[1989年文献] 1960年代から80年代にかけ,死亡診断と剖検所見の一致率は65%。脳出血と診断された例の54%で,剖検により脳梗塞が確認された

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,1961~1983年の22年間に剖検を実施した20歳以上の死亡診断の正確性(とくに心血管疾患死亡)について検討を行った。その結果,死亡診断と剖検所見の一致率は65%で,脳出血と診断された死亡例のうち54%が脳梗塞であったことが確認された。医師の死亡診断でもっとも検出率が高かったのは脳卒中で,悪性腫瘍および心疾患の検出率は低く,これらの結果は他の研究結果とは異なるものであった。また,高齢者では,基礎疾患によって脳卒中死亡および心疾患死亡の診断がさらに難しくなる可能性が示唆された。

Hasuo Y, et al: Accuracy of diagnosis on death certificates for underlying causes of death in a long-term autopsy-based population study in Hisayama, Japan; with special reference to cardiovascular diseases.J Clin Epidemiol 1989; 42: 577-84.pubmed

コホート
1961年から1983年までに死亡した1088例のうち,死亡時に20歳以上だった剖検例846例。
結 果
すべての剖検例を,A: 陽性(診断で疾患ありとされ,剖検でも疾患あり),B: 偽陽性(診断では疾患ありとされたが,剖検では疾患なし),C: 偽陰性(診断で疾患なしとされたが,剖検では疾患あり),D: 陰性(診断で疾患なしとされ,剖検でも疾患なし)の4つに分類。
発見率は,剖検で確認された疾患が,死亡診断でも発見されていた割合,すなわちA/(A+C)。
正診率は,死亡診断書の診断が,剖検によって正しいと証明された割合,すなわちA/(A+B)。
剖検例の65%以上で死亡診断と剖検所見が一致した。

発見率が高かったのは脳卒中(84%),悪性腫瘍(78%),虚血性心疾患(66%)。
脳卒中と虚血性心疾患では,発見率のほうが正診率よりも高くなったが,悪性新生物では逆だった。
虚血性心疾患および悪性新生物の発見率は,年齢が高くなるほど有意に低くなった(P<0.05)。

疾患ごとの発見率および正誤率
剖検所見かつ死亡診断書 (例) 死亡診断書 (例) 剖検所見(例) 発見率 (%) 正診率(%)
A A + B A + C A / (A + C) A / (A + B)
脳卒中 167 214 199 84 78
虚血性心疾患 67 132 101 66 51
悪性新生物 171 186 218 78 92
その他 197 271 278 71 73
外傷 39 43 50 78 91
641 846 846 76 76
心血管疾患の種類別に見ると,最も見過ごされていたのはくも膜下出血。また,虚血性心疾患では,すべての脳卒中より正診率が低かった。
心血管疾患のいずれの種類においても,発見率より正診率のほうが高かった。

病型ごとの発見率および正誤率
  発見率 (%) 正診率 (%)
脳梗塞 55 63
脳出血 51 68
くも膜下出血 38 75
虚血性心疾患 40 46
死亡診断で脳出血とされた22例のうち,真の病名が脳梗塞だったのは54%。
死亡診断で脳梗塞とされた26例のうち,重度の病変が認められなかったのは84%。

死亡診断と剖検による真の病名
真の病名 (%) 死亡診断
脳出血 脳梗塞 くも膜下出血
脳出血 - 12 33
脳梗塞 54 - 33
くも膜下出血 23 0 -
病型不明 0 4 0
重度の病変なし 23 84 33
見過ごされた脳出血30例のうち,70%が死亡診断で病型不明とされていた。
見過ごされた脳梗塞52例のうち,37%が同様に死亡診断で病型不明とされていた。
真の脳梗塞およびくも膜下出血例のうち,死亡診断時に脳卒中とされなかった例は約40%に上る。

見過ごされた真の病名と死亡診断
死亡診断 (%) 見過ごされた真の病名
脳出血 脳梗塞 くも膜下出血
脳出血 - 23 33
脳梗塞 10 - 0
くも膜下出血 3 2 -
病型不明 70 37 27
重度の病変なし 17 38 40
病院死と自宅死を比較すると,病院死のほうが発見率が有意に高かったのは,心疾患および悪性新生物。
病型でみると,病院死のほうが発見率が有意に高かったのは,脳出血と虚血性心疾患。

虚血性心疾患及びその他の心疾患では,年代とともに発見率が有意に増加した。
脳卒中および悪性新生物では,発見率も正診率も変化しなかった。


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