[2017年文献] 蛋白質摂取量が多い人ほど脳卒中発症リスクが低い

蛋白質摂取量と脳卒中リスクとの関連について検討した。40~79歳の地域一般住民を19年間追跡した結果,総蛋白質の摂取量が多いほど,脳卒中と脳内出血のいずれについても発症率が低くなる有意な関連がみとめられた。また,植物性蛋白質の摂取量が多いほど,脳卒中および虚血性脳卒中の発症率が低くなる有意な関連がみとめられた一方で,動物性蛋白質の摂取量が多いほど,脳内出血の発症率が低くなる有意な関連がみとめられた。蛋白質の摂取量を増やし,動物性蛋白質と植物性蛋白質をバランスよく摂取することは,脳卒中の予防に効果的である可能性が示唆された。

Ozawa M, et al. Dietary Protein Intake and Stroke Risk in a General Japanese Population: The Hisayama Study. Stroke. 2017; 48: 1478-1486.pubmed

コホート
1988年の健診を受診した40~79歳の2587人(参加率80.2%)のうち,脳卒中または冠動脈疾患既往のある85人,食物摂取頻度調査票への回答がない50人,エネルギー摂取量が現実的な値ではない 48人,追跡開始前に死亡した4人を除いた2400人(男性1017人,女性1383人)を,1988年12月から2007年11月まで19年間追跡した。

蛋白質の摂取量については,半定量的食物摂取頻度調査票(70品目)を用いた1日あたりの摂取量に基づき,四分位により以下の4つのカテゴリーに分類した。

総蛋白質
Q1: 50.0 g未満(600人),Q2: 50.0~55.5 g(600人),Q3: 55.6~61.4 g(600人),Q4: 61.5 g以上(600人)

植物性蛋白質
Q1: 30.0 g未満(600人),Q2: 30.3~34.0 g(600人),Q3: 34.1~38.9 g(600人),Q4: 39.0 g以上(600人)

動物性蛋白質
Q1: 16.1 g未満(600人),Q2: 16.1~20.2 g(600人),Q3: 20.3~24.9 g(600人),Q4: 25.0 g以上(600人)
結 果
◇ 対象背景
蛋白質の摂取量が多いカテゴリーほど有意に高い値を示したものは,年齢,女性の割合,血清総コレステロール,HDL-C,BMI,日常的に運動する人の割合で,有意に低い値を示したものは,拡張期血圧,心電図異常の割合,喫煙習慣がある人の割合,アルコール摂取の習慣がある人の割合であった。

追跡期間中の脳卒中発症は254人,そのうち虚血性脳卒中は172人,脳内出血は58人,くも膜下出血は24人であった。

◇ 蛋白質の摂取量と脳卒中発症率
総蛋白質の摂取量のカテゴリーごとの脳卒中,ならびに各病型の性・年齢調整発症率(1000人・年あたり)は以下のとおりで,摂取量が多いほど脳卒中および脳内出血の発症率が低くなる有意な関連がみとめられたが,虚血性脳卒中については有意な関連はみとめられなかった。
また,植物性蛋白質の摂取量が多いほど脳卒中および虚血性脳卒中の発症率が低くなる有意な関連がみとめられ,動物性蛋白質の摂取量が多いほど脳内出血の発症率が低くなる有意な関連がみとめられた(*は有意な関連がみとめられたもの)。

・総蛋白質
  脳卒中:[Q1]9.6,[Q2]7.8,[Q3]6.0,[Q4]7.0(P for trend=0.03)*
  虚血性脳卒中: 5.6,5.9,3.6,5.3(P for trend=0.23)
  脳内出血: 3.3,1.5,1.5,1.1(P for trend=0.008)*
  くも膜下出血: 0.7,0.4,0.9,0.6(P for trend=0.80)

・植物性蛋白質
  脳卒中: 9.3,6.9,7.3,6.0(P for trend=0.01)*
  虚血性脳卒中: 6.7,4.9,5.2,4.1(P for trend=0.049)*
  脳内出血: 1.7,1.3,1.6,1.4(P for trend=0.23)
  くも膜下出血: 1.0,0.8,0.5,1.1(P for trend=0.36)

