[2009年文献] 血圧との関連は脳卒中の病型によって異なる
脳卒中の病因は病型によって異なり,脳卒中に対する血圧の影響についても病型別に評価する必要がある。そこで,『高血圧治療ガイドライン2009』(JSH2009)における血圧カテゴリー,ならびに層別化リスクカテゴリーと,脳卒中および各病型の発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(32年間追跡)による検討を行った。その結果,JSH2009の血圧カテゴリーとリスクカテゴリーは,日本人の脳卒中発症リスク予測のために有用と考えられた。血圧と脳卒中発症リスクとの関連の強さやパターンは脳卒中の病型によって異なっていたが,有意な関連はどの病型についてもみとめられた。このことは,降圧治療によりさまざまな病型の脳卒中の予防が可能であることを示唆すると考えられる。
Arima H, et al. Impact of blood pressure levels on different types of stroke: the Hisayama study. J Hypertens. 2009; 27: 2437-43.
- コホート
- 1961年の健診を受診した,脳卒中既往のない40歳以上の1621人(参加率88%)を1993年10月まで32年間追跡。
剖検率は81%。
血圧については,ベースライン時に測定した値により,対象者を日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2009』(JSH2009)の基準による以下のカテゴリーに分けて解析した。
至適血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
正常血圧: SBP 120~129 mmHg,DBP 80~84 mmHg
正常高値血圧: SBP 130~139 mmHg,DBP 85~89 mmHg
I度高血圧: SBP 140~159 mmHg,DBP 90~99 mmHg
II度高血圧: SBP 160~179 mmHg,DBP 100~109 mmHg
III度高血圧: SBP≧180 mmHg,DBP≧110 mmHg
また,JSH2009の「(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化」(PMID: 19300436)に基づき,血圧カテゴリー,およびリスクの保有状況に応じて対象者を以下の4つのカテゴリーに分けて解析した。
付加リスクなし: 至適血圧,正常血圧,または危険因子や標的臓器障害のない正常高値血圧
低リスク: 危険因子や標的臓器障害のないI度高血圧
中等リスク: 危険因子を1~2個有する正常高値血圧/I度高血圧,または危険因子や標的臓器障害のないII度高血圧
高リスク: 3個以上の危険因子/耐糖能異常/標的臓器障害を有する正常高値血圧/I度高血圧,1個以上の危険因子/耐糖能異常/標的臓器障害を有するII度高血圧,またはIII度高血圧 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は男性56歳,女性57歳。
性別を問わず,収縮期血圧値,ならびに高血圧の割合は,1961年から1988年にかけてやや増加した。また,降圧薬服用者の割合は,1961年から1988年にかけて男性で2.1%→23.9%,女性で2.2%→25.1%と顕著に増加。
耐糖能異常の割合と総コレステロール値についても,性別を問わず1961年から1988年にかけて増加がみられた。
◇ 血圧カテゴリーと脳卒中および各病型の発症リスク
追跡期間中に脳卒中を初発したのは410人(男性200人,女性210人)。
このうち,発症からさかのぼって7年以内の健診を受診していた374人(181人,193人)を解析対象とした。
脳卒中各病型の内訳は,脳梗塞が270人(128人,142人),脳出血が68人(45人,23人),くも膜下出血が32人(6人,26人),未判定が4人(2人,2人)であった。
さらに脳梗塞の内訳をみると,ラクナ梗塞が153人(72人,81人),アテローム血栓性脳梗塞が58人(26人,32人),心原性脳塞栓が51人(28人,23人),病型未判定の脳梗塞が8人(2人,6人)であった。
全脳卒中および脳卒中各病型の発症率は,くも膜下出血を除いて男性のほうが女性よりも高かった。
男女とも,全脳卒中の発症率は血圧が高いカテゴリーほど有意に増加し,I度~III度高血圧ではいずれも至適血圧に比して有意なリスク増加がみとめられた。この結果は,男女の脳梗塞,ならびに男性の脳出血についても同様であった。女性の脳出血発症リスクはII度高血圧で,また女性のくも膜下出血発症リスクはIII度高血圧でそれぞれ有意に増加していた。男性のくも膜下出血と血圧との関連はみとめられなかった。
脳梗塞の各病型についてみると,男女ともラクナ梗塞の発症リスクは血圧が高くなるほど有意に増加していたが,アテローム血栓性脳梗塞発症リスクは,男女ともIII度高血圧で急激に増加していた。女性の心原性脳塞栓発症リスクも,III度高血圧で有意に高くなっていた。
以上の結果は,降圧薬服用者を除外した解析でも同様であった。
各血圧カテゴリーにおける脳卒中,および脳梗塞の各病型の発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり(それぞれ至適血圧,正常血圧,正常高値血圧,I度高血圧,II度高血圧,III度高血圧の値)。
