[2013年文献] 全認知症,血管性認知症発症リスクと食事パターン

地中海食をはじめ,認知症に予防的にはたらく可能性のある食品や食事パターンがいくつか報告されているが,一貫した結果は得られていない。そこで,欧米とは食文化・食習慣が異なるアジアで認知症に予防的な影響をもつ食事パターンがあるのかを明らかにするために,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究により,認知症発症リスクに関連する食事因子の評価を行った。その結果,大豆・大豆製品,緑黄色野菜,淡色野菜,海藻類,牛乳・乳製品の相対的な摂取量が多く,米の相対的な摂取量が少ないことに特徴づけられる食事パターンが導き出され,この食事パターンへの合致度が高いほど,全認知症,および血管性認知症の発症リスクが有意に低いことが示された。

Ozawa M, et al. Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. Am J Clin Nutr. 2013; 97: 1076-82.pubmed

コホート
1988年の健診を受診した60~79歳の1073人(参加率89.6%)のうち,認知症の15人,食物摂取頻度調査票への回答に不備があった51人,血液検査データがない1人を除いた1006人(男性433人,女性573人)を,2005年11月まで17年間追跡した。
追跡期間の中央値は15年。

認知症ならびに各病型の診断には,それぞれ以下を用いた。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN)

食事パターンについては,半定量的食物摂取頻度調査票(70品目)による食事調査の結果をもとに,これまでに認知症のリスク低下または増加と関連することが指摘されている7つの栄養素(飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,ビタミンC,カリウム,カルシウム,マグネシウム)を応答変数とした縮小ランク回帰分析を実施し,今回の対象者におけるこれらの栄養素の摂取量の分布をよく説明する食事パターンを抽出した。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢68歳,女性57%,糖尿病15.0%,高血圧51.7%,喫煙率23.7%,余暇の時間をおもに座位で過ごしていたのは70.5%。

◇ 食事パターンの抽出
縮小ランク回帰分析の結果,7つの食事パターン(dietary pattern: DP)が導き出された(「DP1」~「DP7」)。これらにより,今回の対象者における飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,ビタミンC,カリウム,カルシウム,およびマグネシウムの摂取量分布の87.1%が説明された。
ただし,DP1~DP7について,対象者の食習慣がそれぞれどのくらい合致するかをスコアで評価したところ,DP1によって上記の7つの栄養素の摂取量分布の54.3%が説明された一方で,DP2~DP7により説明される割合は非常に小さかったことから,DP1を今回の検討におけるおもな解析の対象とした。DP1は,7つの栄養素すべての摂取量と有意な関連を示していた(いずれもPearsonの相関係数が0.50以上,P<0.001)。

◇ 抽出された食事パターンの性質
19の食品グループのDP1に対する寄与度をみると,因子負荷量の絶対値≧0.2と寄与が大きかったもののうち,正の関連を示していたのは大豆・大豆製品,緑黄色野菜,淡色野菜,海藻類,および牛乳・乳製品で,負の関連を示していたのは米であった。すなわち,DP1は,大豆・大豆製品,緑黄色野菜,淡色野菜,海藻類,牛乳・乳製品の相対的な摂取量が多く,米の相対的な摂取量が少ないことに特徴づけられた。

対象者を,DP1への合致度を示すスコアの四分位によるカテゴリー(Q1: <-0.82,Q2: -0.82~-0.05,Q3: -0.06~0.83,Q4: ≧0.83)に分けて背景を比較した結果,スコアが高いほど有意に高い値を示していたのは,女性の割合,教育年数13年以上の割合,糖尿病有病率,総コレステロール,BMI,歩行習慣の割合で,有意に低い値を示していたのは喫煙率,おもに座位で過ごす人の割合であった。

◇ 抽出された食事パターンと認知症発症リスク
DP1への合致度を示すスコアの四分位ごとにみた認知症発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,全認知症ならびに血管性認知症について,スコアが高いほど有意にリスクが低下する傾向,ならびにスコアがもっとも高い四分位における有意なリスク低下がみとめられた。
年齢,性別,教育年数,糖尿病,高血圧,総コレステロール,脳卒中既往,喫煙,BMI,身体活動,総エネルギー摂取量により調整)

・全認知症(P for trend=0.02)
  Q1: 1(対照)
  Q2: 0.85(0.61-1.19)
  Q3: 0.72(0.50-1.02)
  Q4: 0.66(0.46-0.95)

・アルツハイマー病(P for trend=0.17)
  Q1: 1
  Q2: 0.64(0.39-1.04)
  Q3: 0.74(0.46-1.18)
  Q4: 0.65(0.40-1.06)

・血管性認知症(P for trend=0.02)
  Q1: 1
  Q2: 0.97(0.56-1.68)
  Q3: 0.74(0.41-1.34)
  Q4: 0.45(0.22-0.91)

なお,DP2~DP7と認知症発症リスクとの関連はみられなかった。

糖尿病の有無による層別解析を行うと,非有病者では,DP1のスコアが高いほど全認知症ならびにその病型の多変量調整ハザード比が有意に低くなっていたが(いずれもP for trend<0.01),有病者ではこのような関連はみられなかった。

◇ 結論
地中海食をはじめ,認知症に予防的にはたらく可能性のある食品や食事パターンがいくつか報告されているが,一貫した結果は得られていない。そこで,欧米とは食文化・食習慣が異なるアジアで認知症に予防的な影響をもつ食事パターンがあるのかを明らかにするために,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究により,認知症発症リスクに関連する食事因子の評価を行った。その結果,大豆・大豆製品,緑黄色野菜,淡色野菜,海藻類,牛乳・乳製品の相対的な摂取量が多く,米の相対的な摂取量が少ないことに特徴づけられる食事パターンが導き出され,この食事パターンへの合致度が高いほど,全認知症,および血管性認知症の発症リスクが有意に低いことが示された。


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