害(ショック,心機能障害,呼吸障害,腎障害,消化管障害,神経障害)をきたす。
  • ② 敗血症,溶連菌やブドウ球菌によるショック症候群,エンテロウイルス等による心筋炎を伴う感染症を除外したもの
  • ③ SARS-CoV-2 PCRテストは陽性もしくは陰性

MIS-Cの定義14)

以下の1~3をすべて満たすもの

  • ① 21歳未満で38度以上の発熱が24時間以上継続し,検査所見で炎症所見(赤沈亢進,CRP,フィブリノーゲン,プロカルシトニン,D-ダイマー,LDL-C,IL-6の上昇,好中球増多,低アルブミン血症などの1つ以上の所見)を認めるほか,2つ以上の臓器障害(心機能障害,腎障害,呼吸障害,血液障害,消化管障害,神経障害,皮膚所見)を認める。
  • ② ほかに説明できる疾患がない。
  • ③ SARS-CoV-2の感染がPCR,血清学的または抗原検査で証明できる。または発症4週間以内にCOVID-19に曝露されている。

・PIMS-TS/MIS-Cに関する最新の知見

これらの定義は2020年4月末に発表されたものであるが,最初の報告から約半年が経過し,PIMS-TS/MIS-Cを呈する症例に関してさまざまな知見が判明してきている。ショックや川崎病類似の症状を呈する重症症例の多くは,SARS-CoV-2に対するPCR検査は陰性であり,血清のSARS-CoV-2に対する抗体が陽性である。このことはSARS-CoV-2の感染が直接PIMS-TS/MIS-Cを惹起するのではなく,感染後の生体内での何らかの反応でPIMS-TS/MIS-Cが引き起こされることを示唆する。

また感染エピデミックのピークから,数週間遅れてPIMS-TS/MIS-Cが増えることが各国で確認されていること15, 16),パンデミックがコントロールされている国では,PIMS-TS/MIS-Cの発症がまれであることから,PIMS-TS/MIS-Cの発症抑制にはパンデミックをきたさないことがもっとも重要であると考えられる。ちなみに日本でのPIMS-TS/MIS-Cの報告はなく,韓国,ベトナムで数例の症例があったと2020年10月末に開催された日本川崎病学会で報告された。

・PIMS-TS/MIS-Cの症状スペクトラム

PIMS-TS/MIS-Cの症状スペクトラムは広いが,症例が蓄積してきたことで臨床像が3つに分かれることが報告されている17, 18)。Whittakerら17)は,PIMS-TS 58例が以下の3つに大別されるとしている。

  • ① 発熱と炎症型(腹痛57%,発疹39%,冠動脈拡張・瘤4%: SARS-CoV-2血清診断陽性83%,PCR陽性22%)
  • ② ショック・心筋炎型(腹痛62%,発疹50%,冠動脈拡張・瘤17%: SARS-CoV-2 血清診断陽性88%,PCR陽性35%)
  • ③ 川崎病類似型(腹痛14%,発疹100%,冠動脈拡張・瘤14%: SARS-CoV-2 血清診断陽性67%,PCR陽性0%)

また米国からの報告18)では,MIS-C診断例570症例について潜在クラス分析を行い,以下の3クラスに分類されるとしている。

  • ① クラス1 多臓器障害型203例(ショック,心筋炎,消化管障害,他: 冠動脈拡張・瘤21%: SARS-CoV-2血清診断陽性98%,PCR陽性31%,血清診断とPCRともに陽性30%)
  • ② クラス2 呼吸障害型169例(咳嗽,呼吸障害,肺炎,ARDS,他: 冠動脈拡張・瘤16%: SARS-CoV-2血清診断陽性16%,PCR陽性100%,血清診断とPCRともに陽性16%)
  • ③ クラス3 川崎病類似型198例(発疹,粘膜所見,川崎病診断基準合致: 冠動脈拡張・瘤18%: SARS-CoV-2血清診断陽性97%,PCR陽性36%,血清診断とPCRともに陽性34%)

・PIMS-TS/MIS-Cの川崎病類似型の特徴

欧州・米国ともに,川崎病類似型ではほかの型に比べて呼吸症状が低く,皮疹の出現が多いことがあげられる。さらに欧州・米国の報告ともに注目すべきは,どのタイプでも冠動脈拡張・瘤が生じうることと,ショックや川崎病類似型では血清診断陽性率が非常に高い一方,発熱・炎症型や呼吸障害型はPCR陽性率が高いことがあげられる。このことは,より重症のタイプであるショックや川崎病類似型は,SARS-CoV-2感染後数週間経ってから発症することを意味しており,このことからも,SARS-CoV-2感染の直接作用よりも,感染に伴う何らかの生体の反応がこれら重症型の発症に関与していることを疑わせる。

川崎病とPIMS-TS/MIS-Cの川崎病類似型の違い(表2)

PIMS-TS/MIS-Cの症状スペクトラムは広いが,その約3割が川崎病類似の症状を呈するようである。川崎病とPIMS-TS/MIS-Cの川崎病類似型のおもな相違点を表2にまとめた。

表2 川崎病型PIMS-TS/MIS-Cと川崎病のおもな相違点
  川崎病型PIMS-TS/MIS-C 川崎病
原因 SARS-CoV-2感染の直接
作用よりも2次的な反応?
不明
(何らかの遺伝子要因を持つ人が何らかの感染をきっかけに自然免疫異常をきたして発症?)
年齢 6歳17),8歳16)(中央値) 4歳以下に多い
人種 黒人,ヒスパニックに多い 東アジア人に多い
腹部症状 多い(88%17),14%16) 認めることがある
冠動脈
拡張・瘤
14~18%17) 免疫グロブリン療法がない時代では
約25%
リンパ球
減少
あり なし

川崎病はまだ原因が不明であるが,何らかの感染をきっかけとした自然免疫の異常が考えられる。今回のPIMS-TS/MIS-Cも,SARS-CoV-2感染をきっかけとして免疫異常をきたし,川崎病と同様な生体の反応が起こったとも考えられる。

しかしながら,PIMS-TS/MIS-Cでは発症年齢が中央値6~8歳と高く,アジア人よりも黒人,ヒスパニック系に多いこと,腹痛,嘔吐下痢などの腹部症状が多いこと,検査所見ではリンパ球減少が特徴的な所見としてあげられる。このような相違点から,PIMS-TS/MIS-Cと川崎病は別のエンティティの疾患であると現時点では考えられているようである。しかし,SARS-CoV-2に起因した生体の高サイトカイン血症が,PIMS-TS/MIS-Cの川崎病類似型の基本病態であることは事実であり,細かな点での相違があり,川崎病とは言えないものの自己炎症性疾患との病態類似性が高いことから,川崎病とは類縁の疾患であるのではないかと筆者は考えている。

文献

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