[2009年文献] 新しい心血管疾患リスク予測モデル

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,10年間の心血管疾患発症率を予測する新たなモデルを作成した。日本人の心血管疾患予防のためのハイリスクアプローチの手段として,このリスク予測モデルを用いることが可能である。

Arima H, et al. Development and validation of a cardiovascular risk prediction model for Japanese: the Hisayama study. Hypertens Res. 2009; 32: 1119-22.pubmed

コホート
1988年の健診を受診した40~79歳の2742人(受診率80.9%)のうち,心血管疾患既往のある106人,および健診期間中に死亡した2人を除いた2634人を,1988年12月から2002年11月にかけて14年間追跡した。

対象者を無作為に2:1に分け,1756人のデータをリスク予測モデルの作成に用い(コホート1),残りの878人のデータをモデルの検証に用いた(コホート2)。
結 果
◇ 対象背景
コホート1とコホート2のおもな対象背景は以下のとおりで,大きな違いはみとめられなかった。
年齢: コホート1 59歳 vs. コホート2 59歳,男性の割合: 43% vs. 40%,血圧: 134 / 78 mmHg vs. 133 / 77 mmHg,糖尿病有病率: 11% vs. 13%,LDL-C: 131 mg/dL vs. 133 mg/dL,HDL-C: 50 mg/dL vs. 50 mg/dL,喫煙率: 24% vs. 27%

◇ リスク予測モデルの作成
追跡期間中に心血管疾患(CVD: 脳卒中または冠動脈疾患)を発症したのはコホート1で216人,コホート2で125人であった。

久山町研究においてこれまでCVDの危険因子であることが示された7つの因子のCVD発症のハザード比(多変量調整)は以下のとおり。
   年齢(+1歳): 1.059 (95%信頼区間1.046-1.073)
   性別(男性 vs. 女性): 1.743 (1.264-2.404)
   収縮期血圧(+1 mmHg): 1.017 (1.011-1.023)
   糖尿病(あり vs. なし): 1.682 (1.193-2.370)
   LDL-C(+1 mg/dL): 1.003 (0.999-1.006)
   HDL-C(+1 mg/dL): 0.988 (0.977-1.000)
   喫煙(あり vs. なし): 1.423 (1.024-1.978)

これらの因子を用いて,Framingham Heart Studyと同様の手法(Stat Med. 2004; 23: 1631-60.pubmed)により,10年間の心血管疾患発症率を推算するリスク予測モデルを作成した。
具体的には,年齢層,性別,収縮期血圧のカテゴリー,糖尿病の有無,LDL-C値のカテゴリー,HDL-C値のカテゴリー,および喫煙の有無によりそれぞれ0~8点を加算していき,合計点数(最低0点,最高19点)により,予測される10年間の心血管疾患発症率,ならびに血管年齢*が換算表から算出できるようになっている。
たとえば,66歳の喫煙者の男性で収縮期血圧が145 mmHg,LDL-C値が160 mg/dL,HDL-C値が42 mg/dL,糖尿病はない場合,合計点数は11点となり,予測される10年間のCVD発症率は27.8%,血管年齢*は85~89歳相当となる。

*血管年齢: 複数の危険因子の蓄積によるCVDリスクが,加齢のみによるリスクであれば何歳に相当するのかを示す概念。具体的には,ある対象者と同じCVD発症リスクを有しているが,他のすべての因子が至適の状態である人の年齢=「血管年齢」となる。前述の66歳の男性は,喫煙,高血圧,LDL-C高値といった危険因子があることにより,「健康な85~89歳の人」に相当する高いCVDリスクを有していることになる。

◇ リスク予測モデルの検証
コホート2において,リスク予測モデルの予測能の有用性を検証した。
モデルのC統計量は0.81(95%信頼区間0.77-0.86)であった。リスク予測モデルにより算出された発症率と実際の発症率を比較した結果,χ2統計量は6.46(自由度=8)と,良好な適合度(goodness of fit)を示していた(P=0.60)。
感度は70%,特異度は79%であった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,10年間の心血管疾患発症率を予測する新たなモデルを作成した。日本人の心血管疾患予防のためのハイリスクアプローチの手段として,このリスク予測モデルを用いることが可能である。


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