[2010年文献] 糖尿病は虚血性脳卒中,女性の冠動脈疾患の予測因子
これまで75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)により定義した耐糖能レベルと脳卒中および冠動脈疾患(CHD)発症との関連をアジア人において評価した研究は少なかった。そこで,OGTTを実施した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った結果,糖尿病は男女ともに虚血性脳卒中発症の独立した予測因子であり,女性ではCHD発症の独立した予測因子でもあることが示された。
Doi Y, et al. Impact of glucose tolerance status on development of ischemic stroke and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke. 2010; 41: 203-9.
- コホート
- 1988年の健診を受診し,75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を完了した40~79歳の2490人(インスリン治療中の10人を含む)のうち,脳卒中または冠動脈疾患(CHD)の既往のある68人,追跡開始までに死亡した1人を除いた2421人(男性1037人,女性1384人)を2002年11月まで14年間追跡。
耐糖能レベルについては,OGTTの結果に基づき,以下のWHOの基準に従って診断した。
耐糖能正常(NGT): 空腹時血糖値(FPG)<110 mg/dL,かつ負荷後2時間血糖値<140 mg/dL
高血糖: FPGが110 mg/dL以上かつ/または負荷後2時間血糖値140 mg/dL以上
空腹時血糖異常(IFG): FPG 110 mg/dL以上126 mg/dL未満,かつ負荷後2時間血糖値140 mg/dL未満
耐糖能異常(IGT): FPG 126 mg/dL未満,かつ負荷後2時間血糖値140 mg/dL以上200 mg/dL未満
糖尿病: FPG 126 mg/dL以上かつ/または負荷後2時間血糖値200 mg/dL以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は男性57歳,女性58歳,空腹時血糖値は106.2 mg/dL,102.6 mg/dL,負荷後2時間血糖値は138.6 mg/dL,133.2 mg/dL,糖尿病は15.1%,9.7%。
◇ 血糖指標(空腹時/負荷後)と虚血性脳卒中および冠動脈疾患(CHD)リスク
空腹時血糖値(FPG)のカテゴリーによる評価では,FPG 126 mg/dL以上の患者において,男女ともに虚血性脳卒中発症リスクとの有意な関連がみとめられ(男性:調整ハザード比[HR]* 2.15,95%CI 1.07-4.31 vs. FPG 110 mg/dL未満,P=0.03,女性:調整HR* 2.10,95%CI 1.02-4.35 vs. FPG 110 mg/dL未満,P=0.045),女性においてはCHD発症とも有意な関連がみとめられた(調整HR* 3.83,95%CI 1.59-9.25,P=0.003)。
*性別,収縮期血圧,心電図異常,BMI,総コレステロール,HDL-C,喫煙習慣,アルコール摂取量,および定期的な運動で調整
負荷後2時間血糖値のカテゴリーによる評価では,負荷後2時間血糖値≧200 mg/dLの患者において,男女ともに虚血性脳卒中発症リスクが優位に高く(男性:調整HR* 2.71,95%CI 1.41-5.20 vs. 負荷後2時間血糖値<140 mg/dL,P=0.003,女性:調整HR* 2.19,95%CI 1.07-4.48 vs. 負荷後2時間血糖値<140 mg/dL,P=0.03),女性においてはCHD発症リスクとも有意な関連がみとめられた(調整HR* 4.44,95%CI 1.85-10.62 vs. 負荷後2時間血糖値<140 mg/dL,P<0.001)。
◇ 耐糖能レベルと虚血性脳卒中発症リスク
耐糖能レベルによる虚血性脳卒中発症率(/1000人・年)および調整HR*(95%信頼区間)は男女ともに糖尿病患者で有意に高かった。詳細は以下のとおり。
・男性
耐糖能正常(NGT):4.6/1000人・年,HR 1(対照)
高血糖:6.6/1000人・年,HR 1.32(0.79-2.23),P=0.29
空腹時血糖異常(IFG):1.9/1000人・年,HR 0.41(0.10-1.74),P=0.23
耐糖能異常(IGT): 5.0/1000人・年,HR 0.91(0.44-1.89),P=0.79
糖尿病: 11.3/1000人・年,HR 2.54(1.40-4.63),P=0.002
・女性
NGT:3.6/1000人・年,HR 1(対照)
高血糖:5.7/1000人・年,HR 1.34(0.82-2.20),P=0.25
IFG:7.9/1000人・年,HR 1.89(0.82-4.34),P=0.13
IGT: 3.4/1000人・年,HR 0.88(0.46-1.70),P=0.71
糖尿病: 9.3/1000人・年,HR 2.02(1.07-3.81),P=0.03
◇ 耐糖能レベルとCHD発症リスク
耐糖能レベルによるCHD発症率(/1000人・年)および調整*(95%信頼区間)は女性の糖尿病患者で有意に高かった。詳細は以下のとおり。
・男性
NGT:5.9/1000人・年,HR 1(対照)
高血糖:7.8/1000人・年,HR 1.10(0.69-1.76),P=0.69
IFG:4.9/1000人・年,HR 0.80(0.31-2.05),P=0.64
IGT: 8.0/1000人・年,HR 1.11(0.62-2.00),P=0.72
糖尿病: 9.4/1000人・年,HR 1.26(0.67-2.35),P=0.47
・女性
NGT:1.5/1000人・年,HR 1(対照)
高血糖:3.1/1000人・年,HR 1.52(0.76-3.04),P=0.23
IFG:0.9/1000人・年,HR 0.48(0.06-3.76),P=0.48
IGT: 1.6/1000人・年,HR 0.82(0.31-2.15),P=0.68
糖尿病: 6.9/1000人・年,HR 3.46(1.59-7.54),P=0.002
◇ 結論
これまで75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)により定義した耐糖能レベルと脳卒中および冠動脈疾患(CHD)発症との関連をアジア人において評価した研究は少なかった。そこで,OGTTを実施した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った結果,糖尿病は男女ともに虚血性脳卒中発症の独立した予測因子であり,女性ではCHD発症の独立した予測因子でもあることが示された。