*P<0.05,**P<0.01 vs. 至適血圧(男性のアテローム血栓性脳梗塞のみ,vs. 正常血圧)
・男性
-
全脳卒中:
1(対照),1.64(0.76-3.56),1.52(0.70-3.31),3.31(1.73-6.32)**,4,22(2.16-8.25)**,5.75(2.93-11.30)** [P for trend<0.0001]
脳梗塞:
1(対照),1.38(0.54-3.48),1.37(0.55-3.41),3.10(1.47-6.55)**,3.29(1.50-7.21)**,4.88(2.24-10.65)** [P for trend<0.0001]
ラクナ梗塞:
1(対照),1.11(0.29-4.15),1.49(0.45-4.96),3.09(1.13-8.47)*,3.26(1.14-9.30)*,4.66(1.63-13.32)** [P for trend=0.0003]
アテローム血栓性脳梗塞:
-(発症者なし),1(対照),0.45(0.04-4.94),2.27(0.48-10.87),2.48(0.47-12.97),5.08(1.04-24.89)* [P for trend=0.0004]
心原性脳塞栓:
1(対照),0.89(0.19-4.12),0.81(0.18-3.79),1.52(0.44-5.21),0.99(0.24-4.14),1.39(0.32-6.06) [P for trend=0.57]
脳出血:
1(対照),2.22(0.37-13.34),2.95(0.53-16.38),5.59(1.21-25.75)*,9.30(1.98-43.61)**,12.04(2.47-58.66)** [P for trend<0.0001]
くも膜下出血:
1(対照),3.28(0.28-38.13),-(発症者なし),1.16(0.07-19.67),1.90(0.09-41.01),3.41(0.15-76.27) [P for trend=0.83]
- 全脳卒中:
1(対照),1.53(0.60-3.89),2.19(0.93-5.16),3.92(1.83-8.35)**,4.89(2.24-10.67)**,7.51(3.39-16.64)** [P for trend<0.0001]
脳梗塞:
1(対照),1.78(0.58-5.47),1.91(0.65-5.65),3.91(1.52-10.06)**,4.38(1.66-11.57)**,7.14(2.68-19.05)** [P for trend<0.0001]
ラクナ梗塞:
1(対照),3.71(0.76-18.00),4.68(1.01-21.62),4.82(1.11-20.90)*,6.25(1.41-27.76)*,8.28(1.82-37.70)** [P for trend=0.002]
アテローム血栓性脳梗塞:
1(対照),0.50(0.05-5.59),-(発症者なし),2.26(0.48-10.64),1.92(0.37-9.87),3.68(0.71-19.07) [P for trend=0.02]
心原性脳塞栓:
1(対照),-(発症者なし),-(発症者なし),4.26(0.56-36.59),4.73(0.49-45.67),11.09(1.18-104.43)* [P for trend=0.0008]
脳出血:
1(対照),3.27(0.29-36.62),4.76(0.48-47.33),4.33(0.47-39.71),13.11(1.45-18.55)*,7.40(0.59-92.52) [P for trend=0.02]
くも膜下出血:
1(対照),-(発症者なし),2.22(0.36-13.67),3.62(0.73-17.93),4.03(0.71-22.97),10.50(1.86-59.20)** [P for trend=0.0009]
◇ JSH2009におけるリスク層別化と脳卒中および各病型の発症リスク
男女とも,リスクが高いカテゴリーほど,脳卒中発症の年齢調整ハザード比が顕著に増加していた(いずれもP for trend<0.0001)。
「付加リスクなし」に対して有意なリスク増加がみとめられたのは,「低リスク」(女性のみ,P=0.008),「中等リスク」(男女ともP<0.05),ならびに「高リスク」(男女ともP<0.05)であった。
◇ 結論
脳卒中の病因は病型によって異なり,脳卒中に対する血圧の影響についても病型別に評価する必要がある。そこで,『高血圧治療ガイドライン2009』(JSH2009)における血圧カテゴリー,ならびに層別化リスクカテゴリーと,脳卒中および各病型の発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(32年間追跡)による検討を行った。その結果,JSH2009の血圧カテゴリーとリスクカテゴリーは,日本人の脳卒中発症リスク予測のために有用と考えられた。血圧と脳卒中発症リスクとの関連の強さやパターンは脳卒中の病型によって異なっていたが,有意な関連はどの病型についてもみとめられた。このことは,降圧治療によりさまざまな病型の脳卒中の予防が可能であることを示唆すると考えられる。