[1988年文献] 1960年代から70年代にかけ,男性の脳出血は減少。男性のコレステロール高値群および女性の低値群では,脳出血の発症率が有意に高かった
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究により,脳出血の発症率および危険因子について,第1集団(1961~1983年)および第2集団(1974~1983年)における経時的な検討を行った。22年間の追跡の結果,男性での脳出血発症率は,第1集団の3.1/1000人・年から第2集団の1.2/1000人・年へと減少した。また,血中コレステロール濃度による比較では,男性では高値群,女性では低値群において,致死的な脳出血の発症率がもっとも高かった。
Ueda K, et al: Intracerebral hemorrhage in a Japanese community, Hisayama: incidence, changing pattern during long-term follow-up, and related factors.Stroke 1988; 19: 48-52.
- コホート
- 40歳以上の1621例を22年間追跡した第1集団(1961~1983年),および1974年に第1集団に新たに40歳以上の1156例を加え,死亡例および脳卒中既往のある82例を除いた2053例を9年間追跡した第2集団(1974~1983年)。
第1集団の平均年齢は男性55.5歳,女性56.9歳。追跡率99.9%,剖検率81.4%。
第2集団の平均年齢は男性56.5歳,女性は58.3歳。追跡率100%,剖検率85.9%。 - 結 果
- 22年間追跡した第1集団では,脳出血の死亡率は91.8%,くも膜下出血69.2%,脳梗塞43.5%。
第1集団における初発脳卒中のうち,一番多かったのは脳梗塞(71.6%)。脳出血は16.8%,くも膜下出血は8.9%だった。
第1集団で年齢層ごとに発症率を見ると,男女ともに脳梗塞は加齢にしたがって増加したが,脳出血では同様の傾向はなかった。
男性では,脳梗塞が脳出血の3.2倍と,女性の6.7倍に比べて脳梗塞の頻度が高かった。
血中コレステロール濃度ごとに全体を3群に分け,致死的な脳出血の発生率を比較すると,男性では高値群,女性では低値群で致死的な脳出血の発症率が最も高かった。
致死的な脳出血の発症率(/1000人・年)男性 女性 血中コレステロール 低値群 (76-106mg/dL) 3.7 1.9 * 中間群 (107-192mg/dL) 1.4 0.5 高値群 (193-284mg/dL) 5.3 ** 1.0 *P<0.05,**P<0.01 (vs. 中間群)
多重ロジスティック回帰分析によると,血中コレステロール値を連続関数として計算した解析1では,致死的脳出血の有意な危険因子は血圧のみ。
血中コレステロール値を序数(低値群=1,中間群=2,高値群=3)として計算した解析2では,脳出血の有意な危険因子はコレステロール低値,コレステロール高値,および血圧。
男性の脳出血の発症率は,第1集団から第2集団にかけ,3.1から1.2と有意に減少。
女性のみでは有意差がなかったが,男女合計では有意差あり。
年齢ごとの脳出血発症率の変化年齢層 男性 女性 合計 第1集団 第2集団 第1集団 第2集団 第1集団 第2集団 40-49 1.4 0.4 0.4 - 0.8 0.2 50-59 4.6 0.5 0.8 1.0 2.6 0.8 60-69 3.3 1.1 - 1.2 1.5 1.2 70+ 4.3 6.0 1.5 0.9 2.4 2.7 計 3.1 1.4 0.6 0.7 1.7 1.0 年齢補正後 3.1 * 1.2 0.6 0.7 1.7 * 0.9 発症率: 1000人・年あたり,*P<0.05 (vs. 第2集団)
男性の脳出血例において,第2集団で第1集団に比べて有意差があった因子は,年齢と拡張期血圧。
それぞれ有意差はないが,第1集団から第2集団にかけて収縮期血圧は低下,総コレステロールは増加傾向が見られた。
2cm2以上の出血は第1集団から第2集団にかけて有意に減少したが,小~中サイズの出血は逆に増加傾向。