・動物性蛋白質
  脳卒中: 8.3,6.7,6.6,7.4(P for trend=0.51)
  虚血性脳卒中: 5.1,4.6,4.6,5.6(P for trend=0.71)
  脳内出血: 2.9,1.1,1.1,1.3(P for trend=0.01)*
  くも膜下出血: 0.2,1.0,0.8,0.6(P for trend=0.46)

◇ 蛋白質の摂取量と脳卒中発症リスク
蛋白質の摂取量のカテゴリーごとの脳卒中ならびに各病型の発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)で,有意な関連がみとめられたのは以下のとおりであった。

いくつかのカテゴリーについてQ1に比した有意なリスク低下がみとめられるとともに,脳卒中または脳内出血では多変量調整後も,摂取量が多いほどリスクが低くなる有意な負の関連がみとめられた。
脳卒中または虚血性脳卒中については植物性蛋白質の摂取量が多いほどリスクが低くなる有意な負の関連がみとめられ,脳内出血では動物性蛋白質の摂取量が多いほどリスクが低くなる有意な負の関連がみられた(年齢,性,高血圧,糖尿病,総コレステロール,蛋白尿,心電図異常,BMI,喫煙習慣,アルコール摂取,習慣的な運動,総エネルギー摂取量で調整)。

・脳卒中
 総蛋白質(P for trend=0.04)  
  Q1: 1.0(対照),Q2: 0.76(0.54-1.08),Q3: 0.61(0.42-0.89),Q4: 0.72(0.50-1.02)

 植物性蛋白質(P for trend=0.01)  
  1.0,0.75(0.52-1.08),0.76(0.53-1.09),0.60(0.41-0.88)

・脳内出血
 総蛋白質(P for trend=0.01)
  1.0,0.48(0.23-0.97),0.48(0.23-0.99),0.37(0.17-0.80)

 動物性蛋白質(P for trend=0.03)
  1.0,0.45(0.21-0.93),0.53(0.26-1.08),0.47(0.23-0.96)

・虚血性脳卒中
 総蛋白質(P for trend=0.22)
  1.0,0.94(0.62-1.43),0.59(0.37-0.95),0.86(0.56-1.33)

 植物性蛋白質(P for trend=0.046)
  1.0,0.75(0.48-1.18),0.77(0.50-1.20),0.60(0.38-0.95)

◇ 蛋白質摂取と食品群との相関係数
ほかの食品の摂取量について,総蛋白質,植物性蛋白質および動物性蛋白質のそれぞれの摂取量との相関がみられるかどうかを検討した結果,正または負の相関がみとめられたのは以下の食品であった(**相関係数0.20以上または-0.20以下)。

・正の相関
 大豆・大豆製品:[総蛋白質]0.63**,[植物性蛋白質]0.81**,[動物性蛋白質]-0.03
 緑黄色野菜: 0.27**,0.27**,0.08
 その他の野菜: 0.29**,0.29**,0.07
 海藻: 0.27**,0.25**,0.09
 魚: 0.48**,-0.13,0.70**
 肉: 0.15,-0.18,0.35**
 卵: 0.24**,-0.06,0.34**
 牛乳・乳製品: 0.30**,-0.07,0.42**

・負の相関
 米飯: -0.47**,-0.21**,-0.38**
 アルコール: -0.28**,-0.28**,-0.06

◇ 結論
蛋白質摂取量と脳卒中リスクとの関連について検討した。40~79歳の地域一般住民を19年間追跡した結果,総蛋白質の摂取量が多いほど,脳卒中と脳内出血のいずれについても発症率が低くなる有意な関連がみとめられた。また,植物性蛋白質の摂取量が多いほど,脳卒中および虚血性脳卒中の発症率が低くなる有意な関連がみとめられた一方で,動物性蛋白質の摂取量が多いほど,脳内出血の発症率が低くなる有意な関連がみとめられた。蛋白質の摂取量を増やし,動物性蛋白質と植物性蛋白質をバランスよく摂取することは,脳卒中の予防に効果的である可能性が示唆された。


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