[2003年文献] 1960~80年代,脳梗塞および脳出血の死亡率は減少したが,くも膜下出血および冠動脈疾患は変化なし
脳卒中の発症率および死亡率は1960~70年代にかけて大きく減少したが,1980~90年代にかけては減少の度合いが小さくなっていた。病型別にみると,脳梗塞および脳出血の死亡率は減少していたが,くも膜下出血では有意な変化はみとめられなかった。冠動脈疾患についても有意な変化はみとめられなかったが,高齢者では増加がみとめられた。これらの結果の背景には,不十分な血圧管理や,増加している代謝障害の影響があると考えられる。
Kubo M, et al: Trends in the incidence, mortality, and survival rate of cardiovascular disease in a Japanese community: the Hisayama study.Stroke 2003; 34: 2349-54.
- コホート
- 脳卒中あるいは心筋梗塞の既往のない40歳以上の3つの集団について,各々12年間追跡。第1集団は1961年に未発症の1618例(追跡率99.9 %,剖検率81.6 %),第2集団は1974年に未発症の2038例(追跡率99.9 %,剖検率86.2 %),第3集団は1988年に未発症の2637例(追跡率99.9 %,剖検率75.5 %)。
- 結 果
- 男女共に,高血圧の割合はコホート間で差が見られなかったが,降圧薬服用の割合は経時的に増加した。
重度の高血圧(ステージ2,3)は減少したが,軽度の高血圧(ステージ1)は男女ともに増加した。
脳梗塞の発症率は,第1から第2集団にかけて男性で有意に37 %減少,女性でも32 %減少した。第2から第3集団にかけては,男性で29 %減少したが,女性では減少に歯止めがかかった。
脳出血の発症率は,第1から第2集団にかけて男性で61 %と急激に減少したが,女性では変化なし。第2から第3集団にかけては,男女共に変化しなかった。
冠動脈疾患の発症率は,変化しなかった。
心血管疾患の発症率男性 女性 第1集団 第2集団 第3集団 第1集団 第2集団 第3集団 脳卒中 全脳卒中 1210 631* 529 * 598 447 388 * 脳梗塞 801 506 * 357 * ** 450 304 * 260 * 脳出血 321 125 * 130 * 63 73 70 くも膜下出血 59 0 42 70 70 58 冠動脈疾患 340 392 348 113 133 181 発症率 / 10万人・年 * P<0.05 vs. 第1集団 ** P<0.05 vs. 第2集団
脳卒中による死亡率は,持続的に減少した。これは,脳梗塞と脳出血の発症率の減少,および生存率の有意な上昇によるもの。
一方で,冠動脈疾患の発症率および死亡率は,高齢層での発症率増加を除き,変化しなかった。
心血管疾患の死亡率男性 女性 第1集団 第2集団 第3集団 第1集団 第2集団 第3集団 脳卒中 全脳卒中 634 232 * 138 * 286 162 * 102 * ** 脳梗塞 268 147 * 68 * ** 159 84 * 45 * ** 脳出血 283 77 * 30 * 61 32 29 くも膜下出血 56 0 40 44 45 27 冠動脈疾患 87 92 111 66 51 39 死亡率 / 10万人・年 * P<0.05 vs. 第1集団 ** P<0.05 vs. 第2集団
以上のように,脳卒中の発症率および死亡率は1960~70年代にかけて大きく減少したが,1980~90年代にかけては減少の度合いが小さくなっていた。病型別にみると,脳梗塞および脳出血の死亡率は減少していたが,くも膜下出血では有意な変化はみとめられなかった。冠動脈疾患についても有意な変化はみとめられなかったが,高齢者では増加がみとめられた。これらの結果の背景には,不十分な血圧管理や,増加している代謝障害の影響があると考えられる。