[2016年文献] 週1回以上運動する人ではアルツハイマー病の発症リスクが低い

高齢の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,余暇の身体活動と,長期的な認知症発症リスクとの関連をはじめて検討した報告。17年間の追跡の結果,週1回以上の身体活動を行っている「活動的」な人では,「非活動的」な人に比してアルツハイマー病の長期的な発症リスクが有意に低いことが示された。身体活動は認知症全体にもよい影響をもたらす可能性があり,今後,より大規模な研究による詳細な検討が望まれる。

Kishimoto H, et al. The long-term association between physical activity and risk of dementia in the community: the Hisayama Study. Eur J Epidemiol. 2016; 31: 267-74.pubmed

コホート
久山町研究の健診を1988年に受診した65歳以上の837人のうち,認知症を有する34人を除いた803人(男性313人,女性490人)を,2005年11月まで追跡。
追跡期間の中央値は11.5年(8603人・年)。

余暇の身体活動状況(買い物の際の歩行など,日常生活を送るうえでの実用的な運動は含まない)について,自己記入式質問票を用いて調査し,週に1回以上の運動(軽度のウォーキングや早歩き,健康・美容のための運動[calisthenics],ゲートボール,ゴルフ,ダンス,ジョギング,ハイキング,ボウリング,自転車,狩猟,ガーデニング,日本舞踊など)をしている人を「活動的(active)」,していない人を「非活動的(inactive)」に分類した。

1992年,1998年および2005年の認知症有病率調査において,神経心理学的検査(改変長谷川式認知症スケールやMini-Mental State Examination)を実施。認知機能低下がみられた場合にはさらに詳細な検査を行い,以下の基準を用いて認知症を診断した。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN)
結 果
◇ 対象背景
余暇の身体活動状況について,「活動的」に分類されたのは539人,「非活動的」に分類されたのは264人。
活動的な人では,非活動的な人にくらべて男性が有意に多く,教育年数6年以下の割合が有意に低かったが,その他の項目(年齢,血圧,高血圧や糖尿病の割合,BMI,飲酒や喫煙状況など)に有意な差はみられなかった。

◇ 余暇の身体活動と認知症発症リスク
非活動的な人に対する活動的な人の,認知症,ならびに各病型の発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
認知症について,性・年齢調整モデルでは活動的な人におけるリスクが有意に低くなったが,多変量調整を行うと有意差は消失した。病型別にみると,アルツハイマー病に関しては多変量調整後も有意なリスク低下がみとめられたが,血管性認知症とその他の認知症については有意差はみとめられなかった。
性,年齢,教育年数,収縮期血圧,降圧薬服用,糖尿病,総コレステロール,BMI,心電図異常,脳卒中既往,喫煙,飲酒で調整)

  認知症: 0.78(0.60-1.01),P=0.06
  アルツハイマー病: 0.59(0.41-0.84),P=0.003
  血管性認知症: 0.74(0.47-1.16),P=0.19
  その他の認知症: 1.42(0.79-2.56),P=0.24

◇ 層別解析
余暇の身体活動とアルツハイマー病の発症リスクとの関連について,年齢(75歳未満/以上),性別,教育年数(6年超/以下),高血圧の有無,糖尿病の有無,高脂血症の有無,肥満の有無,心電図異常の有無,喫煙の有無,飲酒の有無による層別解析を行ったが,いずれについても有意な異質性はみとめられなかった(P for heterogeneity>0.1)。


◇ 結論
高齢の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,余暇の身体活動と,長期的な認知症発症リスクとの関連をはじめて検討した報告。17年間の追跡の結果,週1回以上の運動を行っている「活動的」な人では,「非活動的」な人に比してアルツハイマー病の長期的な発症リスクが有意に低いことが示された。身体活動は認知症全体にもよい影響をもたらす可能性があり,今後,より大規模な研究による詳細な検討が望まれる。


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