[1989年文献] 1960~80年代にかけ,くも膜下出血の年間発症率は96.1(10万人あたり)で,女性の方が発症率が高い傾向,および年齢とともに発症率が急激に増加する傾向が見られた
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,くも膜下出血の長期的な発症率と予後についての検討を行った。22年間の追跡の結果,くも膜下出血の年間発症率は96.1/10万人で,既存の報告にくらべると3~13倍高く,女性のほうが男性よりも2.3倍高かった。くも膜下出血発症者の生存率も既存の報告に比べて著しく低いものであったが,これは剖検率が高いこと(84.1%)により,くも膜下出血による突然死が他の研究よりも多く検出されたことによるものと考えられる。
Kiyohara Y, et al: Incidence and prognosis of subarachnoid hemorrhage in a Japanese rural community.Stroke 1989; 20: 1150-5.
- コホート
- 40歳以上1840例のうち,脳卒中既往例および転居を除いた1621例(1961年より22年間)。
追跡率は99.9%。また,追跡期間中に死亡した722例中588例を剖検(剖検率81.4%)。 - 結 果
- 脳卒中発症は307例で,うち脳梗塞224例,脳出血49例,くも膜下出血26例,病型不明8例。
くも膜下出血発症26例中,女性の発症が20例と多かった。
くも膜下出血26例中22例が追跡期間中に死亡し,うち19例が剖検された。
発症時の平均年齢は70歳(49~87歳)。
10万人・年あたりの発症率は,加齢とともに上昇。
どの年齢層においても,女性の発症率が男性に比べて高く,年齢調整後の発症率は女性が男性の2.3倍だった。
年間発症率は96.1/10万人(95%信頼区間: 55.6-127.6)。
剖検に基づく本研究でのくも膜下出血の発症率は,他の研究の3~13倍にも及ぶ高いものだった。
なお,40代と50代に限れば,発症率はそれぞれ34.9,38.4と他の研究よりやや高い程度だが,60代以降で年齢とともに発症率が急激に増加する傾向は,他の研究では見られないものだった。
世界の疫学研究におけるくも膜下出血の発症率発症率 * 調査期間 久山町研究 (本研究) 96.1 1961-83 フラミンガム (アメリカ) 28 1949-75 カーライル (イギリス) 10.9 1955-61 フィンランド中部 19.4 1976-78 ヘルシンキ (フィンランド) 15.7 1954-61 タルトゥ (エストニア) 12 1970-73 アイスランド 8.0 1958-68 新発田 (日本) 20 1976-78 出雲 (日本) 21.0 1980-84 *10万人・年あたり
くも膜下出血で死亡した22例中,9例(34.6%)が発症後8時間以内に死亡。
8時間以内に死亡した9例を第1群,それ以降に死亡した13例を第2群として比較したところ,第1群の発症時平均年齢は69歳,第2群では70歳だった(有意差なし)。
第1群の死亡診断書ではくも膜下出血と判断された例はなく,4例が脳出血,1例が急性心臓死,1例が脳挫傷,3例が脳血管疾患もしくは頭蓋内出血,とされていた。
第2群の死亡診断書では10例(77%)がくも膜下出血と正しく診断されていた。