[1987年文献] 1960年代,一過性脳虚血発作(TIA)の発症率は0.56(/1000人・年)。TIA群では脳梗塞の発症率が非TIA群より有意に高かった

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,一過性脳虚血発作(TIA)の発症率ならびに危険因子と予後についての検討を行った。20年間の追跡の結果,TIA発症率は0.56/1000人・年であり,男性では年齢と高血圧が強力な危険因子であった。TIA発症者では非発症者よりも脳梗塞発症リスクが有意に高かった。TIA後に発症した脳卒中の病型でもっとも多かったのはラクナ梗塞であった。

Ueda K, et al: Transient cerebral ischemic attacks in a Japanese community, Hisayama, Japan.Stroke 1987; 18: 844-8.pubmed

コホート
40歳以上の1658例のうち,転居および脳卒中由来の片側不全麻痺既往がある37例を除いた1621例(1961年から20年間)。
剖検率は82.4%。
結 果
一過性脳虚血発作(TIA)発症は18例。
脳卒中発症は257例で,うち脳梗塞が184例,脳出血が43例,くも膜下出血が22例,病型不明が8例。脳梗塞の184例中9例がTIA既往。

40歳以上1000人あたりのTIAの年間発症率は0.56(95%信頼区間: 0.60-1.62)。
年齢層ごとのTIAの発症率は,70歳以上を除き,男性のほうが高かった。
TIAの発症率と年齢は相関せず。
TIAを発症した18例の平均年齢は71.6歳で,発生部位は内頸動脈系が10例,椎骨動脈系が8例。

TIA発症18例のうち脳梗塞を発症したのは半数の9例(50%)で,TIA非発症1603例における脳梗塞発症率(175例,10.9%)に比べ,有意に高かった(P<0.01)。
脳梗塞を発症したTIA9例のうち,4例はTIAから1ヵ月以内,2例は1年以内に脳梗塞を発症していた。
TIA発症群で,脳梗塞およびTIA非発症対照群に比べ有意に高い値を示したのは,男性の血圧(P<0.05)。
有意差はないがTIA発症群で対照群に比べ高い傾向を示したのは,総コレステロールと心房細動。

TIA発症18例中9例が追跡期間中に死亡。うち,TIAに続き脳梗塞を発症しなかったのは1例のみ。脳梗塞を発症した8例中5例で心血管系の合併症があり,うち3例はそれが直接の死因と考えられた。
頸部血管の病理学検査より,90%以上狭窄した重症頸動脈硬化は,死亡した9例中2例。狭窄が50%以下の潰瘍性プラークは1例。残り6例では,重症の動脈硬化なし。
TIA後に脳梗塞を発症した9例中8例では,TIAと同じ側や同じ領域に梗塞が起こった。うち3例は脳塞栓と考えられる。また,別の4例(反対側に梗塞が起こった1例も含む)はラクナ梗塞の症状を示し,剖検で大脳基底核や脳橋に小さな損傷が複数確認された。残りの2例は臨床的に脳卒中と診断されておらず,単発のラクナ梗塞が大脳基底核に確認された。
大脳皮質血管血栓に起因する完全な脳卒中がTIAに続発したと考えられるのは,2例のみ。


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