[2010年文献] 男性の慢性腎臓病(CKD)有病率が増加

日本人一般住民を対象としたコホート研究のデータを用いて,慢性腎臓病(CKD)の有病率とその危険因子の,1970年代から2000年代にかけての経時的な変化を検討した。その結果,CKDの有病率は男性では有意に増加していたが,女性では有意な変化はなかった。ただし,ステージ3~5のCKDの有病率は,男女とも2~3倍と顕著に増加しており,これらの結果には代謝系危険因子をもつ人の増加が影響している可能性がある。また,高血圧治療の普及にもかかわらず,CKDを有する人の血圧コントロール状況は満足できるものではなく,高血圧や代謝系危険因子のよりいっそうの管理が必要と考えられる。

Nagata M, et al. Trends in the prevalence of chronic kidney disease and its risk factors in a general Japanese population: The Hisayama Study. Nephrol Dial Transplant. 2010; pubmed

コホート
久山町研究の第2~4集団のそれぞれを対象とした断面解析データを比較し,経時的な変化を検討した。
  • 第2集団: 1974年の健診を受診した40歳以上の2135人(受診率81.2%)のうち,血液検体が得られなかった17人を除いた2118人
  • 第3集団: 1988年の健診を受診した40歳以上の2742人(受診率80.9%)のうち,血液検体が得られなかった1人を除いた2741人
  • 第4集団: 2002年の健診を受診した40歳以上の3298人(受診率77.6%)のうち,血液検体が得られなかった1人を除いた3297人

慢性腎臓病(CKD)の診断基準は,蛋白尿あり(試験紙法で1+以上),または日本人向けの係数を用いたMDRD式により血清クレアチニン値から算出した推算糸球体濾過量(eGFR)<60 mL/min/1.73 m2のいずれかを満たすものとした。
CKDのステージ分類は,ステージ1または2: eGFR≧60 mL/min/1.73 m2および蛋白尿あり,ステージ3: eGFR 30~59 mL/min/1.73 m2,ステージ4または5: eGFR<30 mL/min/1.73 m2とした。
結 果
◇ 対象背景
危険因子の変化についてみると,経時的に有意に上昇していたのは平均年齢,拡張期血圧(男性のみ),治療中高血圧の割合,糖尿病の割合,治療中糖尿病の割合(男性のみ),未治療糖尿病の割合,高脂血症の割合,肥満の割合,メタボリックシンドロームの割合,飲酒率で,有意に低下していたのは収縮期血圧,拡張期血圧(女性のみ),未治療高血圧の割合,喫煙率であった。

◇ CKD有病率の変化
各集団におけるCKDの有病率は以下のとおりで,男性では有意に増加したが,女性では有意な傾向はみられなかった。
ステージ3~5のCKDの有病率は,男性では約3倍,女性では約2倍と顕著に増加した。

・ CKDの有病率(1974年,1988年,2002年)
男性: 13.8%,15.9%,22.1% (P for trend<0.01)
女性: 14.3%,12.6%,15.3%

・ ステージ3~5のCKDの有病率(1974年,1988年,2002年)
   男性: 4.8%,9.4%,15.7% (P for trend<0.01)
   女性: 5.8%,9.9%,11.7% (P for trend<0.01)

この結果は,男女とも,65歳未満および65歳以上の年齢層ごとにみても同様であった。

蛋白尿の年齢調整有病率は,男性では変化はなかった(1974年10.7%,1988年7.6%,2002年9.6%[P for trend=0.65])が,女性では有意に低下した(10.2%,3.8%,5.3%[P for trend<0.001])。

◇ CKDを有する人の血圧コントロール状況
CKDを有する人のうち血圧値が140 / 90 mmHg未満の人の割合は,男性では1974年46.6%,1988年47.8%,2002年51.1%(P for trend<0.05),女性ではそれぞれ47.0%,52.5%,66.6%(P for trend<0.001)と,いずれも有意に増加しており,これはこの間の治療中高血圧の割合の増加に関連するものと考えられた。
同様に,CKDを有する人のうち血圧値が130 / 80 mmHg未満の人の割合をみると,男性では1974~2002年を通じて30%未満にとどまったが,女性では24.9%,30.0%,47.5%(P for trend<0.001)と有意に増加した。

2002年の集団において,CKDを有し,かつ高血圧治療中の人のうち,血圧値が140 / 90 mmHg未満の人の割合は,男性36.3%,女性26.3%で,130 / 80 mmHg未満の人の割合はそれぞれ11.1%,12.8%であった。

◇ 高血圧の有無,および治療状況とCKD
高血圧の状況(高血圧なし/治療中高血圧/未治療高血圧)ごとに,1974年時を対照として1988,2002年時のCKDの相対リスクを算出すると,男性では,高血圧なし,および未治療高血圧を有する場合のCKDリスクが経時的に有意に増加していた(高血圧なし: P for trend=0.008,未治療高血圧: P for trend=0.001)が,治療中高血圧については有意な傾向はみられなかった。女性では,高血圧の状況をとわず,CKDリスクの有意な変化はみられなかった。

◇ メタボリックシンドロームとCKD
1988年および2002年の集団において,メタボリックシンドロームは,性別をとわずCKDリスクの増加と有意に関連していた。


◇ 結論
日本人一般住民を対象としたコホート研究のデータを用いて,慢性腎臓病(CKD)の有病率とその危険因子の,1970年代から2000年代にかけての経時的な変化を検討した。その結果,CKDの有病率は男性では有意に増加していたが,女性では有意な変化はなかった。ただし,ステージ3~5のCKDの有病率は,男女とも2~3倍と顕著に増加しており,これらの結果には代謝系危険因子をもつ人の増加が影響している可能性がある。また,高血圧治療の普及にもかかわらず,CKDを有する人の血圧コントロール状況は満足できるものではなく,高血圧や代謝系危険因子のよりいっそうの管理が必要と考えられる。


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