[2014年文献] 牛乳および乳製品の摂取量が多いほどアルツハイマー病の発症リスクが低い
牛乳および乳製品の摂取と認知症発症リスクとの関連について,はじめて検討した研究。60歳以上の地域一般住民を17年間追跡し,画像診断や剖検所見も用いた前向きの検討を行った結果,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても,牛乳および乳製品の摂取量が多いほど発症率が低くなる有意な負の関連がみとめられた。牛乳および乳製品の摂取量と認知症の発症リスクについては,多変量調整を行うと有意な関連はみとめられなかったが,アルツハイマー病では多変量調整後も有意な負の関連が示された。牛乳および乳製品の摂取が認知症,とくにアルツハイマー病に予防的な効果をもつ可能性について,今後,他のコホート研究における検討や介入研究の結果がまたれる。
Ozawa M, et al. Milk and dairy consumption and risk of dementia in an elderly Japanese population: the hisayama study. J Am Geriatr Soc. 2014; 62: 1224-30.
- コホート
- 1988年の健診を受診した60歳以上の1228人(参加率91.1%)のうち,認知症の35人,食物摂取頻度調査票への回答がない111人,血液検査データがない1人を除いた1081人(男性457人,女性624人)を,2005年11月まで17年間追跡した。
認知症ならびに各病型の診断には,それぞれ以下を用いた。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・脳血管認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN)
牛乳および乳製品の摂取については,半定量的食物摂取頻度調査票(70品目)を用い,1日あたりの摂取量により以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
Q1(男性20 g未満,女性45 g未満): 270人
Q2(20~75 g,45~96 g): 270人
Q3(76~173 g,97~197 g): 271人
Q4(174 g以上,198 g以上): 270人 - 結 果
- ◇ 対象背景
牛乳および乳製品の摂取量が多いほど値が高かったのは年齢,糖尿病の割合,総コレステロール,習慣的な運動の割合,および果物の摂取量で,値が低かったのは収縮期血圧,高血圧の割合,喫煙率,飲酒率,魚の摂取量,肉の摂取量であった。
追跡期間中に認知症を発症したのは303人(男性103人,女性200人)。このうち90%に,画像診断または剖検による形態学的検査が行われた。
認知症の内訳をみると,アルツハイマー病は166人,脳血管性認知症は98人であった。
◇ 牛乳・乳製品の摂取量と認知症発症率
牛乳および乳製品の摂取量のカテゴリーごとの認知症,ならびに各病型の性・年齢調整発症率(1000人・年あたり)は以下のとおりで(*P<0.05 vs. Q1),いずれも摂取量が多いほど発症率が低くなる有意な関連がみとめられた。
・認知症: [Q1]27.3,[Q2]27.4,[Q3]22.1*,[Q4]25.4(P for trend=0.03)
・アルツハイマー病: 18.3,14.6,11.4*,13.8(P for trend=0.04)
・脳血管性認知症: 9.6,10.9,6.7,6.3*(P for trend=0.01)
◇ 牛乳・乳製品の摂取量と認知症発症リスク
牛乳および乳製品の摂取量のカテゴリーごとの認知症,ならびに各病型の発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,いくつかのカテゴリーについてQ1に比した有意なリスク低下がみとめられるとともに,アルツハイマー病では多変量調整後も,摂取量が多いほどリスクが低くなる有意な負の関連がみられた。(†性,年齢,学歴,脳卒中既往,高血圧,糖尿病,総コレステロール,BMI,喫煙,習慣的な運動,総摂取エネルギー,野菜・果物・魚・肉の摂取量により調整)
・認知症(P for trend=0.09)
Q1: 1.0(対照)
Q2: 0.85(0.62-1.18)
Q3: 0.69(0.50-0.96)
Q4: 0.80(0.57-1.11)
・アルツハイマー病(P for trend=0.03)
Q1: 1.0
Q2: 0.64(0.41-0.99)
Q3: 0.57(0.37-0.87)
Q4: 0.63(0.41-0.98)
・脳血管性認知症(P for trend=0.14)
Q1: 1.0
Q2: 1.02(0.59-1.77)
Q3: 0.74(0.42-1.33)
Q4: 0.69(0.37-1.29)
◇ 結論
牛乳および乳製品の摂取と認知症発症リスクとの関連について,はじめて検討した研究。60歳以上の地域一般住民を17年間追跡し,画像診断や剖検所見も用いた前向きの検討を行った結果,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても,牛乳および乳製品の摂取量が多いほど発症率が低くなる有意な負の関連がみとめられた。牛乳および乳製品の摂取量と認知症の発症リスクについては,多変量調整を行うと有意な関連はみとめられなかったが,アルツハイマー病では多変量調整後も有意な負の関連が示された。牛乳および乳製品の摂取が認知症,とくにアルツハイマー病に予防的な効果をもつ可能性について,今後,他のコホート研究における検討や介入研究の結果がまたれる。