[2012年文献] HOMA-IRとMatsuda indexで評価したインスリン抵抗性は,心血管疾患発症リスクと有意に関連
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,HOMA-IR,Matsuda indexの2つの指標を用いて,インスリン抵抗性と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,HOMA-IR(高値)およびMatsuda index(低値)でみたインスリン抵抗性の上昇は,いずれもCVD発症リスクの有意な危険因子であることが示されたが,メタボリックシンドロームによる調整を行うと有意な関連はみられなくなった。この結果から,インスリン抵抗性は,メタボリックシンドロームを介してCVD発症リスクを増加させていると考えられる。
Gotoh S, et al. Insulin resistance and the development of cardiovascular disease in a Japanese community: the hisayama study. J Atheroscler Thromb. 2012; 19: 977-85.
- コホート
- 1988年の健診を受診し,75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を完了した40~79歳の2480人のうち,追跡開始までに死亡した2人,脳卒中または冠動脈疾患(CHD)既往のある60人,空腹時/負荷後2時間インスリン値が得られない3人,および経口血糖降下薬を服用していた59人を除いた2356人(男性1006人,女性1350人)を,2002年11月まで14年間追跡。
インスリン抵抗性指標であるHOMA-IRおよびMatsuda index†の値の五分位により,対象者を性別ごとにそれぞれ以下のカテゴリーに分類した。
・HOMA-IR(高値ほどインスリン抵抗性が高い)
[男性]Q1:0.53~0.78,Q2:0.79~1.17,Q3:1.18~1.58,Q4:1.59~2.22,Q5:2.23~16.79
[女性]Q1:0.55~0.90,Q2:0.91~1.25,Q3:1.26~1.61,Q4:1.62~2.20,Q5:2.21~15.24
・Matsuda index(低値ほどインスリン抵抗性が高い)†
[男性]Q1:0.88~4.03,Q2:4.04~6.21,Q3:6.22~8.77,Q4:8.78~13.73,Q5:13.74~59.72
[女性]Q1:0.47~4.06,Q2:4.07~5.74,Q3:5.75~7.82,Q4:7.83~10.99,Q5:11.00~49.21
†Matsuda index =10000/(空腹時血糖[mg/dL]×空腹時インスリン[μU/mL]×負荷後血糖[mg/dL]×負荷後インスリン[μU/mL])1/2 - 結 果
- ◇ 対象背景
心血管疾患(CVD: 脳卒中または冠動脈疾患[CHD])を発症したのは260人。
発症者において,非発症者よりも有意に高い値を示していたのは,年齢,HOMA-IR,空腹時および負荷後2時間血糖値,空腹時インスリン値,収縮期および拡張期血圧,男性の割合,メタボリックシンドロームの割合,糖尿病の割合,高血圧の割合,心電図異常の割合,蛋白尿の割合,および喫煙率で,有意に低い値を示していたのはMatsuda indexおよび定期的に運動をする割合。2時間負荷後インスリン値,腹囲,総コレステロール,HDL-C,トリグリセリド,および飲酒率には有意な差はみられなかった。
◇ インスリン抵抗性指標とCVD発症リスク
インスリン抵抗性の各指標とCVD発症の性・年齢調整(モデル1),および多変量調整‡(モデル2)ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,HOMA-IRについては有意な正の関連,Matsuda indexについては有意な負の関連がみとめられた(‡年齢,性別,総コレステロール,心電図異常,蛋白尿,喫煙,飲酒,および定期的な運動により調整)。ただし,さらにメタボリックシンドロームを加えて調整すると,有意な関連はみられなくなった(モデル3)。
・Matsuda index
[モデル1]Q1:1.00(対照),Q2:0.78(0.55-1.10),Q3:0.53(0.36-0.78),Q4:0.60(0.41-0.88),Q5:0.65(0.45-0.93)(P for trend=0.001)
[モデル2]1.00,0.86(0.61-1.22),0.59(0.40-0.87),0.66(0.45-0.97),0.67(0.47-0.97)(P for trend=0.003)
[モデル3]1.00,0.96(0.67-1.37),0.68(0.45-1.02),0.82(0.55-1.23),0.87(0.58-1.31)(P for trend=0.14)
・HOMA-IR
[モデル1]1.00,1.14(0.76-1.69),1.13(0.76-1.70),1.18(0.79-1.76),1.63(1.11-2.39)(P for trend=0.02)
[モデル2]1.00,1.19(0.80-1.78),1.20(0.80-1.81),1.28(0.85-1.94),1.55(1.05-2.29)(P for trend=0.001)
[モデル3]1.00,1.15(0.77-1.72),1.09(0.72-1.65),1.11(0.73-1.68),1.19(0.77-1.81)(P for trend=0.08)
◇ インスリン抵抗性指標と脳卒中・CHD発症リスク
脳卒中およびCHD発症の性・年齢調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,脳卒中リスク,冠動脈疾患リスクともにMatsuda indexとの有意な負の関連がみられた。HOMA-IRについては,脳卒中リスクとの有意な関連がみられたが,冠動脈疾患については関連はみられなかった。
<脳卒中>
[Matsuda index]Q1:1.00,Q2:0.62(0.40-0.95),Q3:0.53(0.34-0.84),Q4:0.59(0.38-0.91),Q5:0.63(0.41-0.96)(P for trend=0.01)
[HOMA-IR]1.00,1.00(0.62-1.62),1.05(0.65-1.70),1.11(0.69-1.79),1.62(1.03-2.52)(P for trend=0.003)
<CHD>
[Matsuda index]Q1:1.00,Q2:1.01(0.58-1.75),Q3:0.52(0.27-1.00),Q4:0.69(0.37-1.28),Q5:0.59(0.31-1.10)(P for trend=0.02)
[HOMA-IR]1.00,1.16(0.62-2.17),1.16(0.62-2.17),0.98(0.50-1.89),1.59(0.86-2.96)(P for trend=0.07)
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,HOMA-IR,Matsuda indexの2つの指標を用いて,インスリン抵抗性と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,HOMA-IR(高値)およびMatsuda index(低値)でみたインスリン抵抗性の上昇は,いずれもCVD発症リスクの有意な危険因子であることが示されたが,メタボリックシンドロームによる調整を行うと有意な関連はみられなくなった。この結果から,インスリン抵抗性は,メタボリックシンドロームを介してCVD発症リスクを増加させていると考えられる。