[2002年文献] 飲酒は,インスリン抵抗性と高血圧発症の相関を弱める

インスリン抵抗性は高血圧発症率と有意に相関していたが,この相関は飲酒により弱められることがわかった。

Arima H, et al: Alcohol reduces insulin-hypertension relationship in a general population: the Hisayama study.J Clin Epidemiol 2002; 55: 863-9.pubmed

コホート
1988年に糖尿病の検討のためにスクリーニング調査した40~79歳の2580人中,インスリン治療中の10人,高血圧582人,糖尿病171人,心房細動19人,血中インスリン未測定3人,死亡38人,転居80人を除いた1133人(1993年の追跡調査時)。
結 果
男性で女性より有意に高い値を示したのは,収縮期および拡張期血圧,空腹時血糖,トリグリセリド,高血圧家族歴,アルコール摂取,喫煙,摂取エネルギー総量,飽和脂肪酸摂取量,ナトリウム摂取量。アルコール摂取および喫煙では,特に顕著な男女差がみられた。
女性で男性より有意に高い値を示したのは,血中インスリン,総コレステロール,HDL-C,運動量。

高血圧は男性65人,女性121人,うち降圧治療を開始したのはそれぞれ29人(44.6 %),71人(58.7%)。
女性の高血圧発症率は血中インスリンと有意に相関した。有意ではないものの,男性でも同じ傾向がみられた。
血中インスリンと高血圧発症率
  血中インスリン (pmol/L) 三分位 P
<138 138-234 234<
高血圧発症率 (%) 男性 15.2 16.5 16.7 0.08
女性 12.1 16.8 22.5 0.003

年齢・性別補正後のアルコール摂取量と空腹時血糖には,有意な相関なし。
一方,血中インスリン濃度およびインスリン抵抗性指標は,アルコール摂取量と有意に逆相関した。
50 g/日以上の飲酒者では,非飲酒者に比べて血中インスリンが14 %低く(P=0.039),インスリン抵抗性指標も11 %低かった(P=0.022)。
アルコール摂取量とインスリン抵抗性
アルコール摂取量(g/日) 空腹時血糖 (mg/dL) 血中インスリン (pmol/L) インスリン抵抗性指標
0 97.74 (97.02-98.46) 205 (197-213) 1.31 (1.27-1.36)
1-29 99.18 (97.74-100.44) 199 (182-217) 1.27 (1.20-1.36)
30-49 100.26 (97.92-102.42) 199 (172-230) 1.26 (1.13-1.41)
≧50 100.08 (97.56-102.60) 171* (146-200) 1.13* (1.01-1.28)
表の値は,年齢・性別補正後の平均値(95 %信頼区間)。
* 非飲酒者(0 g/日)と有意差あり(P<0.05)

非飲酒群では,男女共に,高血圧の発症率は血中インスリンと有意に相関した。
飲酒群では,飲酒量に関わらず,高血圧発症率と血中インスリンの相関は見られなかった。
これらの結果は,飲酒が,インスリン抵抗性と高血圧発症の相関を弱めることを示唆するもの。

ロジスティックモデルによると,高インスリン血症,アルコール摂取,および高インスリン血症‐アルコール相互作用は,それぞれ他の因子の補正後でも,高血圧の有意な危険因子。
考えられる因子をすべて含めて多変量解析を行った結果,BMIも,高血圧の独立した危険因子だった。
インスリン抵抗性,およびインスリン抵抗性‐アルコール摂取相互作用は,高血圧と有意な相関なし。

以上のように,インスリン抵抗性は高血圧発症率と有意に相関していたが,この相関は飲酒により弱められることがわかった。


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