[1986年文献] 1960~80年代にかけ,女性のヘマトクリット低値は脳梗塞の有意な危険因子ながら,高値と発症に相関は見られず

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,ヘマトクリット(Hct)値と脳梗塞発症リスクとの関連についての検討を行った。16年間の追跡の結果,Hct値と脳梗塞発症リスクとの関連には性差がみとめられ,女性ではHct低値と脳梗塞発症リスクの有意な関連がみられた一方で,Hct高値については有意な関連はみとめられなかった。男性では,Hct低値で脳梗塞発症リスクが低い傾向がみられたが,有意ではなかった。

Kiyohara Y, et al: Hematocrit as a risk factor of cerebral infarction: long-term prospective population survey in a Japanese rural community.Stroke 1986; 17: 687-92.pubmed

コホート
44歳以上の1621例のうち,脳卒中既往のない1220例(1965~1981年の16年間)。
死亡は408例,剖検率は89.0%(363例)。
結 果
脳卒中初発は117例。脳卒中死の剖検率は95.3%(85例中81例)。
ヘマトクリット(Hct)の平均値は男性39.8%,女性35.8%で,男女間で有意差があった(P<0.0001)。80歳以上を除く各年齢層でも,それぞれ男女間で有意差があった。
男性では,Hctは年齢が高いほど減少したが,女性では変わらなかった。

この性差を考慮し,それぞれ平均値を基準に,男性では低値群(<35%),正常群(35-45%),高値群(≧45%),女性では低値群(<30%),正常群(30-40%),高値群(≧40%)の3グループに分けて解析を行った。その結果,高値群で正常群に比べ有意に高い値を示したのは,血圧(女性のみ),総コレステロール,総蛋白質,BMI,高血圧,耐糖能異常(女性のみ),および飲酒1.5合以上/日(男性のみ)。

男性では,Hctが高い群ほど脳梗塞の発症率が高かったが,マンテル・ヘンツェルχ2検定では有意差なし。
女性では,低値群と高値群の両方で,正常群に比べ脳梗塞の発症率が高く,高値群と正常群の間では有意差が認められた(P<0.05)。

追跡開始から6年以降の男性の累積脳梗塞発症率は,低値群で低く,高値群では正常群よりやや高い傾向。
一方,女性の低値群での発症率は最初の5年で経時的に増加したが,それ以降はほぼ変化がなかった。高値群での発症率は時間と共に徐々に増加し,追跡開始から6年以降は正常群より有意に高くなった。

多変量解析によると,男性においてはHct低値・高値のいずれも脳梗塞の危険因子ではなかった。
男性における年齢,収縮期血圧および心電図異常は,脳梗塞の有意で独立した予測因子。
一方,女性では,追跡開始から5年,10年,16年のすべてで, Hct低値は種々の因子補正後も有意な危険因子だった。
女性における年齢,収縮期血圧,Hct低値および耐糖能障害は,脳梗塞の有意な危険因子。
多変量解析の結果,女性のHct高値は,脳梗塞の発症に全く関与していなかった。


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