[1992年文献] 喫煙は冠動脈疾患の有意で独立した危険因子だが,血栓性脳梗塞発症との相関は見られず
日本人はコレステロール値が低く,冠動脈疾患(CHD)発症率が極めて低いことが知られているが,喫煙と心血管疾患(CVD)発症リスクの関連についての情報は乏しい。そこで日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,喫煙とCVD発症リスクとの関連について検討を行った。第1集団(1961年)を26年間,第2集団(1974年)を13年間追跡した結果,アテローム血栓性脳梗塞の発症率はCHDよりもはるかに高かった。両集団ともに,喫煙はとくに男性において CHD発症リスクと強く関連したが,アテローム血栓性脳梗塞発症リスクとは関連しなかった。喫煙率が低下する一方で,肥満,耐糖能異常,高コレステロール血症が増加しつつある日本人一般住民において,CHDの有意な危険因子である喫煙への対策の重要性はさらに増すと考えられる。
Fujishima M, et al: Smoking as cardiovascular risk factor in low cholesterol population: the Hisayama Study.Clin Exp Hypertens A 1992; 14: 99-108.
- コホート
- 第1集団: 40歳以上の1658例のうち,脳卒中・心筋梗塞既往例,喫煙情報が得られなかった例,または転居した55例を除いた1603例(1961~1987年,26年間)。
第2集団: 40歳以上で脳卒中既往のない2048例(1974~1987年,13年間)。
剖検率80%以上。 - 結 果
- 初期(1961年),中期(1973~74年),後期(1988年)で比較すると,男性の喫煙率は初期~中期で80%近くだったが,後期では50%に減少。女性の喫煙は中期からすでに減少しており,後期には7%となった。
第1集団における冠動脈疾患(Coronary Heart Disease, CHD)および血栓性脳梗塞(Thrombotic Brain Infarction, TBI)の累積発症率は,年齢と有意に相関した。
60歳以上の年齢層ではTBIの累積発症率がCHDよりも高く,男性でCHDの2.3倍,女性で2.5倍だった。
年齢調整後の喫煙例のCHDの累積発症率は,非喫煙例よりも有意に高かった。TBIでは有意差なし。
第1集団,第2集団それぞれの13年間の追跡結果を比較したところ,TBIは第2集団で有意に減少したが,CHDは変化なし。
男性では,第1集団でも第2集団でも,喫煙例のCHD発症率は非喫煙例より高かった。女性では,第1集団のみで同様に傾向が見られた。
TBIの発症率は,いずれの性別・集団でも,喫煙との相関は見られず。
コックス比例ハザードモデルによると,男性におけるCHDの有意で独立した危険因子は,第1・第2集団ともに年齢,喫煙,収縮期血圧。
女性におけるCHDの有意で独立した危険因子は,第1集団で年齢,喫煙,収縮期血圧,心電図異常,第2集団で年齢,収縮期血圧,総コレステロール,肥満。
TBIの有意で独立した危険因子は,いずれの性別・集団でも,年齢と収縮期血圧のみ。