[2016年文献] 1986~2014年にかけて,剖検例における認知症およびアルツハイマー病の有病率が増加
日本人一般住民の剖検例において,病理学的に診断した認知症有病率は,1980年代後半から2010年代前半にかけて有意に増加していた。病型別にみると,アルツハイマー病および神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は有意に増加していたが,血管性認知症およびレビー小体認知症については有意な増加はみられなかった。これらの結果は,臨床的な診断による認知症やアルツハイマー病の増加を報告した先の研究結果を裏付けるものといえる。
Honda H, et al. Trends in autopsy-verified dementia prevalence over 29 years of the Hisayama study. Neuropathology. 2016; 36: 383-7.
- コホート
- 1986~2014年の29年間に死去し,剖検された1266人(男性667人,女性599人)。
死亡時期による以下の5つの区分を用い,病理学的に診断した認知症およびその各病型(アルツハイマー病[AD],血管性認知症[VaD],レビー小体認知症[DLB],および神経原線維変化型老年期認知症[SD-NFT])の有病率の推移を検討した。
1986~1991年(第1期): 257人(男性139人,女性118人)
1992~1997年(第2期): 268人(138人,130人)
1998~2004年(第3期): 318人(170人,148人)
2005~2011年(第4期): 296人(154人,142人)
2012~2014年(第5期): 127人(66人,61人) - 結 果
- 死亡時の平均年齢は78.5歳(男性75.9歳,女性82.2歳)で,第1期(76.2歳)から第5期(84.3歳)にかけて高くなっていた。
◇ 認知症有病率の推移
剖検により病理学的に診断された認知症は,1266人中389人(有病率30.7%)。
経年的な推移は以下のとおりで,第5期では第1期にくらべて有意に高いことが示された(P<0.001)。この傾向は男女別にみても同様であった。
第1期: 28.4%(男性23.7%,女性33.9%)
第2期: 22.4%(15.2%,30.3%)
第3期: 32.1%(19.4%,46.6%)
第4期: 30.1%(18.2%,43.0%)
第5期: 51.2%(47.0%,55.7%)
認知症有病者の死亡時平均年齢は,第1期(85.3歳)から第5期(88.8歳)にかけて有意に高くなっていた(P=0.045)。
◇ 病型別の認知症有病率の推移
病型(アルツハイマー病[AD],血管性認知症[VaD],レビー小体認知症[DLB],神経原線維変化型老年期認知症[SD-NFT])別にみた認知症有病率の推移は以下のとおり。ADとSD-NFTについては,第5期で第1期に比して有意に高いことが示されたが(いずれもP<0.001),VaDとDLBについては有意な変化はみられなかった。この結果は,男女別にみても同様であった。
第1期: AD 15.2%,VaD 10.9%,DLB 2.7%,SD-NFT 1.2%
第2期: 11.9%,12.3%,5.6%,1.1%
第3期: 17.3%,13.2%,5.3%,1.3%
第4期: 20.6%,7.4%,3.4%,1.7%
第5期: 33.1%,7.9%,5.5%,11.0%
◇ 結論
日本人一般住民の剖検例において,病理学的に診断した認知症有病率は,1980年代後半から2010年代前半にかけて有意に増加していた。病型別にみると,アルツハイマー病および神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は有意に増加していたが,血管性認知症およびレビー小体認知症については有意な増加はみられなかった。これらの結果は,臨床的な診断による認知症やアルツハイマー病の増加を報告した先の研究結果を裏付けるものといえる。