[2015年文献] 中年期の喫煙,および中年期~高齢期の継続的な喫煙は,認知症発症リスクと強く関連

日本人一般住民を対象に,喫煙状況と認知症および各病型の発症リスクについて検討した。その結果,中年期の喫煙と高齢期の喫煙は,いずれも認知症の発症リスクと有意に関連しており,とくに中年期の喫煙はアルツハイマー病および血管性認知症の発症リスクとも有意に関連していたが,中年期・高齢期を問わず禁煙者の認知症発症リスクは喫煙未経験者と同等であった。中年期から高齢期にかけての喫煙状況の変化ごとにみると,喫煙を継続していた人では非喫煙のままだった人より認知症の発症リスクが高かったが,中年期に喫煙していても高齢期にやめた人ではリスクの増加はみられなかった。以上の結果より,認知症予防の観点からも禁煙が重要であることが示唆された。

Ohara T, et al. Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2015; 63: 2332-9.pubmed

コホート
久山町研究の健診を1988年に受診した65~84歳の855人のうち,認知症を有する21人,血液検査データに不備のある78人,追跡開始前に死亡した2人を除いた754人(男性305人,女性449人)を2005年11月まで17年間追跡。

65~84歳の人を対象とした1992年,1998年および2005年の認知症有病率調査において,神経心理学的検査・改変長谷川式認知症スケール・Mini-Mental State Examinationなどを実施。認知症ならびに各病型の診断にはそれぞれ以下の基準を用いた。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN)
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は72歳。
禁煙者では,喫煙未経験者よりも男性の割合と飲酒率が有意に高かった。また喫煙者では,喫煙未経験者にくらべて男性の割合および飲酒率が有意に高く,BMIが有意に低かった。

追跡期間中に認知症を発症したのは252人で(男性83人,女性169人),このうち227人(90.0%)が,何らかの形態学的な診断を受けていた(画像診断215人,剖検135人,画像診断+剖検123人)。
内訳をみると,アルツハイマー病が143人(うち20人はほかの病型も合併),血管性認知症が76人(うち14人はほかの病型も合併),その他の認知症が44人であった。アルツハイマー病と血管性認知症の混合型は11人。

◇ 喫煙状況と認知症発症リスク
喫煙状況ごとの認知症および各病型の発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,喫煙者では有意な認知症発症リスク増加がみとめられた(*P=0.008)。
年齢,性,教育年数,高血圧,降圧薬服用,心電図異常,耐糖能異常,BMI,脳卒中既往,総コレステロールおよび飲酒状況で調整)

[全認知症]喫煙未経験者1(対照),禁煙者1.03(0.65-1.64),喫煙者1.73(1.16-2.60)*
[アルツハイマー病]1,1.14(0.61-2.11),1.46(0.83-2.55)
[血管性認知症]1,0.99(0.43-2.31),1.85(0.87-3.96)
[その他の認知症]1,0.89(0.28-2.85),2.46(0.97-6.25)

喫煙状況と認知症リスクの関連に対して,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。

喫煙者の喫煙本数(1日1~9本/10本以上)も含めた喫煙状況と認知症および各病型の発症リスクとの関連も検討された。
喫煙未経験者に対して,禁煙者および1日10本以上の喫煙者では有意な差はみられなかったが,1日1~9本の喫煙者では,全認知症,アルツハイマー病,血管性認知症,およびその他の認知症のいずれについても,多変量調整ハザード比が有意に高かった。

◇ 中年期の喫煙状況と認知症発症リスク
対象者のうち,1973~1974年(平均年齢57歳[中年期])の健診も受診していた619人(男性243人,女性376人)において,当時の喫煙状況と認知症発症リスクとの関連を検討した。喫煙状況ごとの認知症および各病型の発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,中年期の喫煙者では,全認知症,アルツハイマー病,血管性認知症のリスクがいずれも有意に高いことが示された(**P≦0.008)。

[全認知症]喫煙未経験者1(対照),禁煙者1.13(0.52-2.47),喫煙者2.07(1.34-3.18)**
[アルツハイマー病]1,1.55(0.54-4.48),2.17(1.22-3.86)**
[血管性認知症]1,0.62(0.13-2.97),2.55(1.21-5.38)**
[その他の認知症]1,1.15(0.21-6.30),1.38(0.48-4.00)

中年期の喫煙状況と認知症リスクの関連に対して,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。

中年期の喫煙者の喫煙本数(1日1~9本/10本以上)も含めた喫煙状況と認知症および各病型の発症リスクとの関連も検討された。
喫煙未経験者に対して,禁煙者では有意な差はみられなかったが,1日1~9本の喫煙者では全認知症と血管性認知症,1日10本以上の喫煙者では全認知症とアルツハイマー病の多変量調整ハザード比が有意に高かった。

◇ 喫煙状況の変化と認知症発症リスク
中年期から高齢期にかけての喫煙状況の変化と認知症および各病型の発症リスクとの関連を検討した結果は以下のとおりで,喫煙→非喫煙となった人では非喫煙のままだった人との有意差はみられなかったが,中年期から高齢期にかけて喫煙を継続していた人では,全認知症,アルツハイマー病,および血管性認知症の多変量調整ハザード比が有意に高くなっていた(***P<0.05)。

[全認知症]非喫煙を継続: 1(対照),喫煙→非喫煙: 1.35(95%信頼区間0.82-2.22),喫煙を継続: 2.28(1.49-3.49)***
[アルツハイマー病]1,1.58(0.81-3.13),1.98(1.09-3.61)***
[血管性認知症]1,1.96(0.88-4.34),2.88(1.34-6.20)***
[その他の認知症]1,0.19(0.02-1.57),2.43(0.98-6.03)


◇ 結論
日本人一般住民を対象に,喫煙状況と認知症および各病型の発症リスクについて検討した。その結果,中年期の喫煙と高齢期の喫煙は,いずれも認知症の発症リスクと有意に関連しており,とくに中年期の喫煙はアルツハイマー病および血管性認知症の発症リスクとも有意に関連していたが,中年期・高齢期を問わず禁煙者の認知症発症リスクは喫煙未経験者と同等であった。中年期から高齢期にかけての喫煙状況の変化ごとにみると,喫煙を継続していた人では非喫煙のままだった人より認知症の発症リスクが高かったが,中年期に喫煙していても高齢期にやめた人ではリスクの増加はみられなかった。以上の結果より,認知症予防の観点からも禁煙が重要であることが示唆された。


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